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冒険者ギルドに登録する

「ありがとうなフローリア。おかげで助かった」


「コーイチは命の恩人なんだから、あの程度の端金は別にいいわよ」


 結局、身分証明書を持っていなかった浩一は、街に入るために身分を保証してくれる人物と、わずかな金額が必要だった。どちらもフローリアが請け負ってくれた。

 街の入り口には、軽装鎧を身につけ手に槍を持った男が二人立っていた。その男達に声をかけられたところでフローリアが動いてくれたのだ。

 フローリアがなにかカードのようなものを提出した上で浩一のことを保証する旨を告げると、男の片方が差し出したなにか透明で球形の物体に触れさせられた。すると一瞬光ったが、それだけだった。

 その後は男達から解放され、フローリアの指示に従って街の中に入る。


「なあ、あの透明な玉ってなんなんだ?」


「……あなた、どんな環境で生きてきたの?」


 質問に質問で返される。もしかするとあの玉は、この世界の人にとっては常識的なものなのだろうか。


「悪い。ずっとド田舎に住んでたもんで」


「そうなの? それなら仕方ないのかしら。……あれはね、触れた人の犯罪歴を調べる魔導具なのよ」


 まどうぐ。魔導具。それがマジックアイテムのことだと、女神に与えられた情報から判断する。


「へえ、そんなのがあるんだ」


 どういう仕組みなのかはわからないが、それは便利だろうなと思った。果たしてどうやって判別しているのだろうか。浩一にはまったくわからない。

 しかし、それを誤魔化すマジックアイテム……魔導具というものも存在したりするのだろうか。ありそうな気がする。そういうものがイタチごっこなのは、きっとどこの世界でも同じだろうから。


「で、だけど。コーイチ、当然宿に泊まるお金も無いわよね?」


「ああ、もちろんだ」


 胸を張って答えると、フローリアがまた溜め息をついた。


「じゃあまず、冒険者ギルドに登録しましょうか。身分証明書にもなるし、魔剣使いなら依頼をこなしてお金を稼ぐのも簡単でしょうし」


 そこで浩一は、自分がこの世界でのこれからのことをほとんど考えていなかったことに気付いた。とりあえず街を目指そうとは思っていたが、その先のこと……この世界でどうやって生きていくか。それをまったく考えていなかった。

 異世界に召喚され、チートをもらったという現状に対し、ちょっと浮かれすぎていたかもしれない、と反省する浩一。


「ありがとうフローリア。助かるよ」


「別にいいわ。命の恩人だし、あなたのように有望な人が冒険者になってくれたら回り回って私も助かることもあるでしょうし」


 そんなものだろうか。よくわからないが、浩一はもう一度フローリアに礼を言っておいた。



     *   *   *



 フローリアに連れてこられた建物は、西部劇に出てくる酒場をレンガで作ったような見た目だった。建物外観上部にある看板には見たことの無い文字が書いてある。……なんと書いてあるか理解出来ない気がしたが、目で見た一瞬後に意味がわかった。『冒険者ギルド・アリアード支部』と書かれている、らしい。

 どうやら、この世界の文字が読めるように女神がなにかしらやってくれたようだ。

 フローリアが両開きのスイングドアを開けて中に入るのに浩一も続く。中は、まさに西部劇の酒場そのものだった。違うのはカウンターの向こうにいるのがバーテンではなく、きちっとしたスーツを着た女性が多い、というところだろうか。

 多分受付けだろう。そういった仕事は女性が主なのは、地球も異世界も同じなのだろうか。

 その受付けのひとつにフローリアが向かったので後についていく。


「ちょっといいかしら」


「はい? ……あ、フローリアさん! 無事だったんですか!?」


 フローリアの顔を見た途端、その受付け嬢が驚いた顔で安否を尋ねてきた。


「……ええ、まあ、もちろんよ」


「さすがです、やっぱりランク8ともなるとすごいんですね。あの、それでその一緒だった連中は……」


「に、逃げ足だけは一流でね。惜しくも逃がしてしまったわ」


 肩をすくめ、やれやれといった感じで告げるフローリア。涼し気な表情。しかし、額には冷や汗が浮かんでいる。

 自分が助けた時の状況と、今の会話の食い違い。そこは突っ込まない方がいいんだろうな、と浩一は察することにした。この世界の常識はなくとも、気遣いは出来る男である。


「……私があの連中を連れて街を出るところ、どれくらいの人が見たのかしら」


「番兵の方が万が一にと教えに来てくださっただけです。ガラの悪い連中に騙されてるんじゃないか、と。私達は、ランク8の冒険者なので心配ない、と仰ったんですけどね」


「……ええ、そうね」


 浩一の顔の筋肉は、これまでの人生で最大の努力を必要としていた。感情を表情に出さないように。


「ま、それはいいわ。それより、途中で偶然出会ったこの子、ギルドに登録してもらえる? 素性なんかは私が保証するから」


 その言葉に、受付け嬢が浩一を見る。


「ええと、はい。登録ですね? では、こちらの書類に必要事項をご記入ください。必要でしたら代筆も請け負いますので」


 差し出された書類を見ると、なにが書いてあるか、どう書くべきかがなんとなくわかる。


「代筆は必要ないみた……必要ありません」


 答えつつ、書類と一緒に渡された羽ペンで必須事項を埋めていく。名前、年齢、レベル、出身地、所持スキル……。

 それを見た浩一は、ここで初めて「レベルやスキルの概念はこの世界では一般的である」ということを知った。


「あ、所持スキルは書けるものだけで結構です。また、ギルドへの登録は今回が初めてでしたら、レベルはわかりませんよね? その場合は未記入で構いませんので」


 そう言ってくるが、レベルは1だとわかっているのでそのまま記入する。スキルはフローリアに言ったものや見せたものを含めて剣術・光魔法・召喚魔法を記載した。なにがあるがわからないので、他は伏せておく。そして出身地は、日本と書いた。どこなのか聞かれたら山奥とでも答えればいいだろう、と決める。


「こんなところかな」


 書き終わった書類を受付け嬢に渡す。


「はい、ありがとうございます。……わあ、剣術だけじゃなくて光魔法と召喚魔法も……! これはすごいですね!」


「え、そうなんですか?」


 比較対象が無いので、浩一にはわからない。フローリアをじっと見ても名前・年齢・レベル・冒険者ランクはわかったが、それ以外は不明だった。


「そうですよ! 登録の時点で3つもスキルを持ってる人なんて、滅多にいないんです! しかも、習得者が少ないと言われる光魔法も……すごいです!」


 受付け嬢は盛り上がっている。だが、早いところ手続きを終えてほしい浩一は、少し面倒くさくなってきていた。

 そしてそれを察したのか、受付け嬢はハッとして頭を下げる。


「ご、ごめんなさい! すぐに手続きしますので!」


 言うと受付け嬢は、浩一が書いた書類の上に横長の棒を置き、それを書類の上部から下部へと滑らせた。


「あれはなんだ?」


「……ああ、あれはスキャナっていう魔導具よ。ああやってあなたが書いた書類に使うと――――」


 次の瞬間、書類が名刺サイズのカードへと変化した。


「あんな風にギルドカードに変わるの」


 その変化があまりに急だったため、浩一は言葉に詰まった。書類が一瞬でカードになったのだ、無理もあるまい。


「はい、お待たせしましたコーイチさん。このカードが今後、あなたの身分証明書となります。このカードにはあなたを表す個人情報がいくつも入っていますが、特殊な魔導具を使わない限り誰かに勝手に読まれるようなことはありません。ですが魔導具に関する技術の粋が込められたものですので、決して無くさないように気をつけてください。今回は無料ですが、再発行には1000ゴールドいただきますので」


 と、受付け嬢の説明とともに直接手渡される一枚のカード。クレジットカードくらいの厚みがある。


「……なんか折っちゃいそうで怖いな」


「あ、そういう方には専用のカードケースもご用意しております。お値段は500ゴールドになります」


「それももらっておくわ」


 言い、代わりに500ゴールドを出してくれるフローリア。

 ちなみに、女神に与えられた情報によると金銭価値は、数字を10倍するとちょうど日本円と同じくらいの価値になる感覚らしい。つまりカードケースは5000円だ。ぼり過ぎではないだろうか。


「これ、ミスリル製でかなり頑丈に造られているのよ。ひとつひとつ職人が造ってるらしいし。だからどうしても値が張るのよね」


 浩一の表情を読んだのか、フローリアがギルドをフォローする。

 なるほど、と浩一も納得する。とにかく高くなる理由があったらしい。

 受付け嬢に手渡されたカードケースにギルドカードを収め、それをズボンのポケットに入れつつ、ポケットの中でインベントリに収納した。


「さて、登録も終わったし。次は宿を決めましょうか」


 言いながらギルドを出ていくフローリアに浩一も慌てて従い、その場を後にした。










6/29   微修正

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