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第三夜

先日、『悪徳商法の傾向と対策』なる特別講習があったのですが、講師の方が

「………あなたたちのような中高生だけでなく、最近は老人が狙われるケースも……」

と言っていました。それに伴って浮かんだ妄想↓

「わしは小学生の水着写真を購入したのになんで女子高生ババアの裸写真が送られてくるんじゃ!!!!」

「悪徳はテメェだ」

いやぁ、ニッポンイイクニ。

深夜、というよりは、既に朝方と呼ぶにふさわしい時刻。 その駐車場には、黒いプリウスが一台停まっていた。

と、車に近づく二つの人影。一人は茶色がかった黒のスー ツを上下に着こんだ若者。もう一人は『赤信号』と書かれたTシャツに身を包んだ少女。

男がエンジンをかけた。エコカー故に、音はほとんどしない。

やがて車は走り出す。BGMを鳴り響かせながら。


==============


「ちょっと」

「さて今回は俺のターンだな。いやー、やっぱ演歌はいい、坂本冬美はいいよ。前回のは夢だな」

「ちょっと」

「『また君ぃにぃ~恋~』」

「ねぇ、ちょっと!」

「『そぉのぉ血ぃのぉ運命ぇ~~』」

「それ演歌じゃないよ!、じゃなくて、ちょ、それ、肩!血!血ぃ出てる!」

「出てねぇよ」

「出てるよ!そこを否定されても困るよ!割りとダバダバ出てるよ!」

「こんなもん蚊に刺されたみてぇなもんだよ」

「そんなキャノン砲みたいな蚊いねぇよ!というか、キャノンだよね!?銃創だよねそれ!?」

「拳銃なんかで俺様が傷つく訳ねぇだろ」

「ディオ様だって効かないだけで傷はつくのに!?銃の種類自分で言っちゃってるし!何、昨日は一体どこに盗みに入ったの!?」

「ヤーさん家。まさか、構成員みんなが銃の手入れ始める寸前に侵入しちまうとはな。いやぁ、参ったね。俺は別に撃たれてねぇけど」

「まさかそこまで語って尚否定するとは思わなかったよ!何でそう頑ななのさっきから!」

「は?お前俺が強がってるとでも言うのか?俺がヤクザごときに遅れをとるとも?お前、それは俺に対する侮辱と受け取っていいんだな?さすがに怒っちゃうぞ?」

「や、だって、水道引いてるみたいになってるし」

「なってません~。このくらいで水道とか言ってたら、本家の水ど………………」

「わあああああああ!!!!!!!」

「……水道に失礼ですぅ」

「今ッ!完ッ全にクラっときてたッ!車もクラッとした!死ぬかと思った!ていうか思ってる!あなた手ぇブルブルし過ぎ!マナーモードか!」

「……………………………」

「マナーモードどころか電源切れたあああああああ!!!!!!え嘘、遺言『水道に失礼ですぅ』!!?マジで!!?何よりも私の命に失礼だよ!」

「………………………………………あ、これ、ホントにやべぇわ」

「遅いいいいいい!!!!そんな最終回のジョーが健康優良児に見えるくらいにやつれるまでに気付くタイミングいくらでもあっただろうがあああああああ!!!!!」

「そういや、お前がそこまで叫ぶの初めて聞いたな」

「なんで余命を受け入れたドラマの主人公みたいな声音!?勝手に悟んないで!?」

「でも、真面目な話、救急車呼ぶわけにもいかねぇしなぁ。泥棒だってバレないにしても、銃弾食らってる訳だし」

「いや、真面目な話って、私最初から大真面目だったんだけど……本気で命掛けだったし……もういいや、なんか。でも、あれじゃない?普通泥棒なんてやってたら、知り合いの闇医者的な人がいるもんだよね?」

「いや、いる事はいるんだが……」

「じゃあ行こうよ」

「怪我重くされても敵わんし……」

「それ医者じゃないよ?」

「前、ヘラブナの改造人間にされかけた」

「闇医者っつうか、闇そのものじゃん。しかも、何でよりにもよってヘラブナ?」

「でも、背に腹は替えられないからなぁ、行くしかないか」

「いややめようよ。本当に背と腹を替えられる事態になるよ。改造されちゃうよ」

「いや、俺はやると言ったらやる」

「何で今回は一貫して頑固なの。………………でも、仕方ないか。このままだと私も事故って巻き添えくらうし。いいや、行っちゃって。そしてヘラブナにされちゃって。ちなみに、どんくらいかかるの?」

「次回一杯使ったら着くかな」

「じゃ、次回もいっぱいお話しようね☆…………意識がトばないように」


================


まぁ、初恋なんてものは、大抵の場合失恋に終わる。ましてその相手は、放っといたら勝手に他所ん家で死んじゃうような危ない職業の奴で、あまつさえ、ありえないくらいの歳の差だからなおさらだ。

他人の目には、それは幼児が、たまに家に訪れる親戚のお兄さんに対して抱くような、恋というより憧れに近い感情と同質に映るかもしれない。確かに、ビジュアル的にはまさしくその通りの現象だろう。

だけど、私ははっきりと、これは恋だと言える。


思えば、第一印象で、庇護欲をかきたたせ過ぎた事も、あなたが私を娘のようにしか思っていない原因なのかもしれない。あの時、もう少ししっかりと振る舞っていたら、あるいは妹くらいで食い止められたかもしれない。いや、食い止めるってなんだよ。

だけれど、仕方ないだろう。

昨日まで笑顔で語りかけてくれていたお父さんとお母さんが、脳味噌を垂れ流しながら横たわっていたら。

だけど、仕方ないでしょ。

昨日まで私の世話をしてくれてた人達が、もう、家族だと思いかけていたような人達が、自分に銃口を押し付けてきたら。

けど、しかたないよね?

昨日まで人間について信じていた、道徳の教科書に載ってるようなあれやこれが、まさか、本の見た目通りに、薄っぺらで表層的なものだったなんて知ったら。

子供の頭なんて、簡単にパンクしてしまう。

恐怖とか、そんな感じのモノで。

だから、しかたないよね?

そんな場面から、まさに漫画みたいに、それこそ奇跡みたいに、劇的に助け出されてしまったら。

その助けた相手を、どうしようもなく好きになってしまっても、しかたないよね?


このタイミングでこんな事を考えてみたのは、このまま片想いを続けて、気付いたら数年経っていて、そしていつか、あなた以外の誰かと結婚することになるのなら、このままあなたとこの黒い車と一緒に、何処かに突っ込んでオシャカになってしまうのも悪くないかもと、実は密かに思ったからだ。

まぁ、なるべく死にたくはないけどね。


「じゃ、次回もいっぱいお話しようね☆」

あなたと話しているだけでも、私は幸せだから。

今はまだ。

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