始まりの分岐点 2
千紗と美紗の様子から察するに森野家と川崎家との間で何かがあったらしい、そして僕だけがその情報から取り残されているようだ。
と、なればやすべき事は一つだけである。
僕は二人に少し待つように伝えると廊下にでて電話を掛けた。
「も~拓ちゃんこんな朝早くからな~に?お母さんちょっと寝不足なだけど~」
4~6回コールしてやっとでたかと思えばこれである。
「な~に?じゃね~よ!今家に千紗ちゃんと美紗ちゃんが来てんだけどどうなってんの?」
「どうなってるも何も今日が引っ越しの日なんだから家にいるのは当たり前でしょ」
さっぱり分からない。
引っ越し?当たり前?この母親は何を言ってんだ?
「なんのこと?」
心の中ではこの数倍のはてなが浮かんでいたが僕が口にしたのはこの一言だった。
そして、この問い対する母の答えに僕は自分の耳を疑った。
「なんのこと?って何言ってんの?今日からあの二人あなたとその家で暮らすんじゃない」
「え?え~~~~~~~~~~~~~?!」
この後、落ち着きを取り戻した僕は全ての経緯を母から聞いたのだがその話をするにはまずうちと森野家について話さないといけないだろう。
先ほど言ったとおり家の父と森野のおじさんは会社の同僚である。二人が勤めているのは大手の貿易会社である。しかも二人のいる部署は出張や転勤が多く家にいる時間はほとんどない。そのため家族サービスの時間がほとんど無かった。その帳尻を合わせるために二人が思いついたのが年の近い子供同士を母親にまかせて遊ばせる、というものだった。そのためいつもまとまった休みにはふた家族揃って(父親抜きで)遠出をしたりキャンプをしたりした。その結果僕達は本物の兄弟みたいに仲良くなった。
うちの父親と森野のおじさんは三年前海外に転勤になった。別々の場所へだが7~8年は日本に帰ってこれないというのは両者共同じだった。
うちの場合はかねてから海外で暮らしたいと言っていた母が嬉々として父に付いてまだ中二だった僕を置いて行ってしまった。まぁ生活費や学費は余るほど送ってくれたし家事も自分で出来るのであまり不便ではなかった。
しかし、森野家の場合はもっと大変であった。
この転勤が決まる一年前つまりいまから四年前、千紗と美紗のお母さんが亡くなったのだ。そのため、小学生だった二人はお父さんの実家へ引っ越していった。だから、それまで毎週のように会っていた僕らは離れ離れになってしまった。
ここまでが僕の知っている昨日までのことことである。
そして、ここからが母に聞かされた今日のこと、そしてこれからのことである。