僕の居場所(2)
ある日の朝。テーブルに置かれた新聞を開く。新聞を読むといってもテレビ欄とスポーツ欄を目で流すくらいだ。結果面白そうな番組や記事が無い朝は少しガッカリする。その日もそんな朝だった。
ふとテレビ欄の横の広告に目が留まった。そこには「新人オーディション願書募集」という文字が大きく躍っていた。そしてこの夏の昼ドラで見覚えある新人の女優や子役の写真が数名並んでいる。どうやら芸能プロダクションのタレント養成スクールらしい。
「養成所かぁ……」
その時、僕の中で大きな衝動が駆け巡ったのだった。そして気がつくとその広告に僕の目は釘付けになっていた。見ると所定の書類を提出し、二度の書類選考の末、合格者にはプロダクション主催の無料オーディションへの参加資格が与えられるという。
「お金かからないなら送ってみようかな」
自分でも驚く行動力だった。僕は履歴書を買ってくると必要な事を書き込んでいく。するとほとんど白紙に近い履歴書が出来上がった。それもそうだ。学歴など小学校卒業と中学校入学くらいしか書くことがない。かといって幼稚園卒園など流石に気が引けて書く気にならない。おまけにそろばんなど習い事もやってこなかっただけに、世間的に認めてもらえそうな資格や特技なんて一つも持っていない。
「あ、そうか」
何の取り柄もない奴でも、この世界は手を広げている。そう考えることで気が楽になった。僕は意気込みを示そうと志望動機の欄いっぱいに想いを書き込んだ。そこしかアピールできる場所が無く、でも、そこが何も無い自分を示すことのできる場所だったから。
履歴書を書き終え、アルバムから適当な写真を選び終えるとそれらを白い封筒に入れた。あとは切手を貼って投函するだけだ。
「母さんくらいにはこの事を言っておこうかな……」
一瞬そう思ったが、もし書類選考で落ちてしまったら顔から火が出るほど恥ずかしい話だ。僕は親には何も告げない事にして家を出るとその封筒を近くのポストに放り込んだ。ポストの蓋がパタンと閉じた時、どこからか変な達成感が僕の胸に沸いてきたのだった。