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―2-4―「そこは似て異なる別世界」

 僕が隣の関西男に絡まれている間、坂野先生に退席を命じられた二人は何度も謝罪し、先生から部屋に留まることを許してもらうと、彼らはスゴスゴと席に戻っていく。


「まったく、前途多難も良い所ですねこのクラスは。初日からクラスは間違える。遅刻はする。幼稚園以下の人間の集まりですからね。まぁ、期待はしません。せいぜい頑張ってください」


 坂野先生は呆れた顔で僕と隣の関西男に目を送る。すると関西男は僕の左足を横から軽く蹴りながらブツブツとこぼしはじめた。


「オイ、なんやねんあの言いぐさ。それにアレ、オーディションの時の演技指導のオッサンやんけ。あんな奴に『笑い』の何が分かるんや。そんなんが先生って関西じゃあり得ん話やで。なぁお前、そう思わへんか?」


「いや……、えっと……」


 その関西男は坂野先生に聞こえてもいいとばかりの声で僕に愚痴をこぼす。しかも先ほどからしたたかに足を蹴られ続けている。こっちにとってはアンタがあり得ない存在だ。


「来週からは発声、ダンス、日本舞踊、演技と、丸一日ハードなスケジュールになりますからそのつもりで。そして、それらの授業が終わり次第、早速一回目の発表会を開きます」


 発表会という言葉に僕はドキッとした。まさか初日から皆の前でお笑いをやれとでも言うのだろうか。すると、隣の関西男がおもむろに手を挙げた。


「はいはーい。センセー、発表会ってネタのですかぁ?」


「……そうですね」


 やはりそうだった。レッスン初日からネタの発表会。与えられた台本を読んで芝居をするならまだしも、今まで人を笑わせようなどと考えた事も無い僕が、何をどう発表しろというのか。


 不安が押し寄せる僕の心など当然知る由も無く、隣の関西男は意気揚々と坂野先生に続けて問いかける。


「それって何やってもええんですかぁ?」


「そうですね。犯罪以外は何でも結構」


「よっしゃ。面白そうやんけ」


 何を一人で息巻いているのか。関西男は腕組みするとやる気満々の表情を浮かべている。よほど笑わせられる自信があるようだ。だが、おかげでそれ以降は足を蹴られずに済むのだった。


「君は……浜谷君だね。威勢の良さは結構だが遅刻しないように」


「はーい」


 全く反省のかけらもない返答の関西男。坂野先生も流石に呆れた様子だ。その後、一通りの説明を終えると、坂野先生は「では来週」と、さっさと部屋から引き上げてしまった。それと同時に生徒たちも足取り重く部屋を後にする。


 それにしても感動も薄く、何とも味気の無い入所式。いや、毒気のあり過ぎる入所式だった。こんな所で本当に僕は役者になれるのだろうか……。凹み気味の僕が帰宅しようと立ち上がると、その左腕をグイッと引っ張られた。相手はあの関西男だ。


「お前、来週ネタ書いて持って来いよ」


「はぁ……。えぇっ?」

「ネタ次第ではコンビ組んでやったるからな」


「え、いや、僕はネタなんて」


「お前アホか。ネタも書けん奴が何でここにおんねん! ええからお前のおもろいと思うネタ書いてこいっちゅーねん!」


 そう言い切ると関西男は「カッカッカ」と高笑い発しながら部屋を出て行った。僕はただただその関西男の背中を呆然と眺めるしかなかった。


 新しい自分の居場所を求め、芸能界と言う華やかなる世界の扉をノックした僕。でも、そこは同じ芸能界と言っても、かなり別世界の扉をノックしてしまったようだ。


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