-15- 合格通知
オーディションから二週間後、リビングで昼寝をしていた僕は雪菜の大声でたたき起こされた。
「兄ちゃん! 兄ちゃん!」
「うるさいな。何だよ……」
「着たよ! 『フェイス・アクト』から! ほらっ!」
「あ……」
白いA4サイズの封筒。真ん中に大きめの直筆で奥村光弘様と書かれている。それは『フェイス・アクト』からの面接結果通知だ。どうせ落選の知らせだろうと最初は思った。その封筒の大きさと厚みを見るまでは。
「え……? え?」
僕は急いで封筒を開いた。それでも慎重に、破らないように開封した。ひょっとすると、これから一生大切にしておかねばならない、そんな重大な知らせかもしれないからだ。
「これ……え? ウソだろ」
そして、僕がその結果を読みきるまでに、雪菜が嬉しそうに口にした。
「おめでとう、兄ちゃん」
「……ん、ありがとう」
「お母さんに知らせてくるね!」
雪菜はドタドタと二階に居る母さんの下へと階段を駆け上がっていく。僕はその間、何度も何度もその合格通知を眺めていた。何かの間違いか。いや、確かにその金縁で彩られた証書には、『合格』の文字がある。まぁ、まさか金縁に『不合格証書』なんて書いて送ってくる嫌味なことはしないだろう。
この二週間、諦めようと必死だった新しい居場所への扉。今それがまさに開かれようとしている現実を、僕は静かにかみ締めていたのだった。
「やったな、光弘」
その日の夕食、家族からの祝福に僕はただ苦笑いを浮かべた。合格証書を見て何時間経っただろう。今にしてもあのオーディションの内容で合格できるとは思えなかったからだ。
「でも、これからが本当の意味でのオーディションみたいなモノだからなぁ。まぁ頑張れよ」
励ましてくれた父さんの言葉で、ようやく僕はその世界を踏み出すスタートラインに立てた気がした。そうだ、まだ僕はスタートすら切っていなかったのだ。
「うん、頑張るよ」
華やかなる世界への第一歩が刻まれようとする。それは自分を変える為に求めてきた居場所。自分で行動に移し、切り拓いてゆく新しい世界。
ただ、自分一人の力だけで、居場所を作る事などできないのだと知ったのは、まだまだ先のことだった。