-14- 妹
家に帰ってきた僕が玄関のドアを開けると、廊下をかけてくる足音が響き渡る。騒々しいその音の発信元は妹の雪菜だった。
「兄ちゃんおかえり! どうだった? オーディション」
今更思い出したくも無い散々だったオーディション。詳しく話すのも面倒くさかった。
「別に……まぁ、それなりに」
僕は、雪菜に目を合わせることなく言葉少なくリビングに向かった。そんな僕の気持ちが分かるはずもない雪菜はしつこく付きまとい尋ねてくる。
「ね、ね、オーディションには誰かいた?」
「誰って?」
「俳優さんとか、テレビに出ている人。審査員で友クンとか来てなかった?」
「友クン?」
「飯田友宏。『フェイス・アクト』所属じゃん」
「そんなの知らねーよ」
「えーっ? だって事務所の先輩になるかもしれない役者サンだよぉ。覚えておかなきゃ……」
「煩いなぁ! もういいだろ。どこか行けよ!」
雪菜の言葉にカチンときてしまった僕は、ついつい怒鳴り声をあげてしまった。驚いた雪菜はふて腐れてしまい、不機嫌そうに自分の部屋へ戻る。すると、リビングでテレビを見ていた母さんがボソッと言った。
「ちょっと冷たいよ。今の言い方」
「……」
「雪菜はね、今日ずっとアンタの事を心配していたんだからね」
「え……?」
「後で謝っておきなさいよ」
母さんの言葉、その時の僕は素直に受け止められなかった。その言葉の重みを、『家族』を受け入れる器を、独りよがりな僕は当然持ち合わせてはいなかったのだった。