-13- 暴君関西男現る
オーディション会場を後にして、ビルの外に出た僕。空を見れば嫌味なほどに真っ青な快晴だ。僕は力なくため息をついた。
「やっぱり俳優なんて……。芸能界なんて向いてないんだろうな」
実生活が地味すぎた僕にとって、芸能界はもうひとつの覆面を被った自分をさらけ出せそうな、そんな華やかなる世界だった。その世界でならば、僕はきっと僕にしかできない何かを残せそうな気がしていたのだ。
新しい自分の居場所を見つける為に受けたオーディションだったはず。でも、やり遂げた充実感や達成感はそこになかった。気づけば一人、僕はビルの玄関先でボーっと立ち尽くしていたのだった。
――ドンッ――
それはいきなりだった。その衝撃で僕はよろけて前のめりに倒れそうになった。
「トロトロ歩くな! 邪魔なんじゃ。ボケッ!」
そんな捨て台詞を残し、肩をいからせ歩いていく関西弁の男。恐らく高校生くらいだろうか。ビルの玄関はそれほど狭いわけでもないのに、わざわざ僕に目掛けて体当たりしたとしか考えられなかった。それでも僕は普段聞きなれない関西弁に威圧され「すいません」と小声で謝るのだった。もちろんそれは本心ではない。
「何だよアイツ……。感じ悪い奴……」
だからと言ってケンカを仕掛けるほど僕は強くない。その男の後ろ姿を、ただ睨みつけるしかなかった。オーディションの不甲斐なさで落ち込む僕に、再び現実の弱さが襲い掛かってくる。
「はぁ……」
ビルを出た時のため息とは、また違う感情の混じったため息だった。それは目に見えるほど白く、冷たく。
しばらく目を充血させ、僕はいつしかトボトボと帰路に着くのだった。