「虚弱戦隊サイジャック」の復活~ファイナルランデヴーの続編始まる?!~
統一暦122年。
あの「ファイナルランデヴー」から5年の月日が流れた。
――
ピリリリ、ピリリリ
「はい、こちら極東地球環境研究所でございます! はい、はぁ……」
頭にワイヤレスブレスレットを付けたオペレーターの若い女性が困った顔をして通信を切断する。
「おい、ちょっとオペレーター37さん、さっきから電話多くない?」
オペレーターの上司らしき男がホログラムを覗き込みながら遠くに問いかける。
「イヤーアームがさっきから鳴りやみません! どのお客様も同じようなことをおっしゃっています」
「ちょっと待ってくれ。相手は何を要求してるんだ? ランサム式のアレが要求されてるのか? こっちは1コインも払えないとだけ言ってやれ」
「いえ……それが、”ヒーローの復活”を望んでいるようです。ウェブからも多くのコールが来ていて、ネットストームアビリティのキャパシティがそろそろオーバーします」
若い女性が樹脂製の応答装置を叩く。
どうやら受信状態が悪いらしい。
「”東欧式”でアームを操作するな。壊れたら君の月給より高い賠償ペナルティがわが社に来るんだぞ! ところで相手は誰を所望だ? 117年に活躍したダークヒーローのピジョンか? それともファルコンか?」
「いいえ」
「あッ!! そうだ分かったぞ、ダークファルコンだろう?!」
「いえ、それが……」
上司は外れたのがよほど悔しかったらしく、頭を抱えている。
「あの”虚弱戦隊サイジャック”の5人だそうです。先月ファクドナルドで起きた”パンピーセット買い占め事件”のあたりからサイジャックの名前が上がってきたようなんですが、先週北米エリアで放映された”Psy jack"が大人気で7億クラウドシェアリングのヒット記録を出して爆発的にグッズの需要が高まっています。北米エリアからも通信が来ていて……」
「では、北米エリアからの要望について課の全員にシェアリングしてくれ。内容を分析しよう」
「承知しました」
ピピピピ……
「こちらニューニューヨーク! マジでやべぇって、この虚弱戦隊サイジャックってやつ。グッズが出たら俺の給料全部課金しても良い! 特にバスジャックはクールだね! マジで推せるって! 今俺の息子の小学校では、サイジャックごっこが流行ってるみたいなんだけど、みんなバスジャックかハイジャックをやるらしいんだ! てことで頼むぜ」
上司の男が映像入りのデータを切る。
「いやいや、こういうのは倫理的にもマズいだろ。しかもウチの前身はかつてヘルモニゲルツ博士と連携してヒーロー、いや怪人を生み出していた組織だってのに、また生み出せなんて」
”ヒーローの元祖は怪人と同じであり、そこからヒーローと怪人に分化した”というのは既に8年前に実証済みだ。
後ろから声がした。
「僕ならそれが実現できるかもしれません」
紫色に染めた髪をツンツンにした分厚いメガネの男、天野が言う。
「何故なら、僕がアマノジャックだからです」
「なッ?!」
この契約社員の男の言っていることは、一応本当だった。
――
「もしもし、こちら無重力ジムVAの担当、斉藤です」
「やあ、天野だけど、今からサイジャック組まない? 研究所から頼まれてさ」
「無理だ。こっちは24時間営業でシフト組んでるし、子供の迎えもやらなきゃいけない。俺たちはもうあのファイナルランデヴーの日から、普通の人間として生活を始めた。「大体、居酒屋いるんだけど来ない?」みたいな軽いノリで言う話じゃないだろ、それ」
――
「はい、品川です。何かご用?」
「やあ、アマノジャックだ。サイジャックシリーズがあちこちで流行ってるだろ? 研究所からの依頼なんだが、どう?」
「嫌よ。こっちはまだ品出しが終わってないんだから、それに、”貧乳のヒンジャック”っていうネーミング、ずっと嫌いだったんだからね。そういう意味でもヒーロー稼業とはオサラバなの。あのさ、通話、他のネットアビリティに勝手に接続されてないわよね?!」
――
「なあ、サイジャック。バスジャックとハイジャックって何してるか分かる?」
「えぇ……そんなのブタ箱に戻ったに決まってるだろ! 犯罪者だぞあいつらは!」
「じゃあ刑務所行って説得するしかないか……」
――
「――ということなんだ。仮出所で良い。ほんの一日で良いんだ。君の華麗なバスジャックとヒーローとしての活躍が世界中で有名なんだよ。みんな夢中さ!」
「それはマジか? おれは無我夢中でバスジャックしただけなんだけどなあ……」
「そうだ! 君の偉業を北米エリアの子供たちが真似して、しまいには大人たちも真似して、大陸中でバスジャックが流行って犠牲者まで出てるらしい」
「いやいやいや……ちょっと待ってくれ。それじゃシャバはブタ箱より地獄ってことじゃねえか!」
「いや、ちょっと考えてくれよ……」
刑務官が合図する。
「はい、5分終わったよ。チミ、下がりなさい」
「ヒェー……!」
――
数時間後。
「どうだったんだね、天野君」
「ダメみたいですね……」
そのとき、オペレーターの女性が受信を確認する。
「天野! 斉藤だ! どうやら一時的にならデータとして”虚弱戦隊サイジャック”を流せることが判明したぞ! 良いか? 5分だけだ。配信のしかたは……」
――
「あれ、天野君は今日は休みかな?」
「どうやら1時間だけ遅れて到着するようです……あれ、課長……通信が……?!」
――待たせたな
サイジャックの声が全世界へと響いた。朝のニュース配信の時間だ。
――サイジャック! ――ヒンジャック! ――アマノジャック!
――バスジャック! ――ハイジャック!
――五人揃って、虚弱戦隊サイジャック!!
――『俺たちは弱いぞ! 今のうちに他のヒーローに依頼を、ヨロシクゥ!!』
ここで決め台詞と決めポーズが決まる。
オォォォォォ……!!!!
――バスジャックファンのみんな、おれのバスジャックスキルを教えてやる。バスジャックってのはまずジャックできそうなバスを探せ。そして運転手に怪我をさせないようにジャックするんだ。良いな、ヒーローってのはこれができることが条件なんだ! それから人質を全員解放してから突入だ。どこに突入するかは、聞くな。良い子のみんなも、今日から楽しいバスジャックタイムを満喫だ!
主に北米エリアから、ネットストームアビリティのメモリをブチ破りそうな激しいバズミックスターダムが起こった。
――ハイジャックだ、ヒャッハァー! 聞こえるかァ? オレァ今、最高にハイ(プチッ)
「はい、5分終わったよ。チミ、下がりなさい」
刑務官の声で、バスジャックとハイジャックの通信が切れ、そして「ヒーローの復活」は5分で終了する。
そして1時間休を取ったアマノジャックは会社に早めに出勤し、またいつもの毎日が始まるのだった。
秋の文芸展向けにノリで短編を作りました。
前作「ファイナルランデヴーを目指して」も読んでいただけると光栄です。




