乙女ゲームのチュートリアルキャラに転生。俺、男なんですが!?
規格外の弟を守るため、兄の私が先に最強になる
「二年Sクラス、ロブル・クストス対二年Bクラス、ヴァッサル・エクスペンダ、用意」
アナウンスに従い、深緑を思わせる髪をなびかせてロブルは闘技場へと入る。夕焼けに照らされ、緑はさらに深い色へと変わった。
髪と同じ色の瞳は相手を見ることも、剣を構えることもなく、どこか気だるそうにしていた。
「どんな手を使ったのか知らんが、日和侯爵家の分際で、お前を倒して俺がSクラ――」
「《ピアッシング・ファイア》」
開始の鐘が鳴った途端、目の前の男子の声を無視して、ロブルは剣を地面に突き立てると右手の人差し指と中指を前に出し魔法を詠唱した。
放たれた蒼炎は、一瞬の煌めきで線を描き男子の持つ剣を真っ二つに破壊する。
「――っ、はぁ!? お、折れ? これは丈夫な?」
「悪いな。その台詞は今回の二学期考査だけでも、もう十人目なんだよ。
聞き飽きたから、降参するか真面目にやるか、さっさと選べ」
混乱する男子を無視して、ロブルは微笑を浮かべ簡潔に主張を述べた。
その強者の余裕に、カッとなった男子は顔を真っ赤にして折れた剣を放って、右手を付き出すと怒りのままに叫ぶ。
「スカシやがってぇ! 《ゲイ――》」
「遅い《ショット》」
「あ、ぁぁああ――!?」
男子が中級風魔法を放つよりも先に、ロブルはただの魔力弾を放ち、男子のふくらはぎを正確に掠めた。
「喚くな。手加減もしたし、即、回復魔法で治せるレベルだろうが」
「そこまで、勝者。二年Sクラスロブル・クストス」
足を抱えてうずくまって泣く男子に、ロブルは呆れ、地面に突き刺した剣を引き抜いた。アナウンスが聞こえて、背を向けると闘技場を後にする。
「……君さぁ、備品壊さないでくれるかなぁ? どやされるの僕なんだけどぉ」
「師匠、だったらもっと模造剣の強度を上げるべきだ。小言の前に、付与魔法での耐久性を見直す方がずっと効率がいい」
ロブルが向かった出口に、影に馴染むように濃紺の服に身を包んだ黒髪のスラリとした細身の男が立っている。
その紫の瞳が、非難するように細められた。
「可愛げが無いなぁ。だったら耐久力テスト、付き合ってもらうよぉ? 学生の身分で壊すのは、君くらいなんだからさぁ」
「学生の、ささやかな自由時間を潰しにかからないでくれませんかね。どうせなら実技の授業中でお願いします」
互いに微笑を浮かべて、廊下を歩く。本日最後の模擬戦ということで、辺りに人は居なかった。観戦は自由ではあるが、誰もロブルをわざわざ観ようとは思わないらしい。
「えぇ。それこそ臨時講師であり忙しい僕の時間を潰してない?」
「もともと、私への興味本位で講師になっておいてよくもまぁ……。それに、実技考査の面目は立ててますよ?」
「ああ、考査の意欲の面ね。AからDの成績順のクラスで下位クラスは上位クラスに挑む資格があって、挑まれた方は断れないんだっけ、懐かしいなぁ……。
君のアレ、あえて瞬殺じゃなくて、剣を折ることで実力差を見せつけ、まだ挑む気があるのか聞くのエグいよねぇ」
かつての学生時代を思い返してか、師匠は楽しそうに声を弾ませている。反対にロブルは面倒そうに息を吐いた。
「ただの能力テストなら、模擬戦にする必要が無い。挑まれた側の魅せ方も見てる学園側の方がエグいと思うけど?
実力主義でありかつ自主性を重んじるってシステムが、日頃から滲みすぎなんだよ」
「ね、後、何試合あるの?」
「今日は終わり。全数は、もう数えて無いな……。Sクラスに上がって余計に増えた気がする」
一週間通して行われる考査、相手が何を思っているのか、下位クラスだけでなく下級生からも多数の申し込みがあった。その試合総数は、二年Sクラス六人の中でも最多を誇る。
観戦者は居ないのに、勝てると舐めた下心しかないその数は、ロブルに得れるものは無く面倒だった。
その日、その日の対戦日時だけを頭に入れている状態だった。
「あぁ。今日のは観てたけど。揃いも揃って日和侯爵とか言ってたねぇ。Sに上がれるのは成績上位六人だけ、実力主義なのを完全に忘れてるよね。
それに勝ったところで、ソイツが即Sクラスに上がれるわけもないのに、馬鹿なのかなぁ?」
「うちは元々国境守護で、国政には関わってませんから。わざと目立って来なかったし、言いがかりも一部、事実は事実ですけど。さすがに聞き飽きたなぁ」
負けた対戦者は口を閉ざし、知らぬ者は名ばかりの実力だろうと侮って挑戦してくる。
他のSクラスのメンツは羨望による手合わせが多い中、ロブルはヘイトを一手に引き受けた形で、いつもその繰り返しだった。
「でも、止めないんでしょ?」
「止めませんね。私という前例があれば、風当たりはマシになる。二人の弟の為なら、幾らでも目立とうじゃないですか。
……それに、低俗な貴族の洗い出しにも丁度いい」
武器破壊もその為の一つの手段である。元々耐久性を上げてあり、普通に交戦するだけでは壊れる仕様に無いからだ。
さらに試合前は相手を知らないが、アナウンスで名前を相手の出方で内面を把握し、試合後は必要とあらば裏で家を脅迫するのも厭わない。
「わぁ、お兄ちゃん怖いねぇ」
弟たちには決して見せないロブルの黒い顔に、師匠はただからかうように笑う。
「師匠も大概じゃないですか。俺を通して末弟を見てるわけで」
「そりゃあ。君の強さの根茎を作った神童君には、一度僕も手ほどきを受けてみたいもん」
末弟は、固有魔法という稀有な力を持って産まれた。その能力の一旦で、ロブルは年齢にそぐわない魔法の技能と既存に囚われない自由な発想を得た。Sクラスになれたのも、それが影響していると思っている。
「はぁ……、今は止めて私で我慢してください。神童と揶揄されて過ごして、末弟はやっと平穏を手に入れたとこだから」
「分かってるよぉ。恩を仇で返したりしないさ。固有魔法は希少で癖が強い、自由でこそ才を発揮するからねぇ」
「なら、事あるごとに言質を取りに来ないでくれませんか。非効率過ぎる」
「えー。可愛い弟子とのただのコミュニケーションじゃないか」
じとりとロブルは睨むが、師匠はどこ吹く風だ。のらりくらりとしているが、油断なら無いのは百も承知だった。
ただ、本人が言うように、過度な接触を控えているのも知っている。家柄、本職ともに、やろうと思えば実力行使する権限を持っているからだ。
「――で、あの最初に武器破壊した、あれ何?」
本題を思い出した、と言わんばかりに師匠はロブルに訊ねる。
「昔話したスライムの核潰しの技の派生ですよ。と言っても、剣だったから火属性を足しただけですけどね。手のひらの面じゃなくて一点強化で放つ原理は同じです」
授業で習う基本の型は、手のひらから魔法を展開する方法だ。そこから上級生に上がるにつれ、出しやすい自分の型を身につけていく。
「その一点強化で絞るのが、すでに非常識なんだけどねぇ。あとあれ、最後のやつもさ」
「魔力弾ってうちでは呼んでますよ。魔法じゃくて魔力の塊を放つだけなので、非殺傷力ってわりと学園で使い勝手良いんです」
指の爪ほどまで魔法を圧縮して威力を上げて打ち出す方法も、逆にただの魔力を放つという考えも、全て末弟のアイデアだった。
ロブルは目立つためにも率先して、この圧縮の技を使うことにしている。
「あれ? 相手カスっただけで怪我してなかった?」
「下級魔法だったら足が吹っ飛んでる。日和侯爵なんて言われたら、非殺傷に火力上げて脅しくらいしておかないと、割に合わないじゃないか」
魔法が好きすぎる師匠に、ロブルは律儀に説明をする。そうすることで、末弟を取り巻く環境をギブアンドテイクで守ってきた。
「本当の規格外が入学をした時に目立ちすぎないよう、散らすのが兄たる私の役目なんだから」
「そう? 君ならもっと上手く立ち回りそうだけどな。嫌われ役だと婚期逃すよぉ。次期当主がそれで良いの?」
「末弟が視た未来を見届けるまで、婚姻はしないと父上にも明言している。
ゆっくり伴侶を決める時間はあるつもりだ。それに次兄のセレスの方が、思慮深くて頼りにもなるしなぁ」
後にその宣言通り、クストスの才華と呼ばれ脚光を浴びることになる少年の強さは、周囲も知らぬ弟への愛が理由だった。
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乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?
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の二章中盤に出てくる主人公の兄、ロブルのスピンオフ短編です。
三章では出番多めで、24話からロブルは兄ブームかましてます。さらに27話からは、キャラ回となってます。
先日、ブクマ50超えたので、お祝いの気持ちで書きました☆




