第十三話 秘めた想い
目覚めると、知らない天蓋が広がっていた。薄暗い室内には静寂が満ちている。
(ここは、どこなの……)
私は、月明かりを辿るように傍らへと視線を向けた。
「テオバルド……」
思わずその名を呟いてしまい、息を止める。
そこには、私に寄り添うように彼が眠っていた。
白い月明かりに照らされた、彫刻のように整った顔。閉じられた唇は──
ふいに思い出してしまった口づけに、私はきつく目を瞑った。
(――私、廊下で……)
同じ深紅のドレスを着ていることに安堵する。
だが、気を失ってどのくらい経ったのかわからない。晩餐はどうなったのだろうか――
傍らを見れば、煌めく銀色の髪が彼の瞼にかかっている。私は、その髪をそっと払った。
「貴方は……」
囁くような声は途切れ、静寂に溶けた。
『貴方は、私を殺すの?』──口に出来ないその問いを、胸の中に閉じ込める。
(マントを着けたまま、寝てしまったのね……)
彼の寝顔が、何故か少年のようにあどけなく見えた。胸の内で小さく笑うと、マントの銀の留め具へと手を伸ばす。
「っ……!」
その時、彼の手が私の手首を掴んだ。腕の中に閉じ込められ、温もりと彼の香りが私を包み込む。
(起きてたの……?!)
腕の中から抜け出そうと身を捩ると、強く抱き締められた。
「皇帝陛下……」
腕の中でそう呼び掛けるも、返事はない。
(まさか、寝惚けて……)
静まり返る部屋の中、耳を澄ますと彼の微かな寝息が聞こえる。
私は、彼の腕の中で静かに息を吐いた。
そのときだった――
「……イーザ……」
鼓動が小さく鳴った。
(今、何と言ったの……?)
聞き間違い、だろうか。
そっと窺い見るも、彼は静かに寝息を立てている。
腕の力は緩まず、私はここから抜け出すことを諦めた。
(温かい……)
安心できる状況ではないはずなのに、何故か不思議と心が落ち着いた。彼の香りと温もりに包まれて、次第に意識が微睡みに溶けていく。
私は、彼の胸に顔を埋めたまま眠りに落ちた――
◇
柔らかな温もりに瞼を開けると、腕の中にはアダルジーザが眠っていた。微かな月明かりに照らされる中で、彼女は無防備に寝息を立てている。
窓の外に昇っていたはずの三日月は、いつの間にか薄明るくなっている空に淡く滲んでいた。
「イーザ……」
そう囁くと、その白い額にそっと口づける。離そうと思った腕は、動かなかった。
(このまま、ここに閉じ込めてしまおうか……)
そんな愚かな考えが、ふと湧き上がる。
華奢な体をそっと抱き締めると、甘い花の香りが漂い、胸が締め付けられた。
(どうすれば、イーザを守れる……)
この城へ連れて来れば、彼女を守れると思っていた。
だが、それは大きな誤りだったのだとすぐに気づかされた。何より最悪な形で──
彼女は、記憶の中と変わらぬ無垢な寝顔のまま、腕の中で寝息を立てている。
その髪を、そっと撫でた。
「……私が、守る……」
──だから、私の前からいなくならないでくれ……。
その願いは、胸の内に押し込むように呑み込んだ。
甘い香りのする黒髪に口づけると、再び瞼を閉じる。だが、とても眠れそうにはなかった――




