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第一話 奪われた花嫁

 ──また、男が一人死んだ。


 私は、大聖堂の冷たい床に座り込んだまま、指先に伝わる生暖かさを感じていた。

 誂えられたばかりの純白のドレスの裾が、赤く滲んでいく。さっきまで傍らに立っていた男の血だ。


「兄上はもういない……これで、貴女は私のものだ」


 見上げた男は満足げに笑っていた。その手に握る銀の剣先からは、鮮血が滴り落ちている。


 聖衣を穢された大司教は女神像の足元で気を失っている。

 大扉を守っている兵たちは、目の前で起きた惨状に立ち尽くすことしかできない様子だ。


 仇の血を引く男との、望まぬ婚礼だった――


 私は、傍らに倒れ伏す男へと視線を向けた。

 戴いたばかりの王冠は赤く染まり、ステンドグラスから差し込む光を弾いている。


「アダルジーザ」


 名を呼ばれて、私は顔を上げた。

 涙は流さない。叫ばない。

 私は、ただの“戦利品”で、奪われる者でしかない――


 その瞬間。轟音とともに扉が破られ、複数の兵が崩れ落ちた。

 冷酷な靴音が空気を裂くように響く。


「──お前が、アダルジーザか」


 響いたのは、冷たく、絶対的な声。

 返事をする間もなく剣が風を斬り、目の前の男は崩れ落ちた。


(誰……?)


 そこに立っていたのは、背の高い銀髪の男だった。

 黒の軍装に黒銀の胸甲を着け、黒いマントを纏っている。血に濡れた長剣を握る姿は、まるで美しい死神のようだ。


 男は、私を見つめると僅かに目を細めた。

 何故か、その瞳の奥に柔らかな光が見えた気がした――


「来い。お前は今から私のものだ」


 血溜まりに座り込む私に、男は手を差し出した。切れ長の赤い瞳と視線が交わり、私はその手を掴む。

 私に拒む権利など、最初からなかった。


 ぐいと手を引かれ、そのまま男の腕に抱き寄せられる。


(──まるで、血のような瞳……)


 見上げた赤い瞳に、私の顔が映し出される。

 その瞬間だった――


「皇帝、テオバルド……」


 思わずそう呟いた私に、目の前の男は薄く笑った。


「……私を覚えているのか」

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