「第9章:眠気の先にあるもの」
クルサとサクヤの戦いが終わり、それぞれは自分のクラスへと戻っていった。
クルサの身体はひどく重かった。先ほどの戦闘の疲労だけではない。昨夜から今朝にかけて、ノイラと過ごした出来事の積み重ねが、確実に体力を削っていた。
一方のノイラも、実は朝から限界だった。
きちんと準備をするどころか、途中で再び眠ってしまい、慌てて食堂へ向かったほどである。
授業が始まると、その疲労は容赦なく二人を襲った。
気づけば、クルサとノイラは同時に机に突っ伏し、短い眠りに落ちていた。
「……ん?」
その静寂を破ったのは、フェン先生の声だった。
「君たち二人、ずいぶん疲れているようだね」
薄く笑みを浮かべながら、フェン先生は続ける。
「昨夜、何か面白いことでもあったのかな? クルサ、ノイラ?」
クルサは思わず跳ね起きた。
「い、いえ……昨夜は特に何もありませんでした!」
ノイラは状況を理解していない様子で、きょとんとした顔のまま口を開く。
「昨日の夜は、結構長く遊びましたよ、先生。時間を忘れるくらい。たしか……五回くらい?」
――パシン。
クルサは自分の額を叩き、静かにため息をついた。
(……ノイラ。今の言い方、どう聞いても誤解される)
その時、シズカが席から立ち上がった。
「私も、昨夜あの二人の部屋から叫び声が聞こえましたよ、先生」
そう言って、クルサに向かって意味深な微笑みを浮かべながら、再び席に座る。
クルサは何も言えなかった。
フェン先生は小さく笑い、手を振った。
「いやいや、説明しなくても大丈夫だよ。もう分かっている」
彼はクルサを見て、どこか楽しそうな表情を浮かべた。
「クルサはチェスの駒を動かすのがなかなか上手だね。そしてノイラも、よく長く持ちこたえた。最終的には負けたようだけど」
声の調子が、ほんの少し低くなる。
「もし妙なことをしていたら……今日は二人まとめて地獄に引きずり込んでいたところだ」
笑っている。
だが、それは冗談とは言い切れない笑みだった。
「……ひっ、こわい」
ノイラが小さく呟く。
フェン先生はパン、と手を叩いた。
「さて。今日の授業だが――少し面白い場所へ行こうと思う」
「どこへですか、先生?」
生徒たちが一斉に尋ねる。
「ダンジョンだ」
フェン先生は即答した。
「この学校から、それほど遠くない場所にあるダンジョンだ」
「ダンジョンって何ですか?」
数人の生徒が首を傾げる。
「巨大な多層構造の洞窟だ」
フェン先生は説明する。
「一階層ごとに性質が異なり、上層ほど安全で、下に行くほど危険度が増す。最上階が一階、最下層に近づくほど命の保証はなくなる」
そして続けた。
「今回向かうのは、学校の隣にあるダンジョンの第十一層だ。そこで魔力石について学んでもらう。詳しい説明は、到着してからにしよう」
ツヨシが手を挙げた。
「先生、第十一層に行くには、一階から十階まで全部通るんですか?」
「その通りだ」
フェン先生は頷く。
「私の力では、クラス全員を一気に第十一層へ転移させることはできない。それに……」
一瞬、フェン先生の視線がクルサとツヨシに向けられた。
「まだ力を制御しきれていない生徒も多い。だから、全力は使えないんだ」
「……なるほど」
ツヨシは小さく呟き、席に戻った。
すべてが、あまりにも唐突に進んでいくように感じられた。
だが、ひとつだけ確かなことがある。
フェン先生が用意したこのダンジョンでの授業は――
決して、ただの実習では終わらない。
物語は続く。
次なる章へ。
……べ、別に出来が良いって思ってほしいわけじゃないから。
ただ、ここまで来たら中途半端にする方が嫌なだけ。
次も持ってきなさい。




