「第4章:交差する縁と、気づかぬ想い」
休憩時間が終わり、クルサとノイラは教室へ戻ってきた。
ただ一つ――明らかにおかしな点があった。
二人は、手を繋いでいた。
それを遠くから見ていたリリアナは、思わず小さく呟く。
「……もう手を繋ぐ仲なのね。実に興味深いわ」
そう言って、呆れたように首を振った。
教室に戻ると、フェンが笑顔で迎える。
「おかえり、二人とも」
「はいっ!」
クルサとノイラは、声を揃えて答えた。
「休憩が終わったら、全員一対一で能力試験を行う予定だ。
組み合わせは自由に決めていい」
クルサはノイラに小声で囁く。
「……ノイラ、僕とやる?」
「う、うん……やる」
「フェン先生。僕とノイラで一対一を希望します」
「了解。いいね」
フェンは親指を立てた。
「まだ時間はあるが、校内を見て回らなくていいのか?」
ノイラが小さく尋ねる。
「……見て回る?」
「うん。行こうか」
二人は揃って言った。
「少し、見学してきます」
「行ってこい」
二人が教室を出ると、入れ替わるようにリリアナが入ってくる。
「……見た?」
「見たさ。可愛いな」
「でも、纏っている“気配”は可愛くない」
「気にするな。今はまだ、ね」
フェンは少し考えてから言った。
「……ずいぶん仲がいいな」
「ええ。たぶん――運命よ」
「運命?」
「いずれ分かるわ」
「……気長に待つとしよう」
クルサとノイラは、手を繋いだまま学院内を歩いていた。
広大な回廊。
運動場。
魔法訓練場。
演奏ホール、研究棟――。
その途中、クルサが足を止める。
「……え?」
白い髪、赤い瞳の少女が視界に入った。
「……サクヤ姉!」
クルサは駆け出し、少女は驚きながらも両手を広げる。
次の瞬間、二人は抱き合った。
ノイラは目を見開く。
「えっ……? クルサ、あの人って……学院で有名な――」
「実はね――」
サクヤが口を開いた、その瞬間。
「サクヤ! クルサ! 久しぶりだな!」
黒髪の青年が駆け寄り、三人で抱き合う。
ノイラは完全に混乱していた。
「ツグミ先輩!? どうしてここに……!?」
三人は顔を見合わせ、笑った。
ツグミが説明する。
「ノイラ。二人は昔からの知り合いだ。
それと――クルサとサクヤは従兄妹だよ」
「じゃあ……サクヤ先輩のフルネームって……」
「ええ。
サクヤ・ヴェイラル。新入生クルサ・ヴェイラルの従姉よ」
サクヤはクルサの肩を軽く叩いた。
クルサがニヤリと笑う。
「……じゃあ、サクヤ姉とツグミ兄の関係は?」
二人は一瞬固まり、手を繋ぐ。
「……付き合ってる」
「やっぱり」
ノイラはまだ動揺していた。
「どうして、そんなに皆仲が……?」
「長い話よ。昔、一緒に遊んでいただけ」
サクヤは花の香りを楽しむように微笑む。
「それより――あなたたち」
サクヤは二人の周りを回り、覗き込む。
「さっきから、手、繋いでるけど?」
クルサとノイラは同時に赤くなり、しゃがみ込む。
先に落ち着いたクルサが言う。
「ただの友達です」
「本当?」
ツグミがノイラをからかう。
「……はい。ただの友達です」
「ふーん。信じない」
「もう、からかいすぎ」
サクヤとツグミは笑い合う。
「でもさ」
ツグミが冗談めかして言う。
「もし二人が付き合ったら、家系的に運命だな」
「……あり得るかも」
クルサの何気ない一言に、ノイラの顔は真っ赤になった。
(……この人、絶対深く考えてない……)
遠くからその光景を見ていたリリアナが、低く呟く。
「……ヴェイラル家とエルドリン家。
まるで吸血の血と、深淵の闇……」
その時、クルサが時計を見る。
「ノイラ、そろそろ戻らないと!」
彼はノイラの手を取り、走り出す。
「えっ……う、うん……!」
「……クルサは、ノイラの気持ちに気づいてると思う?」
ツグミが小声で尋ねる。
「いいえ。でも――お似合いよ。私たちみたいにね」
二人は手を繋ぎ、仲睦まじく去っていった。
――さて。
サクヤとツグミは何年生なのか?
……それは、また別の話。




