「第3章:三分間の試練」
リリアナ先生とクルサの対決――
それは誰の目にも明らかなほど、異常で、そして壮絶なものになる予感がしていた。
クルサはフェン先生のほうを向き、静かに尋ねた。
「フェン先生。短剣や刀、もしくはそれに近い武器はありますか?」
「ちょうどいい。実はここに二振りの刀を持ってきていてね」
「……お借りしてもいいですか?」
「もちろんだ」
フェンはそう言って、二振りの刀をクルサに手渡した。
それを見て、リリアナが口を開く。
「準備はいい?」
「はい、リリアナ先生」
その声は、どこか楽しげだった。
生徒たちがざわめき、誰かが声を上げる。
「いち、に、さん……始めー!」
リリアナは静かに目を閉じ、深く息を吸った。
次の瞬間、彼女の周囲に複数の黒い魔力球が浮かび上がる。
「――これを避けられる?」
「……正直、やってみないと分かりません」
クルサは身体を低く構え、集中する。
「なら、受けてみなさい」
リリアナが指を振ると同時に、黒い魔力球が放たれた。
あまりにも速い。
視認すら困難な速度。
クルサは一瞬目を閉じ、次の瞬間、感覚だけを頼りに踏み出した。
わずかに前へ、右へ――
魔力球は、紙一重で彼の頬をかすめて通過する。
教室がどよめいた。
誰も軌道を見切れなかったはずの攻撃を、避けたのだ。
フェンも目を細める。
(……経験者でも難しいはずだ。しかも、入学初日だぞ)
歓声が上がる中、クルサの表情は変わらない。
――油断したほうが、負ける。
それを、彼も、リリアナも理解していた。
次の瞬間、リリアナは三つの魔力球を同時に放つ。
数で逃げ場を塞ぐ、単純だが強力な攻撃。
クルサは一振りの刀を両手で構え、後方へ引いた。
そして――
目にも留まらぬ速度で踏み込み、斬る。
一閃。
次の瞬間、三つの魔力球は細かく分断され、霧散した。
刀を鞘に収めながら、クルサは静かに立つ。
リリアナは驚きを隠さず、内心で舌を巻いた。
(……想像以上ね。この子)
「……少し、本気を出してもいいかしら?」
「構いません」
クルサは真剣な表情で答える。
「戦いでは、相手の全力なんて分かりません。だからこそ、侮ってはいけない」
リリアナは小さく笑い、背中から剣を抜いた。
次の瞬間――
彼女の姿が消える。
(――後ろ!)
嫌な予感に突き動かされ、クルサは振り向きざまに防御の構えを取る。
剣と剣が激突した。
衝撃で、クルサの身体が吹き飛ばされる。
床を滑りながらも、彼はすぐに立ち上がり、再び踏み込む。
今度は互角。
二人の剣は何度も打ち合わされ、徐々に速度を増していく。
高速の応酬の中、クルサは一瞬の判断で剣の角度をわずかに変えた。
――その一瞬が、勝負を分けた。
リリアナの剣が弾き飛ばされる。
「……なるほど」
リリアナは感心したように言う。
「ほんの少しの角度変更。危険だけど、よく踏み切ったわ」
「成功すると思ったので」
クルサは親指を立て、満面の笑みを浮かべた。
その瞬間――
「はい、そこまで」
リリアナが手を上げる。
「三分経過。あなたの勝ちよ」
「えっ……本当ですか!? やった!」
クルサは飛び跳ねて喜んだ。
フェンが小声で尋ねる。
「……本気だったのか?」
「まさか。ここで力を出したら、校舎が消し飛ぶわ」
「……では、どれくらい?」
「人間の五倍程度かしら」
リリアナは続ける。
「身体能力は低い。でも、技術と感覚はクラス随一。
さっきの速度……隕石の終端速度に近かったわ」
「将来が楽しみだな」
「ええ。本当に」
その頃、ノイラがクルサに駆け寄る。
「すごかったよ、クルサ!」
「……正直、リリアナ先生が本気じゃないのは分かってた」
「それでも、すごいよ」
「……うん」
クルサは照れくさそうに笑った。
授業はその後、通常通り始まった。
昼休み。
クルサとノイラは並んで食事をしていた。
「ノイラは何を食べてるの?」
「ラーメン。クルサは?」
「スパイス煮込み肉。美味しいよ、食べてみる?」
クルサが差し出すと、ノイラは頬を赤く染めながら口を開いた。
「……美味しい」
「じゃあ、今度はこっち」
ラーメンを一口。
「これも、すごく美味しい」
遠くから見ていたリリアナはため息をつく。
「……今日知り合ったばかりよね?」
こうして、奇妙な対決は幕を閉じた。
クルサは確かに、リリアナの攻撃を耐え切った。
その意味を知る者は、まだ少ない。
――次章、クルサの日常は、さらに動き出す。




