「第1章:新たな一歩、セリデル学院へ」
青く美しい空が広がる都市セリデル。
その街に、クルサという名の少年が暮らしていた。
彼の両親は、セリデル魔法学院――この街で最も優秀とされる魔法学院――への進学を勧めていた。
しかし、入学試験は非常に厳しく、クルサ自身は「自分はまだ弱すぎる」と感じていた。それでも、両親はいつも彼を信じ、支え続けてくれた。
そして十五歳になった年、ついにクルサは両親の勧めを受け入れ、入学試験を受ける決意をする。
クルサの家は学院からそれほど遠くなく、徒歩で三十分ほどの距離だった。
彼は両親に別れを告げ、学院へと歩き出す。
道中はとても心地よかった。
深い森、澄み切った空気、雨のない快晴の空。
青空と宝石のように輝く雲が、彼の目を楽しませてくれる。
最初は正しい道を進んでいたはずだった。
だが、いつの間にか彼は迷い込んでしまう。
そこは巨大な市場を擁する商業地区で、街の経済の多くがここで動いていた。
しばらく歩いた後、クルサはようやく気づく。
(……ここはどこだ? もしかして、道を間違えた?)
彼は黒く長い髪に、濃い茶色の服を着た、立派な髭の男性に近づき、声をかけた。
「すみません。セリデル魔法学院への道は、どちらでしょうか?」
男は軽く腕を伸ばし、道を指さした。
「ここからそう遠くはない。まっすぐ進んで、左に街を出る橋が見えたら、そこを右に曲がるといい」
「ありがとうございます!」
「気をつけてな」
クルサが立ち去ると、男は腕を組み、その背中を見送った。
――最近の子供たちは、何も知らずに前へ進く。
自分を教える者が誰になるかも、気づかぬままにな。
男は、薄く微笑んだ。
クルサは教えられた通りの道を進んだ。
白い髪、柔らかな笑顔、そして軽やかな歩き方。
周囲の人々は、自然と彼に目を向け、どこか温かな気持ちになる。
やがて学院の正門に辿り着き、クルサは思わず息を呑んだ。
大きいとは聞いていたが、実際に目にすると、その規模は想像以上だった。
門をくぐり、入口へ向かうと、受付の女性職員に呼び止められる。
「失礼ですが、お名前をお願いします」
「クルサです。クルサ・ヴェイラルです」
「クルサさんですね。どうぞ中へ。あなたは1年A組です」
「ありがとうございます」
「こちらこそ。頑張ってくださいね」
女性職員は心の中で呟いた。
(クルサ・ヴェイラル……男の子のはずよね?
でも、女の子みたい……それに、不思議な魅力がある)
彼女は、クルサの秘めた可能性を感じ、そっと微笑んだ。
クルサは校舎内を歩きながら呟く。
「ここが2B……左が1Bで……あ、あれだ。1A」
場所が分かった瞬間、彼は勢いよく走り出した。
だが、床が少し滑りやすかったこともあり、足を滑らせて転んでしまう。
仰向けに倒れたまま、彼は天井を見上げて呟いた。
「……綺麗だな」
一階の廊下の天井には、暖かな光を放つ魔法灯が並んでいた。
クルサは立ち上がり、教室へと入る。
中に入ると、その光景に驚いた。
席は半円状に配置され、まるで机付きの闘技場のようだった。
教師席も工夫され、どの席からも見やすい構造になっている。
生徒たちは、クルサを見るなり小声で囁き始めた。
「……可愛い子だな」
「だよな」
「でも、男じゃない?」
「いや、どう見ても女の子だろ」
「まあ、どっちでもいいけど」
クルサは視線を感じたが、気のせいだと思い、前から三列目の席に座った。
しばらくすると、隣にピンク色の髪の少女が座り、声をかけてくる。
「こんにちは」
「こんにちは」
「あなたの名前は?」
「クルサだよ。君は?」
「ノイラ・エルドリン。ノイラって呼んで」
ノイラはくすっと笑いながら続けた。
「正直言うと、女の子に見えるよ。さっきも噂されてたし」
「……そんなに?」
クルサは照れて顔を覆った。
「でも分かってるよ。君が男の子だって」
「……そ、そう」
その時、チャイムが鳴り、教師が教室に入ってきた。
クルサは息を呑む。
そこに立っていたのは、先ほど道を教えてくれた、あの男性だった。
「おはよう。私はクレア・フェンだ。フェン先生と呼んでくれ」
「「おはようございます!」」
フェンはクルサを見て、目を細める。
「これは運命かな?
さっき道を聞いてきた白髪の少年がいるな」
――ドン。
彼はクルサの机を軽く叩いた。
まさかの再会。
あの男は、彼の教師だったのだ。
運命とは、なんと予測できないものだろうか。
これから、クルサに何が待ち受けているのか――。
続きは、次章で。




