友達
いつからだろうか、自分のいるべき場所、あるべき姿について真剣に考え始めたのは。
「おにい、ご飯出来てるからご飯だけでも食べていってね」
後ろめたいことをするかのように、妹の柚葉がこっそりと声をかけてくれる。
柚葉は、この家族の中で唯一俺を家族として愛してくれている。
そんな柚葉に作り物じみた優しい笑顔で「ああ」と返すと、それだけで嬉しそうな顔をして戻っていく。些細な幸せ、それだけが俺がここにいる理由だ。
「今日も、頑張るか」
身支度を済ませていきたくはないリビングへと朝食を済ませるために足を運んだ。
「おはよ景、今日も元気そうでよかったよ」
「おはよ、宗太」
いち早く朝食を済ませ逃げるように家を出た俺は、俺を待っていてくれた宗太とともに学校へと向かう。
景、というのは俺のことで、風音景それが俺の名前だ。
そして、こうして通学路を共に歩んでいる昔からの付き合いのこいつは、花澤宗太。
小学生のころから、変わらず今の今まで俺と友達をやってくれている見た目も中身もイケメンなハイスペック男子である。
「今日も、一言も?」
「ああ、変わりなくだ」
「そうか、本当に無理すんなよ」
「ありがとな、今も昔も」
「別に気にすることじゃないさ、今は何もできていないんだし」
「お前のおかげで毎日気落ちせず学校行けてんだよ」
「それならよかったよ」
どこかこそばゆそうな顔をして、向かう方向に視線を戻す。
宗太が俺に対して、こんな声をかけてくれているのには理由がある。
別に恋人に振られたからとか、好きな人に彼氏ができたからとかいう青春の痛みを感じたから、なんて可愛いことで俺が凹んでいるとか、高校最後の部活動の大会で燃え尽きたからとかって訳でもない。
昔から伸ばし続けた根っこ。俺の根幹にかかわる問題、端的に言うと“家族”についての問題だ。
俺の家族は世間から見るとどうにも普通じゃない家庭である。
誤解の無いようにここに言っておくと別に家族構成が変だとか、家族の中に某ネコ型ロボットのような特別な存在がいるとかいうことではなく端的に俺に対する風当たりが強い。ただその一点に尽きるのだ。
孤独感、疎外感、劣等感、どんな言葉で自分の気持ちを説明すればいいのかわからないが、兎に角俺の家族、殊更姉と母の二人は俺の存在がまるでないかのように扱っている。
あの家には俺の居場所なんてものがないのだ。
ただ、唯一の救いに関しては妹の柚葉だけは俺のことを大事な家族として扱ってくれている。柚葉がいることだけが俺にとってもあの家にいる意味となっているのだ。
別に、特別柚葉に何をしたというわけではない。だけど柚葉は俺の環境を悟ってなのか母や姉の俺に対する風当たりを何とかしようとしてなのか、それともただ単に俺と一緒にいたいからなのか家の中では家族として接してくれている。
だから今日も俺はこうして普通の生活を送れているのだろう。
「おはよ、景と宗太!」
元気な声とともに、をバンッという衝撃がやってくる。
声の主である、西野優奈はまるで何事もなかったかのように、俺の右隣りにやってくると、何食わぬ顔で会話を始める。
「そういや、今日だよね! 前期末テストの結果発表日」
「うわ~、せっかく忘れてたのに何てこと教えてくれるんだよ」
「宗太にとってはそうだろうけど、景にとってはそうでもないんじゃない?
「まるで俺がバカみたいな言い方だな!」
「いや~そうとは言わないけどそうじゃないとも言えないよね~」
「宗太も優奈も、あまり大差ないでしょ」
「「それは一番言ったらだめだ(わ)よ!!」」
両者から突っ込みを受けてしまった俺は、「すまん」と一言、そのまま歩みを進める。
三年間通い続けた高校の道、特段意識をしなくても体が勝手に学校へと向かってくれる。
そう、俺ももう卒業を目前に控えた受験生なのである。
俺らは全員もれなく同じ大学を受験するという仲睦まじい関係だ。
三年生の半分が終わり、その半分の集大成とも呼べる期末テスト。
泣いても笑っても、この結果は大学受験への試金石になっているわけだ。
もちろん大学受験に必要な力と、このテストで使う力はすべてイコールというわけではないが、それでも後がないというこの時期特有の焦りが二人を蝕んでいた。
ちなみに俺はというと、すでに大学の推薦をもらっている関係で気持ち楽に試験に臨むことができた。
だから二人の恨み言のような言葉が出てきたというわけだ。まあ、気持ちはわかる。
受験生この時期というのはある意味後がない時期だともいえる。
就職という選択を取っているメンバーは少なくともこの時期にはある程度の決定率であり、どちらかというと残りの学生生活を満喫する時期だ。
ただ一方受験生はというと、年明けからが本番であり、本番に向けてこの時期から右肩上がりで集中力を上げていかなければならない。
だからこそ、数字という目に見えてわかってしまうこのテスト結果というものは何よりもプレッシャーなのだ。
それに、もし受験で失敗してしまったら浪人生だ。つまりもう一年自分に余裕のない時期が出来上がってしまう。だからこそ今に必死で余裕がない。
俺だって余裕はないものの学校で1枠の推薦枠に入れたおかげもあって他の面々に比べると少しばかりは余裕がある。だからといっても慢心は危険だ。
教室の戸をくぐると、大きく二分したような空気感がある。
ひたすら自身のこれから返ってくるであろうテストの自己採点とにらめっこ、もしくは受験用の問題集とにらめっこしている進学組。
かたやテストの返却そっちのけで明日からやってくるであろう夏休みに浮足立っているメンバー。
「明日からどこ行く?」
「えー!海!」
なんて楽しそうな声と裏腹にピリピリとした空気を感じる。
サウナを疑似的に味わっている気分だった。
「じゃあ、本日はこちらにて終わります」
担任からの最終号令とともにちらほらと教室から面々が出ていく。
残った俺らはというと、
「どうだった?」
「いや~やっぱり理系科目がな~」
「う~……」
両者テストを広げて険しい顔を浮かべる。
とはいえ、二人とも点数的には全体でもそこそこいい点数といえるくらいで、そこまで悲惨なわけではない。それでもその顔の原因となっているのは————。
「なんだよこれ、ほんとにチートだろ」
俺のテスト用紙を二人して見比べる。トータルして平均九十点以上の答案用紙を見て、
自信を失っている様子。
とはいえ、学校の問題だ。範囲も指定されているからこそ対策はしやすかったので、あまり参考にならないと思うのだが、そうもいかないのが受験生ブルーな気持ちなのだろう。
ともあれ、明日からの課題を二人とも認識したうえで夏休みを迎えるだろう。
午前授業なだけあって、まだ日が明るいうちに学校を出ると、まだ夏の日差しが強く肌を突き刺してくる。
「明日から塾頻繁に行くけど、たまには気晴らしに遊ぼうな」
「もちろんだよ」
「私もちゃんと呼んでね」
「ああ」
二人ともこの後は塾に行く予定があるため、学校から出る駅前行きのバスに乗る。
俺はというと時間を持て余しているため、家に帰らなくてもよくて、かつなんだかんだ時間をつぶせる場所に行こうかと思い、帰路の間どこか行く当てはないかを考える。
こんばんは月要です。
是非、楽しんでもらえたらうれしいです。




