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〈アクセリナ〉
「どうしよう、どうしよう、どうしよう」
アクセリナは、このゲームを知っていた。
異世界人であるのは本当の事。
嘘は吐いていない。
だが……
「医療? 天候? 観光? 食事? そんなもん分かるわけないじゃない。私は普通の高校生なんだから。それに予言って言ったって、ゲームの内容終了しちゃったわよ。そういうのがあるなら、先に言っておいてよ。今後何が起こるかなんて分からないわよ」
この世界は恋愛ゲームの一つ。
定番のような話だが、数名の攻略対象との恋愛を楽しむもの。
そこには様々な障害があり、主人公の知識や慈悲深さそして芯の強さで乗り越えていくもの。
当然、最難関であるのは王子のシークムンド・ベーヴェルシュタム。
彼には婚約者がいて、一筋縄ではいかない。
その分、彼を手に入れた時の得る物は多い。
だから私は彼を選んだ。
その時、周囲に私以外の転生者の存在は探った。
「……悪役令嬢もおかしいのには気付いていたけど、転生者とは……」
カルロッテはゲームと違い、言葉はキツイが正しい事を告げていた。
取り巻きもおらず、成績は上位。
まさかと疑念を抱き、婚約関係について探りを入れた。
婚約者であるシークムンドとの関係はゲームの時のように険悪だったが、カルロッテが王子に恋愛感情を抱いてはいないように見えた。
ゲームではテンプレのように婚約者を追い掛け回し、彼に近付く女性には嫌味や嫌がらせをしていた。ゲームと違う彼女の性格に不信感は持っていた。
「二人の関係がゲームのように険悪だったから、油断した……」
シークムンドとの関係が険悪で周囲の評価も良くはなかった。
ゲームの内容を知っているのであれば『悪役令嬢』を回避するはず。
だから私はカルロッテ・アブラムソンは『転生者ではない』と判断した。
「どうすればいいの? これからシークムンドと結婚して、皆に祝福されて王妃として優雅に暮らす予定だったのに……異世界人なんて言うんじゃなかった……」
ゲームクリア後の世界になった瞬間、私は窮地に立たされた。
「異世界人は功績をあげろって……あんたの国なんだから、あんたがしなさいよ」
国王に悪態をつくも、何も変わらない現実。
時間を無駄にするわけにもいかず、私に出来る事は無いのか色んな事に目を向ける。
欠点は見つかるも、改善方法が分からない。
こういう物が欲しいと思っても、作り方を知らない。
私には問題点と答えは分かるが、そこまでの過程が分からない。
「だって、そうでしょ? あっちではなんでもあるんだもの、買えば済む話を自分で作ろうとなんてしないわよ。それに、難しい事は専門家の人が解決してくれる。私に出来る事なんて……」
一年で私に価値があると評価されないと、私は王子の婚約を破棄に追いやった事と、本物の異世界人を帰国させた事、更には自分が異世界人だと偽った罪で国外追放になる可能性があると言われている。
断言されたわけではないが、どこにいても私の噂が耳に入る。
「まさか、あそこまで愚かな女だったとは」
「アブラムソン公爵令嬢が王妃より、平民の方が懐柔出来ると思ったがここまで酷いとはな」
「シークムンドも公爵令嬢よりあんな後ろ盾もない能無しに騙されるなんて」
「これで王位継承権一位は、二つ下の第二王子に移るだろうな」
「俺達は、はずれを引いたのか……」
「元凶のあれは処刑か? 」
「いや、処刑するには公表しなければならない。異世界人について平民に知られるわけにはいかないから……」
「なら……修道院か国外追放……」
「ひっそりと毒……かもな」
皆、私に好意的な態度だった令息。
まさか彼らが私をこんな風に話しているとは思いもしなかった。
そして別の場所でも……
「万が一……あれが異世界人と判定されなかった時、私達も……処罰の対象……」
「こうなるのであれば、アブラムソン公爵令嬢についておくべきでしたね」
「公爵に目を付けられるだけでなく、王族にも……」
「私達……どうなるのでしょう……」
「……処分は……免れないでしょうね」
「そんな……」
「下品に王子に近付いたのは、あの平民なのに……」
卒業パーティーの為に流行のドレスや宝石について教えてくれ、王子と私の関係を認め『お似合いだ』と言ってくれた令嬢達も陰で私を平民と罵っていた。
『身分なんて関係ありませんわ。私達はアクセリナ様という人と一緒にいたいと思っただけですわ』
あんな言葉に簡単に騙されるなんて……
あいつらを突き落としてやりたい。
「私が異世界人と認められても、あいつ等を優遇するつもりは無い……万が一私が不要とされた時、あいつらも全員道連れよ」