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「カルロッテ・アブラムソン公爵令嬢。貴方との婚約を破棄させてもらう」


 高らかに宣言する私の婚約者。

 彼は女性をエスコートしているようだが、ここには大きな鏡も無いので女性は私ではない。

 卒業パーティーという祝いの場で、彼はどれだけマナー違反を犯すのだろうか。


「理由をお聞かせ願えますでしょうか? シークムンド王子」


 私は声を荒げるでもなく、微笑みを浮かべながら婚約者に淡々と尋ねる。

 婚約者、シークムンド・ベーヴェルシュタム第一王子。

 

「その質問を私が答える前に、アブラムソン公爵令嬢は何故だと思う?」


 私を追及するような王子の目。

 正直に答えていいのだろうか?

 婚約者の目の前で他の女性をエスコートすることに対し、彼は何も疑問を感じないのだろうか?


「シークムンド王子の……不貞……ですか?」


 王子に対して『不貞』と発言すると、周囲の人間が息を呑む。


「なっアクセリナと私の関係を汚すような発言は許さない。そもそも、アブラムソン公爵令嬢のアクセリナへの行動が切っ掛けだと思わないのか?」


「私の……どのような行動を仰っているのでしょうか?」


 熱くなる王子に対し、私の感情は冷えていく。


「自覚がないのだな。身分関係なく等しく学ぶ権利のある学園において、令嬢のアクセリナへの対応はあまりにも見苦しく見過ごすことは出来なかった。平民であるアクセリナへの侮辱、手本となるべき高位貴族でありながら横暴な態度、極めつきは命に係わる危険行為。全て身に覚えがあるだろう?」


 アクセリナが受けた行為を口にするシークムンド。

 過去を思い出したのか、アクセリナは大袈裟に震え彼の腕に縋りつく。

 そんなアクセリナの手を握りしめ、王子は「大丈夫」と囁き見つめ合う。 


「私の意見をよろしいでしょうか?」


「あぁ、言い訳を聞こうじゃないか」


 言い訳……


「……『貴族社会では、婚約者のいる男性と親密になる行為は周囲に誤解を与えます』と助言させて頂きました。今のお二人のように、『互いの体に触れあう行為は不貞を疑われてしまってもおかしくない』とも……」


 私の言葉に、王子は繋いでいたアクセリナの手を勢いよく離す。


「何を言っている、この程度の事で不貞になるわけがない」


「えぇ。不貞にはなりませんが、二人の関係に疑念は抱きます。それから不特定多数の男子生徒とも親密すぎるようでしたので忠告させていただきました」


「如何わしい言い方は止めてください。私は身分関係なく、皆さんと仲良くなりたかっただけです」


 王子の横でか弱さを演出していたアクセリナが急に割って入る。

 『不特定多数の男子生徒と親密』な関係を仄めかされ、反論せざるを得なかったのだろう。


「身分関係なくですか……私の知る限り、高位貴族の令息ばかりでしたけどね」


「たまたまです。カルロッテ様は私の事をずっと見ていたわけではないでしょ。もしかして私の事を監視されていたのですか?」


「いえ。目につく姿がいつも令息に囲まれていると思っていただけです」


「私は皆と仲がいいですから」


「そうですか」


 焦るアクセリナに微笑みを向けると、手を握りしめているのが目に入る。


「アブラムソン公爵令嬢。アクセリナが友人と親しいのは私も把握している。それは問題ない。問題あるのはアブラムソン公爵令嬢の行為だ」


「私のどのような行為が問題なのでしょうか?」


「アクセリナを階段から突き飛ばされた。犯人は君だろう?」


「アクセリナ様は、突き飛ばされたのですか? 階段を踏み外したとかではなく?」


 アクセリナに確認を取る。


「私は誰かに押されました」


「そうなんですか。それで犯人は私だと?」


「墜ちる瞬間、カルロッテ様の後ろ姿を確認しました」


「後ろ姿で私だと?」


「確かにあれは、カルロッテ様でした」


「私には身に覚えがないのですが……」


「見苦しいぞ。アクセリナが突き飛ばされ、犯人はアブラムソン公爵令嬢だと証言しているんだ。罪を認めろ」


 私が認めないでいると、シークムンドが痺れを切らしたように強引に進める。


「やってもいない罪を認めるわけにはいきません。私の名誉の為にも」


「名誉? 名誉あるのはアブラムソン公爵であって令嬢にはないだろう。勘違いするな」


 悔しいが何も言い返せなった。

 シークムンドの言葉通り名誉あるのは公爵である父であって、私は公爵の娘に過ぎず何か功績を挙げたわけではない。

 何も言えずにいる私の姿に満足したのか、シークムンドは微笑む。


「アブラムソン公爵令嬢。私は学園の三年間、君に猶予をあげたつもりだ」


「猶予……ですか?」


「あぁ。私の婚約者として、次期王妃に相応しいかを見定めさせてもらっていた」


「見定める……ですか? 私達の婚約は国王陛下と私の父が取り決めたものですよ?」


「正確には、アブラムソン公爵からの打診だ。王家としては、令嬢よりも相応しい人物が現れたら再度検討することを前提に婚約を結んだ。令嬢はその事を知らなかったようだな」


「それは初耳です」


「そうだったのか、それは知らせるべきだったかな? 今更だが。私の見る限り学園での令嬢の振る舞いは目に余る。このまま婚約を継続し婚姻に至るのは難しいという判断をせざるを得ない」


「その判断は、王家の判断ですか? それとも王子の独断でしょうか?」


「私の判断だが、報告書は作成済み。提出すれば納得して頂けるだろう」


「そうですか。では、王子と私との婚約破棄は覆らないという事でしょうか?」


「そういう事だ」


 シークムンドの満足そうな笑み。

 

「この場にいる皆さんは、私達二人の婚約破棄の証人という事でしょうか?」


「あぁ、そういう事になる」


「そうですか」


「異議はあるか?」


「いえ」


「そうか、では再度宣言する。私シークムンド・ベーヴェルシュタムは、カルロッテ・アブラムソン公爵令嬢との婚約を破棄とする。皆も証人になってくれ。そして、私はアクセリナと婚約し二度と婚約破棄はしないと誓う」


 王子は私との婚約破棄を宣言するだけでなく、アクセリナとの婚約まで誓ってしまった。

 『不貞を疑われてしまう』と言った私の言葉は、忘れてしまっているようだ。

 シークムンドの宣言にこの場に居合わせた生徒は盛大な拍手を二人と私に贈る。


「睨みつけても現実は変わらないぞ」


 見つめ合う二人を私は眺めていただけなのだが、シークムンドは私が二人を睨んでいると受け取ったようだ。


「お二人は幸せですか?」


「あぁ、正義は果たされたと思っている」


「私もカルロッテ様には申し訳ありませんが、シークムンド様と結ばれることが出来て嬉しく思います」


 二人は私の問いに満面の笑みで応える。


「では、これがお二人の求める『ハッピーエンド』なのかしら?」


「そうだな」


「はい、ハッピーエンドです」


 ハッピー……エンド。

 完…………?

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