隻眼の娘
時は戦国。
ところは遠河。
男に連れて行かれる二人の子供。
それを見送る女。
突然振り向いた女児が、
「おっかあ、おら、何処行くだ?」
見送る女、
「白いおまんまがいっぱい食べれるとこだ。」
女児、
「ほんまか?」
女児は本当にうれしそうだった。
奥州よりましだろうが、
この戦国時代、
どこも百姓は口減らしに苦労していた。
<第一章>
女児たちが着いたところは、
信州上田だった。
「さぶいよ~~~~」
「けえりたいよ~」
女児は泣き叫んだ。
確かに、おまんまはいっぱい食えた。
しかし、その体力消費量もすごかった。
毎日朝から晩まで、薪をかついで山道を走らされた。
それも意味もなく。
次は、木登りだった。
いや、木登りというより、
猿のように木から木へ飛び移る訓練も受けた。
この辺で女児(井伊)にも、
自分が「らっぱ(忍び)」として育てられるていることがわかった。
そして最後は、やはり、
「手裏剣」だった。
やったこともないのに、
井伊の腕は抜群だった。
百発百中。
天性としか言いようがなかった。
隻眼なのに。
<第二章>
数年がたった。
のちに天下を獲る徳川軍団は、
まだ小さかった。
しかしその通称三河軍団は強かった。
そして彼らが操っているらっぱ軍団。
服部も。
今、井伊は、その服部軍団と対峙していた。
「ほほ~!あれが名高き『隻眼の娘』か」
服部らしき男が見据える先、
そこには、井伊がいた。
「殺すな!捕らえろ!」
服部は部下に命じていた。
シュッ!
手裏剣が井伊の頬を掠った。
「ちっ!」
長居は無用。
劣勢と判断した、井伊らは退却した。
その夜、井伊は高熱を出した。
どうやら手裏剣に毒が塗ってあったらしい。
熱の中、井伊は夢をみていた。
地元で幼い頃していた「らっぱあそび」だった。
手裏剣は本物。一歩間違えば命を落とした。
「ぎゃー!」
井伊は右目を手で覆っていた。
血だらけだった。
<第三章>
熱は下がった。
井伊の気持ちは決まった。
「服部を打ち取る」
それは、井伊たちの雇い主「真田」の意向
「打倒徳川」
とも一致していたが、
徳川の力は強大になっていた。
そしてもちろん、その配下「服部軍団」も同様だった。
今、徳川は織田とともに、
長篠で、
武田と対峙していた。
その武田に真田は従っていた。
そして、徳川の動向を探ることが、
勝敗の決め手になっていた。
「いいか!? この探りが我々の運命を決める!」
真田の忍びの棟梁猿飛佐助は井伊らを鼓舞していた。
しかし・・
<第四章>
忍びからの
「多くの鉄砲が用意されている」
という報告は軽視された。
直属の真田は理解してくれた。
しかし、肝心の武田が、
初戦で徳川に勝っている武田軍団は、
「鉄砲は用意に時間がかかる。
われら騎馬には勝てない」
という。
結果は大敗だった。
そして、敗走の中、
再び、井伊と服部半蔵は対面した。
「隻眼の娘か」
「そうだ!」
睨み合いが続いた。
その後一瞬だった、
手裏剣の応酬。
井伊は眼が覚めた。
目の前には、佐助が。
「おいらは?」
「助けた」
「また服部に負けたんか?」
「でも生きてる」
「・・・」
「生きてりゃ、まだ戦える」