チェンジ イズ マニー

2日目その1 ゼロの子

デジタル時計の時間を見た瞬間、俺は昨日を呪った。

「走れ！ 俺、走れ!」

よだれをふき、顔を洗い、服を脱ぎ、制服に着がえる。後、20分で学校に着かなければ、完璧なアウトだ。でも、電車で30分以上はかかる。 それに、電車はきっと出発している。

「カンニング様 これ食ってください」

女の姿になっている円々姫が、俺の口にどす黒く

ゴムのように固い食パンをつっこんだ。

俺は、どす黒い食パンをかみくだき、ごくりと飲み、叫んだ。

「なんだ、あの死にそうな食パンは！それに、俺

学校におくれるんだよ!」

「大丈夫です！車があるので」

「え、すごいじゃないか」

こんな朝日を吸収するごみやしきの外に、あの文明な利器があるのか。

「カンニング様、どうぞ。」

円々姫が開けた扉の先にはーー文明のくそがあった。

「先輩！早く乗ってください！」

そこには、日光をぎんぎんに浴びる、自転車にまたがる制服姿のようきがいた。

「う、お、 わかった」

今、頼れる生物は もう こいつしかいない。俺は戸締まりをし、荷台にこしをおろす。 私も!と言うので、100円玉をズボンのポケットに入れる。う、舌にまだ食パンのにかみが残ってやがる。

「ヨンチョー！」

その後 自転車は、神と等しく ジェット機なみの足こぎで地面を飛ぶのであった。

・ ・ ・

特報です。

昨夜〇〇付近に複数のロケットが墜落しました。死亡者は、10人以上。右国か左国のどちらかの攻撃だと思われます。

指示をください、大統領。

昨晩急にいなくなって、何を考えているのですか、大統領。議員の前には、沈黙を貫く髭面の男がいた。

・ ・ ・

俺は、1-Aの教室の机に突っ伏していた。

「うぅー、気持ち悪い」

たしかに、ようきのおかげで学校には間にあった。

初めてようきのことを神だと確信もした。それでも、俺のことは、考えてほしい。

俺の席の2つ前の席にようきは、座っている

俺の方を向き、くすくすと笑う、むかしく顔で。

ようきの視線から目を離し、右隣のレイを見る。

やつは、本をじっくりと吸収していて、目をあわせようとしない。こんな真面目そうな外形の下に

♡×100という数があるなんてな。

レイは、昨夜こう言っていた。愛する人のため。愛する人が逆光の神だとすれば、あいつが天使のボスだ。しかし、逆光の神の正体が分からない。

今、ここで白状させるか?

そんな考えに身を寄せていたからだろう、女が俺に声をかけているのに気付かなかった。

「カンニング君、カンニング君!」

変な名前で呼ばれて、やっと気付いた。俺を見る、あざわらうような目をした少女の顔があった。

「どうしたんだよ、ユメ」

ユメ、俺の席の一つ前の席に座る。少女。こいつが

俺になんの用だ。俺のこと、カンニング君と呼んだか。

「つるき先生が、識員室に来いだって」

「・・・！」

「どうした、そんな驚異した顔して」

こいつは、知らない。知る由もない。俺がつるき先生を束縛して、変装したことを。もしかして、ばれたのか。

それとも単になんの情報もよこさないで、休んだのが原因か。またまた、それとも、学校に来ていないのに俺の名前が書かれたテストがあったことが原因か。

どれも悪い知らせだ。

すぐに席から立とうとしたが、あの名前が足を止めた。

「カンニング君って、どういうことだ。俺は、由だぞ」

百金名としては、合っているが。

「君、そういう感じだから」

俺の背中に、奇妙な興味が走った。

ーーこいつの点数を見てみたい。

「・・・！」

「どうしたのまた、そんな顔をして」

気付いた時には、俺は席に立ち、廊下に出ていた。

その頃には、汚物が俺の腹を支配していた。

俺は手を洗い、男子トイレから出る。

「やっぱり、あの食パンにやられた。なあ、円々姫」

俺は廊下に置いておいた100円玉を手に取る。100円玉だとしても、トイレに連れてくのは、ちょっとなあ・・・。

「手、洗いましたか」

「洗ったよ！

それどころか、お前のせいで、ユメの数を見逃したじゃないか！」

横目で見ようとしたけど、ギリギリ見えなかった。

あーあ、見たかったな。

それよりも、周りの視線が気になる。

横を通りながらも、ちらっと視線を向けてくる、探るようないやな視線だ。

そうか、周りには手に話しかける変人としか見えないのか。

ここから去るように、用事のある識員室に向かう。

しかし、結局、俺は歩きながら手に話しかける変人になってしまう。

「でも、おかしくないか。カンニング様になってないのに、なんで、数が見えたんだ」

「簡単ですよ。「由」という「くそ」ではなく、「カンニング様」

というカリスマ的存在になっているからですよ」

「へーーー、え」

円々姫をハンカチでふきながらも、まぬけな声が出てしまった。

「カンニング様が望んだことでしょ」

「え、俺が」

「そうですよ。母のことかきれられなくて、ずるを始めたけど、結局、価値ある人に変わることができなかった。

あなたが戦争を止めてくださる礼として、私があなたをカリスマ的存在にしてあげるって言っているのです」

「ちょ待て。なんで俺の母のことを・・・」

「ばかじゃないんですか。百金している間は、一心同体。あなたの考えは筒抜けですよ」

なら、「ずるをしてでも価値にある人に・・・」や「今度こそ大切な人を・・・」、など、言うには恥ずかしいことを円々姫は知っているということか。

それを悟った俺は、無言で円々姫をポケットに戻した。

「なんで、私を真っ暗な世に放り込むのですか！」

円々姫の顔はそう見たくない。

でも、カリスマ的存在になれるっていい話だな。

円々姫をポケットの中に連れながら廊下を歩いている。

とチラシ配りの男子からチラシをもらった。

「ありがとうございやす～」

受け取ったものの何のチラシか分からなかったので

チラシの見出しを見る。

ーー体育祭・文化祭、優先権決定戦！！

今日、開幕！

このことが信じられなくて紙に穴が空くと思えるぐらい読み返した。

「カンニング様、どうしたんですか？」

「さすがに円々姫も俺の動きが普通じゃないと

感じたのか俺に問う。

「お前らの点数争いより、あほな争いだよ」

チラシには、体育祭・文化祭 それぞれの支持組が

書かれていて、俺らのクラス「1ーA」は、体育祭に入っていた。

「プブかっこいいこと言っちゃって。さっきまで、罪な顔をしていたのにね、先輩」

「その声はようき！」「よ、です」

チラシ配りの男はようきだった。なんで、気付かなかったのだろう。

だが、

「悪い。職員室に用があるから、またな」

「りょ、です」

俺はようきを後にして、目的地の職員室に向かう。

この決定戦は、学校の代表生徒の会議中に、今年の

体育祭について話題に入ろうとした時の発言が原因

だった。ある生徒が、毎回、文化祭より先に体育祭をやるのは不公平だという発言をした。ただのわがままなこの意見に、半分が賛成し、もう半分が反対した結果、

議論でも、まとまらず、権力者、校長にも聞くことなく

決定戦という形にまとまった。

そんな思い出話を語りながら、俺らは識買室に

着いた。

俺は、扉を3回ノックして識員室に入る

「つるき先生、来てやったぞ。 1-Aの長崎由だ。

さっさと用事を終わらせよう！」

全く先生に敬う気持ちがない言葉に反応したのか、職員が俺に視線を向ける。その中には、つるき先生もいる。

今の俺なら、こいつらの数が見えるのだろうけど、やめとこう。今後も続く、カンニング人生に必要ない情報だ。

「あ、由さん、こっちです」

つるき先生が俺に向かって手招きしていた。

ーー分かってるって

俺はつるき先生のデスクまで近づき、促されたパイプ椅子に座った。

初めに先生が切り出した言葉は、こうだった。

「先生は、由さんのこと感心しました」

「は？」

「昨日の夕方、急に休んだことを謝りに学校に

来たあなたは、定期テストをしたいとも言い出し、

本当にすばらしかったです。あ、これ、昨日のテストを返しますね。みなさんには、綿密に」

「はぁー」

つるき先生から受け取ったテストは、 にせもののテストではなく、カンニングした俺のテストだった。なぜなら、普通の人なら、俺の名字の「崎」の「可」の最後をはねるだろうけど、はねていない！ そして、これもはねていない！

でも、どうやって。

俺は夕方、神と賭けをしていた。だから、学校に着た俺は、にせもの。

でも、どうやって、こいつが俺に俺のテストをわ

たせるようにした。にせものは、テストをしたのに、今、あるのは俺のテスト。

もしや、つるきとにせもの俺は、グルだった!

テストを受け取った俺は、識員室を即退場した。

「変なことが起きましたね、カンニング様」

「まったくだ。つるきに対する信頼がもっと減った」

減って損することはないか。

「あ、先輩！帰ってきたのですね。」

ようきが俺に向かって手を振る。さっき会ったばかり

なのに、大げさだな。ようきの隣に行くと、足元にチラシ

が大量に入った紙袋が置いてあった。

「おい、まだ配り終ってなかったのかよ。こんな時は、

一退、チラシを全部もらっておくというずるがあるんだ

やってみるか？」

「そんなずるをする必要はありませんよ」

「そんなだと」

「それに僕は奇跡起こせますから」

すると、ようきは胸の前でカンチョーの手のポーズをする。

「おい、何を」

その手を頭上に上げ、股を広げ、ようきは叫ぶ。

「ヨンチョー！」

これは俺の幻覚だろうか。ヨンチョーという叫びと共に、

ようきのちょんまげがピンと張った気がする。それどころ

ではない。ようきの前に10人の人が集まっている！

「ヨンチョー、ヨンチョー、ヨンチョー！」

ようきの変なポーズと共に、人がどんどん集まってくる。

10人、20人、30人、40人も！

「奇跡をそう簡単に起こさないでくれ！」

「ヨンチョー！」

ああ、これで50人だ。

「なんとか、全部配り終わりましたね」

「チラシの方が足りなくて、紙袋まであげちゃたじゃないか」

「しょうがないですよ。私たちは神なんですから」

ーポケットの中に居候している神に言われたくないな。

俺が後片付けをしていると、ようきが思い出したかのようにこう言ってきた。

「そうだ、先輩。学校のどこかで、戦争による

情報交換が行われるようですよ」

ーーそれって・・・

「とても、重要なことじゃないか。なんで、先に言ってくれなかった！」

「だって、チラシが・・・」

もし、情報交換の場に潜入さえできれば、ボスの正体が分かるかもしれない。

俺はずるで世界を救ったカリスマ的存在になるんだ！

「で、時間はいつなんだ」

ようきは、言う。

「13時30分、今日の決定戦の時です」

「え」

決定戦と潜入作戦。そんな、スケールの大きいこと

2つも同時に俺はできないぞ。

「戦いは今です、先輩」

ああ、平凡な生活よ。なぜ、俺から離れていった。

ーーー俺のせいだ。