1日目その4 ずるの賭け
『やつの数を打て。その名も百金ビーム』
脳裏で聞こえた円々の言葉を俺は信じてみた。
足を一歩前に出し、体を傾け、銃の固まりを数に近づける。
集った赤りい粒子は、銃の中で化学反応を起こす。
危機を感じたのか、通り魔はナイフを捨て、挙で挑んできた。
しかし、俺はそんなへなちょこパンチで止められない!
「くらえ、百金ビーーーム!」
光線が反射され、ーーーなかった。
「!」
通り魔から伸ばされた腕は、俺の銃にはまっていた。
そう、光線はスポンと阻止されたのだ。
「くらうのは、君だ」
「でも、俺にはもう片方の腕がある!」
こっちも同じように、スポンと阻止された。
「はあ、はあはあ・・・・ぐっ、はあ、抜けや、こらーッ!」
「さあ、君は私の腕を破損される勇気があるか!」
通り魔の顔はサングラスなどで隠れているが、
俺には分かる。こいつは俺を試している。
ーーーだけど、
「俺にはそんな勇気はない」
だって、通り魔の腕には罪はないから。
通り魔はマスクごしでも分かるような、笑顔を俺に向けてきた。
「はっはっはっ!君は弱虫だ!」
ーーいいから、いつこの腕を抜いてくれるんだ。
「やっぱり、私には天使のボスが君に会いたがっている理由
が分からないや!」
「え、天使のボスだと!」
「それに、私は君が嫌いだ。本番になると、逃げる
「天使のボスは俺たちが探している二人の内の1人だ。
こいつ、天使のボスの仲間なのか?一体、こいつは誰なんだ。
今日のテストだって、そうだ!」
その一言で、俺は通り魔の正体を悟った。
ずっと感じていた「あおり」の空気感。今日のテスト
で俺が欠席していることを知っていること。(俺は先生だった)
マスクとサングラスを外せば、行く着く顔はあいつじゃないか。
「お前はーー」
俺の言葉を遮ったのは、背後から響いた射撃音だった。
撃たれたのは俺だと思った。でも、違った。弾丸は肩
の上を横ぎり、彼の数を撃ち抜いた。
銃から彼の腕が 離れる。そして、バタリと倒れた。
俺は弾丸の主の方を向く。
そこには、銃を持ったようきがいた。
「先輩は説教に向いておりません」
ちがった。数が‐100の俺の友達がいた。
俺は通り魔のマスクとサングラスを外す。
「やっぱり、お前だったか、レイ」
「レイだけど、何か文句があるのか」
眼鏡野郎が俺に反論する。
俺はそんなやつの胸元を握み、目である100に
近づける。
「さあ、吐いてもらおうか。どうして、こんなことをした。
お前を何を知っている!」
「私は愛する人のためにやったまでだ!」
ーーーうそ・・・
俺は思わず、手を離してしまった。痛った、というレイの
声なんかに構わず、俺は動揺していた。
「うそだろ、お前、恋していたのか?」
恋。俺は全く恋愛に興味がない。
なぜなら、ずるを使えば恋愛もモノと変わらないからだ。
だから、俺よりも天才のレイが
恋をしていることに動揺を隠しきれない。
ーーレイを射落とした人を見てみたい。
「誰が好きなんだ?」
「・・・は?私の彼女を奪う気か!」
ーー奪ってどうする
向こうから足音が聞こえてきたのは、そう思った直後だった。
「彼氏がでしゃばりすぎたようだな」
俺たちの前に神が現れた。神だと思う。
サングラスとマスクで、顔が全く分からない。
「レイ、君の役割は終わった。戻ってきていいよ」
「あ、はい」
レイは立ち上がり、とことこと神の方へ歩いていく。
レイが来たことを確認し終えると、神は俺たちにこう言った。
「君たち、ひつじの仲間でしょ」
「・・・なぜ、分かった」
「化け物の匂いがしたから。ひつじと一緒にいたって、
何も始まらないよ」
「僕たちのボスを悪く言うのならば許しません」
0点男の鋭い目線にも屈せず、神は手を振るだけだった。
「ごめん、ごめん」
で、こんな提案をしてきた。
「そうだ、君たちも私たちと来ない?」
「ボス!」
レイは驚いているが、神は本気らしい。
だが、俺は円々姫とようきを信じてみたい。
俺は、はっきり返事する。
「無理だ。」
「僕もです」
神は残念がる素振りを見せた。
「残念です」
「そうだろ、そうだろ」
「君たちは殺すべき無価値という存在だったことか」
そして、俺たちに銃口を向けた。
その神の数は0だった。
数が人権と等しいであろう神の世界で、この神は0という数で生きていた。
はむかい、数がある俺たちは神にとって無価値でしかない。
「僕がうけて立ちましょう」
ようきが俺の前に出る。やめろ、100のお前にこの神は止められない!
いつも、こうだ。
肝心な時に一歩前に行けない。
あの時もそうだ。年明けの日だった。
俺が小学生の頃、真夜中の時に突然物音がした。
俺は寝ていたが、音の大きさにびっくりして、起きてしまった。
音の正体が気になって、一階に降りる。
人の叫び声が聞こえた。
母が腹を抱えてうずくまっていた。
母に拳銃を向けるやつがいた。
「君たちには生きる価値はない」
そう言うやつがいた。
・・・そうか
ずるを始めた本当の理由が何となく分かった。
あの時の子供の記憶が忘れられなかったからだ。
くそと言われてもいいから、
俺は、ずるをしてでも価値ある人になりたかったんだ。
俺はようきの前に出る。
「由様!」
くそと言われてもいいから、
今度こそ大切な人を守ってみせる。
「神、俺と賭けをしないか」
「賭けだと」
俺はポケットからただの100円玉を出す。
「今から俺がこの100円玉を使ってコイントスする。そして、
手に乗った時、表だったら、俺たちのことを見逃し、裏だったら、
俺たちを殺せ」
「それは、運じゃないですか!」
「分かってないね、0点男。運こそが最高の賭けなんだよ。
さあ、始めて!」
俺は100円玉を頭上にコイントスする。
宙でスピンしている100円玉に右腕を向け、破壊した。
100円玉を破壊した光線は残光だけを残して天へと上っていった。
「運でさえも、俺らの運命を決めれなかったようだ」
100円玉の燃えカスを見ながら、俺はそう言った。
「正気かよ」
そう発したのはレイだった。
やっぱり、言われたか、でも
「破壊してはだめって、言ってないよな」
「だとしても!」
「運に文句を言うな !それに、」
「それに?」
「ずるをしてでもお前らに勝つ」
レイの逆鱗を制したのは意外にも横から伸ばされた神の腕だった。
「賭けがあやふやになったので、今回は帰らせてもらうよ」
「そうしてくれ」
神とレイは背後にあった壁へと消えてゆく。
消える直前、神は俺の方を振り向いて、
「今後の君の活躍に期待しているよ」
と言い残していった。
「やはり、由様を選んで良かったです」
「え」
ようきからはブーイングが飛んでくると思ったが、
そんなことを言ってくれるなんて。
でも、やっぱり違う。
「俺には戦争は止められない。こんなずるしかできない
俺が止めれるわけがない。このカンニング様にもっとふさわしい
人物がいるはずだ」
「もう、分かってないですね。
この戦争の原因はなんだと思いますか」
「宗教の違いとか、領土問題とかか?」
「違いますよ。数ですよ」
「・・なるほど」
あの戦いで、神の世界で数がどれほど重要かよく分かった。
だからこそ、数について対立が起こるのも変ではない。
「悪魔の数が天使の数よりも高く、天使がそのことに怒り、
戦争寸前。僕たちはボスを見つけ出す一方で、天使の数を
悪魔より高くしないといけないのです。」
「そんなの無理だろ。もともとの価値を変えるなんて。
もっとも、ずるかチートを使えば別だけど・・・」
ーーーそのずるを平和のために
使ってくれないか。ーー
あの言葉はこのことを言っていたのか。
「さっきのずるを見て思いました。やっぱり、あなたは
チーターだと」
・・・
俺は頭の100円玉を脱ぐ。
俺は人間に戻り、最後には100円玉がにぎられていた。
なんか、変わったなと俺自身でも、分かった。
きっとこの100円玉と友達のおかげかな。
これから先
どんなことが起こるか分からないけど、
捜査部はいいかもしれないな。
俺はようきに手を振る。
「じゃあまたな」
「また学校で会いましょう、先輩」
俺とようきはこの場で別れた。