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1日目その3 数を制す者

「ーーで、俺の家まで逃げてきたけど、いいのか。金」

「円々姫です。私は金の神ですよ」

通り魔がふらふらになっていることを良いことに、

俺らは家まで逃げてきた。厄介事に巻き込まれたく

ないと思う同時に、こいつからいろいろと話を聞きたい。

扉の鍵穴に鍵を入れる。

「・・・・ん」

扉が開いている。


「じゅるじゅるじゅる。ふー、おいしいです」

この男はここが人様の家だと知っておきながら、のんき

にコーヒーをすすっていた。喜びのあまり体が揺れるの

と同時に、もさもさとした髪から異様に伸びている一房が揺れる。

「優しい味がします」

こいつの名はへいよようき。

こんなやつが家に侵入してくるなんて誰が想像できただろうか。

「なんで、ようきがここにいるんだよ!」

「先輩、集合時間に遅れていますよ」

ようきは何かしらと俺のことを先輩と呼んでは、俺のことを慕っていた。

初めの高校生活で一人だった俺に話して

きたのもようきだったし、グループワークに誘ってきてくれたのも

ようきだった。初めから分かっていてのことだったのか。

俺が何か言う前に、円々姫が説明する。

「すまない、0点男。途中で通り魔と遭遇してしまって」

「ああ、最近多いですもんね」

円々姫は俺と話す時は敬語なのに、ようきに対してはため口だ。

その差が認められなくて、二人の話を止める。

「通り魔じゃなくて、捜査部ついて教えてくれ!」

「あ、そうでしたがここにお座りください」

「ここは俺の部屋だぞ」


「捜査部は天使と悪魔の戦争を止めるためにあります」

円々姫の一言から話は始まった。

俺は円々姫と対面の位置に座っているから、さすが

に俺でも緊張する。

「コーヒーをどうぞ」

「ようきは俺らにコーヒーが入った紙コップを置いて

から、円々姫の隣に座った。

「愛のカエル入りですよ」

茶色の液体から日干びたカエルが現れる。

こいつは本気なのか。まあ、いい。話に戻ろう。

「それはひつじから聞いた。戦争ならとっとと止めればいいじゃないか」

「そんな簡単じゃない。重要人物である天使と悪魔

のボスが行方不明になったんです」


―逃げたのではないか。

「そのボスがセ国にいると言いたいのか」

「そうです。」

なるほど。確かに俺ら人間と無関係というわけにはいかないようだ。

「紹介が遅れましたけど、その二人を探しているのが、

僕。捜査部人間界学校潜入スパイの別名、へいよようき

の0点男です。よろしくお願いします」

「だけど、こいつ全く見つけられないんですよね。本当に困る」

円々姫が俺の前で、深いため息をつき、カエルコーヒーに

をじゅるじゅると飲み始めた。

「そう、見つからないのです。高校だとは見当ついているのですが」

「なぜ俺らの高校なんだ」

「数が人間の平均よりも低いからです」

「なんだ、数って」

「それは僕たち神にしか見えないその人の価値を表します。

神の世界では、数を制す者が、世界を制すのです」

ひつじの話のときからあやしいと思っていたが、こいつら

の次元は違いすぎる。俺でさえもこんな職場でやっていける自信はない。

そんなことも知らずに笑うようきとあきれた目をする円々姫。

ここは俺の部屋なのに、俺が場違いな気がする。

だからだろう。無意識にこう言ってしまった。

「なんで、俺なんかを選んだ」

二人は驚いた顔をしたが、すぐに真面目な顔に戻った。

円々姫は言った。

「あなたは自分のすごさに気付いていないらしいですね。」

円々姫がしゃべった後、ドアチャイムが鳴った。

「え、誰だ」


「あ、私が出ますよ」

円々姫が扉を開く。


チャイムを押したのは、さっきの通り魔だった。

「早速ですが、捕ってくれませんかね」

通り魔が家に一歩踏み入れる。


「・・・・・お前、強すぎ」

「ありがとうございます」

あの瞬間、たったあの瞬間で俺と円々姫はテープでぐる

ぐる巻きにされ、車でさらわれていった。ようきはぼこぼこ

にされ、家でうずくまっている頃だろう。

今では、後部座席のガラスとフロントガラスでしか空が見えない。

もう、夜になりそうだった。

メキメキとした音がしたのは、俺がしょぼくれる前だった。

「円々姫、テープを引きちぎろうとしたって、無理だって。

このテープ、固いぜ。あきらめようよ」

「誰が、あきらめろって教えましたか」

「え」

「だから、あなたは変われないのではないですか」

こいつの言う通りだ。俺は変わることをあきらめてきたんだ。

金にそれを気付かされるなんて。

「だけど、それはこの社会での話しです」

「・・・なんだと」

「神の世界では、数を制す者が、世界を制すのです」

円々姫の顔を見る。ようきと違って、真剣そのものだった。

ーーこいつだけは信じていいのかもしれない。

「もしよ、本当にそんな世界があるなら、俺はどうやって、

数を制すればいいのだ」

「制し方は人それぞれ、神それぞれです。

だけど、私がそれを探す手伝いをしましょう」

円々姫がよいしょとテープの隙間から手を俺に差し出す。

「さあ、私たち捜査部と一緒に頑張ろう」

今度こそ、俺は相手の手を握り返した。

人間的な温かさはなく、金属的な冷たさが体を走った。

それと同時に俺の世界がゆがんだ感じがした。でも

それは、一瞬だった。

いつの間にか、テープはちぎれ、右手には100円玉があった。

「腕をクロスさせてください」

俺は腕をクロスさせる。

「そして、言うのです。百金と」

俺は息を吸い込み言う。

「百金!」


車が裏角で急停止する。

通り魔は何かに恐れるように、運転席から飛び出る。

恐怖で振える手を抑えながら、やつに刃先を向けていた。

やつは学ランを着ていた。

両腕はすべての銃を合成合体したかのような巨体武器

に変わっていた。

やつが歩く度に、頭から金属音が鳴り響く。

なぜならやつの頭は100円玉だったから。

やつは通り魔に銃口を向ける。

「俺たちはカンニング様。よくも俺たちをいじめてくれたな」

銃口に赤い粒子が集まる。


「さあ、説教を始めよう」

俺の目に♡×100という数が映っていた。




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