1日目その2 動く100円玉
俺がカンニングを始めたのは小一の頃だった。
その時からよくずるをしていた。
じゃんけんだってよく分からない手を出してずる勝ちをしたものだ。
なぜ、ずるをするか。
当然、勝ちたいからだ。
ずるを学んだ相手は親だ。俺が海に行きたい
と言ったら、海は入場料がいるからとうそを言いやがった。
親に勝ちたいと思った。
カンニングの時も、顔も忘れたが、ある女の子に
勝ちたいと思ったからやった。君をぽこぽこにして
あげる(きっとぼこぼこにする)にむかついてしまって
やってしまった。
カンニングを続けて、早9年。
こんな性格だからだろう。親にも見捨てられ
友達もできず、でも成績は良かった、しかし!
それは他人の努力だ。
だから、高校生になったら変わろうとした、変わ
ろうとしたけど…
問題用紙と解答用紙を紙の束に紛れこませて、帰路についている自分がいる。
それに俺の担任の先生ーつるき先生を閉じこめてしまった。
「でも今回はー 自信はあるな」
と言っている自分もいる。とことこと歩いていると
突如、ビルに搭載されている巨大モニターが映像とともに音を出した。
『左国に右国と思われるドローンが上空で発見されました。
れましたドローンは数秒後に自爆しましたが、それは
右国が左国に挑発しているようにも思われます。右国
と左国の間に位置する我々の「セ国」では緊張が高
まる一方です』
機械的な音声が郎々と伝えた。
領土問題による左国と右国の冷戦が今年になって一年を過ぎた。
領土問題というのは、俺らが住むこの海洋国「セ国」をどちらの領地にするかだ。
早足で円に近づくとそれは本当に金だった。
それに、100円玉だった。
これこれ、くれに訪れた幸運。
「俺だからこそ、もらう権利がある」
俺は屈み、100円玉に手を伸ばす。
100円玉は俺の手を逃れ、前に転がり倒れた。
「・・・ん?」
俺はもう一度、手を伸ばす。
だが、100円玉は前へと転がる。
「ちょっと、待って!」
100円玉は坂を下たり、俺はそれを追いかける。
通行人は俺を怪訝な目で見るか、俺はあの金がほしかった。
分かるだろうけど、俺はかわいそうなやつだから。
100円玉はやっと止まってくれた。
ほっとしたのもつかの間、100円玉は人に拾われた。
俺は屈んでいた体を上げ、拾った人の顔を見た。
ひつじすぎた。
いや、ひつじの仮面をつけたスーツ姿の人?が
拾った100円玉を見ていた。
もしかして、こいつがこの100円玉の持ち主か。
「あの、その100円玉を俺にめぐんでくれませんか」
ひつじの人が俺を見る。
「見つめられて違和感を感じた。」
こいつ人間のような気配がないと。
「君には天使と悪魔の戦争を止めてもらいたい」
「・・・え」
これはきっと、悪い夢だ。100円玉を追いかけている
途中で俺は寝たんだ。 きっと、そうだ。でも、
「なんで、人間の俺がそんなことを!関係ねえだろ!
それに、お前らだってきっと人間じゃないのだろ。
お前らで頑張れ」
「俺は人混みに紛れ込もうとし、きびすを返した。
だけど、ひつじの人は無表情に(いや仮面のせいか)
こう言ってきた。
「やってくれたら、お前の人生が変わるかもよ」
俺の足が止まった。そして、言い返していた。
「お前に何が分かるんだ!」
しまった。知らない人に怒ってしまった。だけど
今の俺は背中を向けることしかできなかった。
「分かるよ。だって、私は神だから」
驚いた。こいつは神だったのか。
「君は自分のためにずるを使うくそな人だ」
本当に俺のことを分かっているではないか。なら
なおさら、俺よりもましな人を選んでくれ。
「だからこそ、そのずるを平和のために使ってくれないか」
俺はそのすばらしい提案にそそのかされて
神と向き合ってしまった。
その神は俺に向けて手を伸ばしていた。
それも、100円玉をそえて。
「さあ、私たち捜査部と一緒に頑張ろう」
この手を握れば俺は変われるかもしれない。
俺は手を伸ばすーーふりをして、後ろ歩きで人混みに逃げた。
「危なかった」
確かにあの手を握っていれば、俺は変わって
いたのかもしれない。だけど、早速って訳にもいかないだろ。
だから、早速に来た。世界の危機が。
巨大な爆発音と共に、人々が俺とは真逆
の方向に一斉に逃げていく。突然な人々
の逆風には一人分の道が空いていた。俺は
その上に立っていたから助かった。
そして、対岸にもう一人立っていた。
逆風が消えて、その一人の輪郭がはっきりとした。
通り魔だ。
顔が帽子とサングラスとマスクで覆われていて、
男性か女性か判断できないが、手元が怪しく光っていた。
それが分かった時には、声が出なかった。
「君は私の敵か?」
通り魔が俺にしゃべりかけてきた。
俺は呆然としすぎて、何も言えない。
「何も言えないということは敵だな」
通り魔がナイフを握りしめる。
「やばい」
俺はさっきの人間たちと同じように走る。だけど
間に合わないことは分かっていた。
振り向いた時には眼前にナイフの刃先があった。
足音が聞こえる。前に気配を感じる。
目をあけたら、俺の前に人が立っていた。
「!」
この人が来た瞬間、通り魔は前方に飛ばされた。
「・・・お前は、いったい」
人が顔だけ向ける。
女性だった。
だけど、それだけではない。
額に100とあった。
「お前はもしかして、俺が追いかけた100円玉か?」
あざわらうような目で初めて口を開いた。
「そうです。私はしつこい人は嫌いです。だけど
時に応じて、人の姿になってあなたを助けましょう」
通り魔はふらふらとして立ち上がる。
100の女性が姿勢を低くする。
「一体、お前は誰なんだ」
「円々姫です」
「泣くのか」
「泣きません」