5日目その4 死神がいるプール
残りのプールの長さは、40メートル。レイが泳ぎきったせいか、観客として来ていた生徒の数が減っていく。このままたと文化派が勝つかもしれない。だが、今の俺にとっては好都合だ。俺のことを狙った敵は、きっと人混みにまぎれているはずだ。
俺は穴が空いたビート板を真っ二つにちぎる。ちぎった片方のピート板と100円玉を握る。
そして、プールにダイブする。
「さあ、カンニング君の再スタートだ!」
「へ、丸見えだぜ」
俺機は人混みの中、バタ足で泳ぐカンニングにロケットランチャーを向ける。
昨夜、死神ヒーローがくびになった。理由は知らないが、おかげで俺様たちの仕事が増えた訳だ。
「あばよ、カンニング」
引き金を引く。
右を向く。
ロケットランチャーがすぐ目の前まで迫まっていた。
「カンニング様、いまです!」
右手の肘を直角に曲げる。
「行ってこい、円々姫」
肘を伸ばす勢いを使って、円々姫は水しぶき
とともに飛び出す。円々姫の反動で、体が少し左に傾く。
ロケットが、爆発した。
「やったぜ、今日はごちそうだ!」
俺様は喜びのあまり万歳と手を挙げた。が、違った。黒煙の中から人影が飛び出してきたのだ。
その人影の顔に100があることに気付いたときには、そいつの足が俺様のあごに直撃していた。
私は倒れている死神に話しかける。
「お前は死神とヒーローにの一員か」
この死神の数は、-2。
彼は口はあるが、ドルクと同じ目をしていた。
死神ヒーローズの員なら、まだ私たちのことを諦めてないことになるが。
「違う。死神ヒーローは昨夜で解散した。俺様たちは「銃声死神グループ」だ」
「俺様たちだと。じゃあ、まだ仲間がいるのか」
「あと二人いる」
この人混みの中にあと二人の死神がいるだと。私は周りを見渡たす。
「いた。」
私から30メートル離れたところにスナイパーを構えた死神がいた。一方で
ロケットランチャー使いは、耳に手を当てた。
「繋て」
急なことで驚いた。しかしその瞬間で、スナイパーの引き金は引かれてしまった
弾丸はカンニング様のビート板を貫いた。
突知のことでびっくりしたのか、カンニング様は、ビート板から、手を離す。その事実だけで、私はあることを悟った。彼が危険だと。
「おーと、カンニングがビート板から落ちたぞッ!」
案の定、支えをなくしたカンニング様はプールの中で手足をジタバタし始めた。
「カンニング様!」
彼はビート板がないと、泳げないのだ。
「ハッハッハッ!このままおぼれて死ね。」
死神は陽気なことを言っている。
さっきのことから考えるに、彼は本当に死ぬ。
助けようと、一歩踏み出す。
そのときだった。カンニング様の手が伸びたのは。
「!」
ここにいる誰もが驚いた。
さっきまでバタ足をしていた彼が、クロールをして
いるのだ。泳ぎ方は少し変だかちゃんと進んでいる。
どんどん進んでいる。
スナイパー使いは険しい顔になっていた。
「あいつ、バタ足しかできないじゃねぇのかよ」
「カンニング様は進化し続けているんだ」
スナイパー使いはその言葉をきっかけに気付いたらしい。
いつの間にか、私が隣にいることに。
私はスナイパー使いのえり元をつかむ。
「ロケットランチャー使いは倒した。最後の一人がどこにいるか言え!」
「言うものか!オレっちたちはドルクと違って、天使のボスに忠誠を誓っているのだ」
「このままだと、戦争が起こるぞ」
「戦争、あいつが戦争を止めるとでも思っているのか!」
「カンニング様は、絶対に、この戦争を止める」
「だったら、くたばれ!お前たちはゲームオーバーなんだよ」
こう言うスナイパー使いの数は、ー5だった。
「そう、お前たちはゲームオーバーだ」
頭に直接響くような声がした。それも、女性の声だ。
「ショットガン使い様のお出ましだ!」
そのショットガン使いはプールを挟んで対岸のところに立っていた。マスクを着けているその死神は、カンニング様にショトガンを向けていた。
「バタ足からクロールに変わっても、くずはくずのままだ。
今、彼を倒して、私たちは有能だと示してやる!」
そうか、彼女や彼らは自分たちの数がマイナスであることを認められないのだ。
「そんなものを人に向けるなッ!」
ショットガン使いの前に立ちふさがったのはリク氏だった。
「爆発音が聞こえると思って来てみたら、このあり様とは」
ショットガン使いは銃の狙いをカンニング様からリク氏へと変えた。
「お前の名はなんだ」
「体育祭リーダーのリク氏だ」
「じゃあ、リク。これは命令だ。下れ」
「俺にはリーダーとしての責任がある。それに気付かせてくれたのが、カンニングだった」
ショットガン使いは引き金に手をそえる。
「なら、その責任を全うしてみろ」
ショットガン使いは引き金を引く。
弾丸は一直線にリク氏の数を貫いた。
しかし、彼が倒れることはなかった。
「なぜだ」
ショットガン使いはもう一度引き金を引くが、
リク氏は倒れなかった。
彼女は知らないだろうが、リク氏は人間だ。
人間に神の数の刺し方は通用しないのだ。
「だから、そんなものを人に向けるなって」
リク氏は彼女に近づき、ショットガンを掴んだ。
「俺はな、人の頑張る姿をけなすやつが一番嫌いなんだよ」
そして、ショットガンをプールに捨てるのであった。
俺は泳いでいる。クロールで進んでいる!
40、30、20と来て、残り10メートル。だが、体力に
限界が来ていた。バタ足をしてきたふくらはぎが痛い。
水をこぐ腕が痛い。視界がはっきりしない。
人 の声が聞こえたのは足がプールの下につき
そうになったときだった。
「止まるなッ!」
声が聞こえた方を向く。そこにはりク氏が立っていた。
手をヘットフォンにして、俺にしゃべりかける。
「止まるな、絶対に止まるな。泳ぐってのはな、進むって
ことなんだよ。弱音を吐きたいなら、試合の結果を見てから言え!」
「はいっ!」
俺は体全身に力を入れる。限界だと思っていたが、
体がまだやれると叫んでいる。俺自身がまだ泳ぎたいと言っている。
10メートル、9メートル、8メートル、7メートル、6メートル、5メートル。
ロに水がはいろうが、足がしびれようが、俺は進み続けた。
5メートル、4メートル、3メートル、2メートル、1メートル
手がプールの壁に当たる。
「カンニング、ゴール!」
アナウンサーの声と同時に観声が上がった。
だが、ここがゴールではない。ゴールは校庭にある。
俺はプールから体を出す。びしょぬれの状態で
地面に立つ。地面っていいなと思った瞬間、額にロケットランチャーを向けられた。
「俺様はロケットランチャー使い。今から君には
俺たちと一緒に体育館に来てもらおう。」
「なぜだ」
「破壊神を復活させるのだよ」
ーー破壊神は体育館にいたのか。体育館には
ようきがいる。こいつらの口車に乗ったふりをして、
ようきと合流するのもいいかもしれない。いや、違う。
破壊神を復活させることはできない。
「それはできない」
ロケットランチャー使いは引き金に手をそえる。
「じゃあ、ここでさよならだ」
「いや、まだ終わってねえよ」
俺はずっと握っていたショットガンを死神に向ける。
死神はそのショットガンを見て、驚いた顔を見せた。
「なぜ、お前がショットガン使いのショットガンを!」
「プールに落ちていたのをたまたま拾ったんだ」
ショットガンの狙いを死神の数である、ー2にする。
「お前らもちゃんとした道を進み続けろよ」
俺は引き金を引く。弾丸はー2を貫いた。
俺に向けられていたロケットランチャーは地面に落ち、
死神は座り込んだ。その隣にショットガンを置き、
俺は被服室に入った。
「おっーと!レイが被服室を飛び出した!」
被服室の壁を通じてアナウンサーの声が聞こえたときは、
いそがないと、と思った。なんとか制服に着替え、被服室を飛び出す。
飛び出した先にいたのは、円々姫とリク氏だった。
「なぜ、リク氏がここに!」
円々姫がここにいるは違和感はない。だが、リク氏は別だ。
リク氏を含めた体育派はこの学校走が終わる
まで待機しているはずだ。なぜなら、この学校は
閉会式なのだから。面接合格の後に、その事実を聞いて
驚いたことをまだ覚えている。
リク氏は円々姫に一札をして、俺の目の前に立った。
「俺はカンニングの諦めない心に感動した!」
「え」
「君は熱い情熱をもった人だったんだな。俺も頑張
ろうと思ったよ。それでは、以上!頑張れよッ!」
リク氏は俺の肩をぽんと叩くと、どこかへ行ってしまった。
円々姫は俺の隣に立つ。
「リク氏はカンニング様を助けたのですよ」
「知ってるよ。ちゃんと、見ていたから。」
そう、全部知っていた。泳ぎながら見ていた。
円々姫のことも、リク氏のことも。
ましてや、ゴール地点にいる死神のことも。
「円々姫、行くか」
「はい」
円々姫はハイタッチをする。すると、円々姫が
ハイタッチをした俺の手の中に100円玉になって収まった。
100円玉を握りしめ走り出す。
「そういえば、円々姫。新情報がある。
「どうしましたか」
--
0518-7Date
「破壊神は体育館にいるらしい」
「それは、大丈夫でしょう。体育館にはようきがいるの
ですから」
「・・・そうか」
よいきに対して心残りがあった。ついていると言ったのについて行かなかった事だ。
体育館の前の廊下を通るときに、ようきが心配になった。
「ようきは大丈夫なのか?」
俺は走りづらい制服姿で、先行を行くレイを追いかける。
体育館では、一本だったペンライトが青い光の
集合体になっていたことを俺は知らなかった。