4日目その3 あほな神様
遊園地の閉園時間を知らせる音楽で目を覚めた。
ーーここは どこなんだ。
たしか俺は、コーヒーを飲んだら、意識を失って
ぼんやりとする意識の中で、目を開ける。
映ったのは、最後に会いたい人だった。
「やっと目を覚ましたな、大統領。
いや、父と言うべきか」
ここは、遊園地の路地裏。
車たちから逃げた結果、ここにたどり着いた。
もうここには、三人しか残っていない。
地面に座る髭面の男。そいつを見下だす俺。
そして、後ろで見守る円々姫。
俺は父の肩をつかむ。冷たい。この冷たさなら、
神様だと言われても納得できる。
でも、こいつが神様だとしても、俺は殺す。
肩をつかむ手に力を加える。
ーーだけど、少し、こいつと話したいことがある。
「なぜ、俺の母を殺した」
父の顔が一瞬だけ強張り、口を開いた。
「オレは殺してない」
「・・・殺してないだと」
俺の怒りが爆発しそうだった。
お前が殺してないのなら、
なぜ俺はこんなにも苦しいのだ。
実際に、俺は苦しかった。
父の肩をつかんだ時から。
言葉にできない感情が、これまで感じてきた
感情とは違う何かが心をくらう。
「真実を言わないといけないな」
俺は、固唾を呑む。父は、言う。
「オレは神から逃げた、おろかな悪魔だ」
父の顔を凝視する。どういうことだ。
「オレが悪魔のボスだってことは、知っているな」
「それが、なんだ」
「天使のボスと争い続ける運命ということだよ」
肩から伝わってくる、こいつの脈。
脈はとても弱く、卑劣な音を出していた。
その運命がこいつの何を語るのか。
ーーしかしながら、父がこんなに弱そうなやつとは
「オレのことを、弱いやつと思っただろ」
苦笑するように大統領は言った。
俺の心を読んだのか。
「一般論だよ。でも、昔はこんなにも弱くなかったんだがな。悪魔のボスになって天使と争うようになって、心が死んでしまった」
毎日のように、日常のように、神様が倒れていく場面を見てきたと父は語った。
カンニングをしている中で、
俺は鬼や神が死んでいく様子を見たことない。
もちろん、人間だとしても。
「だから、人間という生物が生きる世界へと逃げた。あんな世界にいたら、オレが死んでしまう」
逃げる。普通だと、そういう状況の中でも頑張っ
てやろうとする人たちが多い気がする。
でも、このくそな生物は逃げることを選択した。
こんな俺でも逃げたことはーーあった。
さっきまで、ユメとのデートから逃げたばかりだ。
「逃げた世界で、オレは出会ってしまったんだよ。
初めて美しいと思った生物に、母に」
見る世界が明るくなったとこいつは、言った。
そんなことを言葉にしている父は、
今もまだ恋をしているじじいの顔を一瞬だけ見せた。
俺は思ってしまった。
ーーーこいつは本当に 俺の母を殺したのか。
そんな疑問を、俺はすぐに振り払った。
そんなことを思ったら ここまで殺意をもって、
父を探した意味がなくなってしまう。
「数年後、命が消えていくところしか見れなかったオレは、初めて命が誕生するところを見た。命はお前、由だ」
「なぜ、俺の本当の名前を」
俺の体は、6割がカリスマで、4割が人間だ。
俺を本名で呼ぶやつは、ほぼいないはず。
「だって、俺はお前の父親だから」
父親。こんなくそな神様で、悪魔の男が俺の父親。俺がこんな性格をしているのは、こいつの影響か。
「もう、お前なら分かるはずだ。勝手に苦しんで、
勝手に逃げて、勝手に幸せをつくったオレを恨むやつが」
父に従っていた悪魔かと思った。でも、違う。
なぜなら、特殊攻撃部隊 KUROはボスのために
特殊攻撃部隊SIROと戦っていたからだ。第一に、
彼らは、大統領がボスだってことを知らずに 汚いわいろを送ってきたのだ。
なら、誰だ。そして 分かった。
「天使のボスか」
言ってみて、分かった。俺の子供時代の記憶に登場した人物が。
あの時、俺は泣いていた。母を抱えて泣いていた。
そして、叫び声は父の悲鳴だった。そんな俺らに
女が銃口を向けていた。
「そうだ。宿命の敵が多いから逃げたら、誰だって
怒るだろ。逃げたのはオレだがな」
私はずっと、カンニング様と大統領を見守っていた。
この二人は本当に血がつながっていると思った。
人生の中にも、言葉の中にも二人の共通点がある
ことに化け物の私にも分かった。
大統領は初めて美しいと思った生物に会った
と言っていた。私は初めてくそだと思った生物に
会ったことはある その男は、今、死にそうだ。
だって、こんなにも何かとたたかっているから。
だから、周囲の壁からあの気配を感じた
時には、たたかおうと決めた。
次の瞬間、俺らを挟む壁から、あの車の頭が
飛び出した。
くそ、もう居場所がばれたか。俺はもう少し父と
話したい。話させてくれ。
車は俺たちに泊まる。
それを、円々姫がなぐり飛ばしてくれた。
「・・・円々姫」
円々姫は立ち上がる。
そして、どこまでも続く黒い目で俺を見る。
「カンニング様は、父との会話をぞんぶんに楽しめ!」
壁からどんどん車の頭が飛び出す。でも円々姫
はそれらを叩き、けりつぶす。モグラ叩きだと
真面目に思った。
「オレには、時間がない」
突如、父はつぶやいた。
父は、父らしい、似合わない顔をして言う
「オレを殺して、お前は生きろ」
俺の欲望を父が語る。ずっと願っていたこと
なのに、いざ言葉にされると 俺は戸惑った。
そんな気持ちを飾るように、円々姫と車
の衝撃音と火花が咲き乱れる。
「え、どういうこと…」
「天使のボスは、こいつら、死神と手を組んだ。
殺しを専門とする神とな。オレは確実に殺され
る。だから、オレは変なやつに殺されるのではなく、ちゃんとしたやつに殺されたい」
「それが俺だと」
ただの欲望だと思った。でも、こいつは死ぬことを前提にして話している。
それに、ちゃんとしたやつなんて、初めて言われた。言われたならば、平凡だけだ。円々姫にな。
「父らしいことができなくてごめんな。まあ、秘密情報を送ったり、わざとコーヒーを飲んで倒れたりして、頑張ったんだけどな。死んだら、母に謝っておくよ」
やっぱり、あの情報を送ったのは、こいつだったのか。
父は裏で、俺を助けてくれていたのか。
ーー俺は、どうすればいいのだ。
俺は父を殺したい。そのために俺は、暗闇を走り続けたんだ。帽子を取り、鬼とずるのじゃんけんをしカンニングで10点をとって、浮気して、デートから逃げてやっと手にした、殺すチャンス。
でも、俺は・・・
「父がこんな不器用な神だとは思わなかったよ!」
父はびっくりした顔をする。でも、俺はがまんができなかった。
「ただ生きたいから、セ国に逃げた。そしたら家族ができて、でも、愛する人を殺された。だから自分も死のうとする。
こんな不器用すぎる男を殺せるわけないだろ!」目から何かの液体が流れた。塩からい水だ。
俺は殺すために父を探していた。でも、違った。
会いたいから探したんだ。
だけど、父の意思は固かった。
「それでも、オレは生きれない」
「なんでだよ!」
「この戦争を終らせるためだ」
「え」
戦争、この悪魔と天使の戦争か。
「由は知らないのか。この戦争の終わり方を
3日前の、あの夜。ようきが言っていたような。
「天使の点数を悪魔の点数より高くすることだ」
「ーーッ!」
「オレが死ねば、天使が高くなる。世界に平和が舞い降りる」
こんな理不尽な話が存在するのか。
「俺がなんとかするからーー」
父はその言葉をさえぎった。
「もう、なんとかできる程度の話じゃないんだよ!」
父の言葉を受け取めて分かった。
今でも父は生きたいんだ。でも、解決策が
「死」でしか考えれない。
なんて、不器用な男。なんて、罪のありすぎる男。
屁理屈でもいいから、こいつに生きる理由を。
「・・・・・あ、あ!」
「どうした」
見えてしまった。見たいものが、見えてしまった。
屁理屈でもいい。ばかでもいい。あほでもいい。
くそでもいい。ずるでもいい。
俺は見た。見えて良かった。
父の数を。
「-10」という数を。
「天使よりも低いじゃねえか」
自称天使のボス、ユメの数は0。
天使のボスは0、お前は−10。やっぱり、低いじゃなえか」
俺は父にはっきりと言ってやった。
「お前は俺と一緒に生きれる」
直接、頭に響くようないやな声がした。
「生きれる・・・・・ばかじゃないのか」
「なんだと!」
俺は声のした方を向く。
相手が分からないまま、挑発に乗ったのか悪かった。
俺が目にした光景は異常だった。
複数の赤いヘッドライトが集まる一点に、
大鎌を持った男が立っていた。
その男は、赤いマントに、赤い口マスクを着けていた。
こいつから、殺気を感じる。
いや、正義の殺気と言うべきか。
「お前は誰だ?」
「死神ヒーローのポン・ドルクだ!」
ーーー死神がヒーローだと?
「こいつだ」
「え」
父はドルクを見て怯えていた。
「こいつだ。天使のボスのグル。史上最悪の最級のヒーロー」
「こいつが」
こいつが殺しを専門とする神。マスクで口元が覆われているが、女の子の死神と同じ目をしている。
「そう!オレっちは最報なのだ!」
ドルクはヒーローらしい、変なポーズをする。
ポーズと同時に、こいつの数が飛び出す。
1,000,000,000,000(1兆)
俺は初めて強大な敵と直面した気がした。