4日目その1 乗りまかせ
俺はユメとの集合場所である駅で待っていた。
そう、今日は強敵であろうユメとのデート(接触)なのだ。
日光がまぶしいと感じ始めた頃、ユメが現れた。急いだのだろう。汗が出ている。
「ごめん、遅れた」
「大丈夫。お前のことなら、いつまでも待てる」
言葉一つがユメとの交友関係をつくる。
集中しなければ。
このデートに、世界の運命がかかっている。
「カンニング君、遊園地に行こう!」
ホームに行くユメの背中を俺は追いかける。
実は俺には他の仕事があった。
でも、円々姫とつるきに任せた。
・・・
ここが政治の中心か、大きいな。
そして、壁が真っ白だな。
私たちはセ国の大統領官邸の前にいた。カンニング様の父がいる場所。カンニング様がデートしている間、私たちは大統領を誘拐する。
でも、そこまで乗り気ではない。
だって、デートに行くカンニング様はかなり浮かれていたからだ。
「カンニング様は大統領を殺したいらしいから、生かせたまま持っていくぞ。」
「分かってますって!でも、円々姫、ふてくされていますね。いや、金だからさびですかね?」
私は小虫を見るような冷酷な目をようきに向ける。
「マイナス以下にするぞ」
小さな風が、私たちを叩いた。
12時30分、セ国初ビック遊園地
俺たちが初めに乗ったのはジェットコースターだった。
「夢の旅にいってらっしゃいーー!!」
スタッフのかけ声と同時に、ジェットコースターが発進する。
ただ、ガタゴトゆれるだけなのにユメは興奮している。
ジェットコースターも俺と同じだな。
初めは、わくわくするが 本性を出すと叫ばれる。
「キャ!」
突然 ジェットコースターが上昇する。
暗い視界が晴れ、無造作なくねくねの道が現れる。
本性が出る。
次の瞬間、視界が落ちる。
「キャャャーーーッ!」
降下の次は一回転。
体が座席から浮く。
「アァァァーーー!」
そして右寄りの上昇カーブ。
「オォォォーーーッ!」
ユメの叫びは、思っていたよりばかげていた。
たしかに、この腹が苦しくて、景色が上下左右する状況で叫びたくなるのは分かる。
でも、俺は
「・・・座われない」
なんで、こんなフカフカな席にゆっくりと座わらせてくれないんだよ!
このジェットコースターめか!
回転や降下によって席が体から離れるのが、どうしても腹立って不快だった。
「こうなったら…」
俺は尻に全力を加え、どんどん席に近づかせていく。
尻が席に触れた瞬間、俺の体は感動に満ちた。
「なんて、フカフカなんだ!」
さあ、クライマックスだ。
直角に限りなく近づけた、急降下。
「この状態を保ってやる!」
しかし 降下した同時、体は悲しくも軽々と浮いた。
「なんでだよ!」
そんな声は、隣の叫びできえていった。
「ギャャャャアアアオォォォガァァァーーーッ!」
次に俺たちが乗ったのは、バイキングだった。
船をモデルとしたこの乗り物に乗ると俺でも、少しわくわくする。
だって、今回はゆっくりと座れるから。
「持ち物は自分の足元に置いてください。
では、船の旅にいってらっしゃい!」
バイキングがゆっくりと上下する。
ユメはまだ、興奮していない。
しかし、本番はここからだ。鉄骨の揺れが大きく、大きくなっていく。
船は、あらしに突っ込んでいく。
「ギャ!」
ユメというやつは、どうしても興奮する人間なんだな。
こんなのブランコの大きいバージョンだ。
そんな船の中、俺の額を白い物体が通り過ぎる。
「あ、私の帽子か」
一枚の板をへだてた、対面に座る女性が手を伸ばす。
白い帽子は、上へと飛んでいく。
ーーあの帽子は高級ブランドのか!
俺は席から立ち上がる
「え、カンニング 君」
「帽子をもらいに行ってくる」
俺は帽子の方に体を向け、走る。
「オォォォォォーーー!」
上に上る前の甲板を足全体で感じ
ながら、帽子を追う。船の反り方が波みたいだ。大きな波を足でサーフィンしている。
背中に突風が起こる。
「いける!・・カリスマだからか」
俺は甲板をけり、跳躍する。
太陽と俺のシルエットが重なる。
白い帽子を優しく抱えこむ。
急降下するバイキングに、俺は着地する。
俺は、帽子を女性に差し出す。
「はい、どうぞ。女性用だから、いらない」
「あ、ありがとう」
感謝される反面、内心、あせっていた。
ーー俺、自分勝手のことしかしてない!
でも、自分勝手の旅は、まだ続いた。
コーヒーカップに乗る時、「コーヒー」という
のだから無料でコーヒーを飲めるのかと信じていた俺は、真実を知って、さわいでしまった。
メリーゴーランドでは、走る馬に乗れると思っていたら、ただ回転する馬の造形に乗るアトラクションだった。走れ走れと念じて、造形を叩いてぶっ壊してしまったのは、反省だ。一つだけ、くびから上が存在しない馬をつくってしまったのだから。
気付いた時には、俺はユメのことを
忘れて、遊園地を楽しんでいた。
それに気付いたのは、ユメの一言だった。
「カンニング君とのデートは楽しくないや」
「え」
意外だった。あんなに騒いでいたのに。
「だって、君のジェットコースタの感想は、席がフワフワだったでしょ。バイキングでは、帽子がほしかった、コーヒーカップはコーヒー飲みたかった、メリーゴーランドは、馬って怖いんだな。
ーー会話が成立しないんだよ!」
ユメのこと、完璧に忘れていた。
「レイとのデートのほうが楽しいわ」
もしかして、俺はユメに見下されている。
その真実を知って、俺はユメから目をそらすことしかできなかった。
目をそらした先に、見てみたいと思っていて見られなかったユメの数があった。
「え」
「どうしたのよ」
どうしたのよじゃないよ!なんで、お前が3日前の夜に俺との賭けで負けた天使のボスと同じ数をしているんだよ。
やはり、そうか。お前が天使のボスなんだな。
いい情報を得ることができたぞ、円々姫、ようき。そっちの調子はどうだ。