8. 輝く石
アルヴィンとレナは、次々と現れるシャドウビーストを息ぴったりで倒していた。群れの数は多く、次々とシャドウビーストが現れるが、流れるように倒していく様に思わず見惚れてしまう。
(す、すごい……)
カイゼル様も相当な剣の腕だったが、この二人の戦闘能力もかなり高い。
「リリー!背後に魔物がいる!」
突然、カイゼル様の鋭い声が響いた。
アルヴィンとレナに見惚れている場合ではなかった。
後ろを振り向いて即座に杖を掲げ、小さく詠唱を口にする。
「炎よ、護りの壁となれ!フレア・ランタン!」
杖から放たれた炎の光球が、暗闇から忍び寄る魔物を弾き返した。その瞬間、カイゼルが前方に突進し、剣で魔物の首元を一閃した。
そして、もう一度アルヴィンとレナのほうを向くと、二人はシャドウビーストの群れを殲滅させたようだった。私とカイゼル様が倒したのは、群れからはぐれた一匹だったようだ。
カイゼル様も剣を鞘に収め、軽く汗を拭っている。
アルヴィンとレナは、魔物がいないことを確認すると、私たちの方に駆け寄ってきた。
そして、アルヴィンがカイゼル様に「少しお話ししたいことが……」と告げ、カイゼル様と二人並んで私たちと距離をとった。
私が何気なくカイゼル様たちの行方を目で追っていると、レナが「私たちもお話ししましょう。ここからもう少し行った先に休憩できる場所があるの」と言って、カイゼル様たちとは反対の方を指さした。
「わかりました」
私もレナと話したいと思っていたし、聞きたいこともいっぱいある。
「レナ様は、どうして王宮騎士になられたんですか?」
「様なんてつけないで、レナと呼んで。……私は兄に憧れて騎士になったの。兄はとても強い騎士だから」
「へぇー」
そんな風に互いのことを質問しあったところ、レナとは同い年で、兄がいるという共通点があり、とても話が盛り上がった。レナとは仲良くなれそうだ。また、私たちはどちらも魔法を使うが、発動の仕方が全然違うことも話してて面白く、いつまでも話したいと思った。
◇◇◇
「カイゼル様、もしかして……」
レナがリリーをこちらの声が届かないところまで連れて行ったのを見届けてから、アルヴィンが口を開いた。
俺は、にこやかにうなずいてみせる。
「ああ。その、もしかしてだよ。アルヴィン」
アルヴィンは大きく目を見開き、驚きで声を発せないようだった。
そのわりには、もしかして、と気づいたくせに。
アルヴィンが口にしないので、かわりに俺が言ってやる。
「リリーは、おそらくあの魔法使いだよ。まだ未熟だが、魔力量は桁違いだ。……まさか、本当に存在するとはな……」
「いや、でも、まだ本物と決まったわけでは……」
アルヴィンが掠れた声でそう言ったので、俺は胸のポケットから金色に輝く小さな石を出して見せた。
「ーー!!」
「アルヴィン、見てみろ。暁の星の石が金色に輝いているだろ。これが何よりの証だ」
暁の星の石とは、わがセリウス王国に代々伝わる石のことだ。王族を守るお守りだと教えられ、王族の子供は産まれてからずっと肌身離さず持たされる。だから、父も兄も妹も同じ石を持っているが、もとは一つの大きな石を砕いて分けたものだときいている。
ただし、この石はずっと暗い灰色だったのだが、1ヶ月前に白くなり、そして、リリーと出会ってから金色に輝きだした。
セリウス王国には王国の危機を救うという『暁の星の魔女』伝説がある。
それは、王国の危機に暁の星の魔女が現れ、その魔法で国を救う、という伝説で、この国に暮らす者は誰でも知っているお伽話だ。
ただ、あくまでも言い伝えであり、そんな魔女は実在しないといわれてきたし、俺もそう信じていた。
だから、この石のお守りの名前が、「暁の星の石」だというのも、その伝説にあやかって名付けただけで、特に関係ないものだと思っていたのだが。
いまからちょうど1ヶ月前。
それまでずっと暗い灰色だった石が白くなった。
毎朝「暁の星の石」を確認してから、胸元に忍ばせるのが日課だが、前日まで灰色だった石が白くなっていたことに驚き、父や兄に確認したところ、皆の石が白く変色していることがわかった。
慌てて王宮の魔導士に確認してみると、白くなった原因は分からないものの、ここ最近の魔物の出没と関係があるのかも、という話だった。
まだ王都での目立った被害はないものの、国内の各地で魔物が出没するようになり、平和だった国民の生活が脅かされている。魔導士が調査したところによれば、それらの魔物は人為的に作り出されたものだというのだ。
もしそれが正しいのなら、いまの国王体制に不満を持つ者が魔物をつくって操っているのだろうが、まだその黒幕がはっきりしない。
怪しい者が多すぎて分からないというのが本音だ。
そこで、国王である父の命により、第二王子である俺と、アルヴィン、レナの3人で、黒幕について調査を開始した。ただ、王宮内に黒幕が潜んでいる可能性も高く、大っぴらに調査することができない。
3人で密やかに、まずは王宮内および王都から調査していたのだが、突然3日前、王都にいたはずの我々3人が見知らぬ森に飛ばされていた。
とてつもない魔力だ。
そして、ここが国境付近のエルヴェンの森だと、最初に気づいたのはアルヴィンだった。
アルヴィンは、自身の名前とよく似た音をもつ、この森について、以前から興味をもち詳しく調べていたのだ。
飛ばされた場所がエルヴェンの森だと確信したアルヴィンは、森の特徴などをかいつまんで説明した後に、何気なく言った。
「ちなみに、ここで、暁の星の魔女に会えるかもしれませんね」
「は?」
「エルヴェンの森は、暁の星の魔女が住む森だと言われているんですよ」
「ただの言い伝えだろ?!」
その後、巨大な魔物が我々三人を襲ってきて、俺はいつの間にか、二人とはぐれたものの、なんとか魔物を倒し、リリーに助けられて今に至る。
リリーと出会った時は、巨大な魔物を倒したとはいえ、俺自身も深く傷ついており、暁の星の魔女についてはすっかり頭から抜けていた。
ひとりで魔物と対峙するには傷を負いすぎていたのだ。アルヴィンやレナとはぐれてしまったし、戦えるなら誰でもいいと思い、藁にもすがる思いで、たまたまそこにいたリリーに声をかけた。
だが、それからリリーの家に案内され、用意されたベッドで寝るため、胸ポケットから暁の星の石を取り出したとき、金色に輝いた石を見て胸が高鳴った。
(まさか……)
急に目が冴えて、眠れなくなった。
「カチャッ」
どこかの扉が開く音がした。窓から外を見ると、リリーがこっそりと家を抜け出し、家の前を歩いている。
(こんな夜中に、どこへ行くのだ?)
迷わず後を追いかけた。
なんとしても、リリーの正体を確認したい。
リリーは、本当に暁の星の魔女なんだろうか。