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7. とまどいの中で

 暗闇の中を目を凝らすと、そこに男女の騎士がいるのが見えた。私は慌てて握っていた手を離し、カイゼルから少し距離をとった。


「カイゼル様!よくぞご無事でなによりです!!はぐれてしまったので、心配しておりました!!!」


 男女の騎士は駆け寄ってきて、カイゼルの前で跪いた。


「ここではそのような態度は不要だ」


 カイゼルはそう言って、二人を立ち上がらせる。


(……え?どういうこと?)

 

 男性の騎士のほうが、私のことをじっと見ながらカイゼルに言った。


「ところで、カイゼル様。こちらの女性はどなたですか?」


「ああ、彼女はリリアスと言って、昨日、瀕死で倒れていたところを助けてくれた命の恩人だ。この森のすぐ近くに住んでいて、昨日はそこに泊まらせてもらった」


カイゼルはそう私のことを紹介した後、続けて私に言った。


「この二人はアルヴィンとレナだ。レナは女性だが『セリウス王国最強の騎士』と呼ばれるほど強い。アルヴィンは王宮騎士団の副団長をしている。我々三人は幼馴染なんだ」


「……そうですか。リリアス・マルセラです。よろしくお願いします」


 男性の騎士は手を差し出して自己紹介した。


「私はアルヴィン・ロックハートです。カイゼル様を助けていただき、ありがとうございます」


 その手を軽く握ると、今度は女性騎士が手を出してきた。


「私はレナ・ヴァルセリスよ」


 レナ・ヴァルセリスと名乗った女性騎士は、長い金髪をひとつに結び勇敢な感じだが、赤い瞳が印象的で、見惚れてしまうほど美しい。薄暗い森が、レナのまわりだけぱあっと明るく感じるほど、光り輝いているように見える。


 互いに挨拶が済んだところで、アルヴィンが私に向かって言った。


「私たちは王命により、この森にきております。カイゼル様を助けていただいたことは感謝しておりますが、これから先は危ないですので、リリアス様はこれで帰っていただけますか? お礼は後ほどたっぷりとさせていただきます」


「は?」


美人騎士のレナが「それでは、私が家まで送り届けますね」と言い出した。


(ちょっと待って。ちょっと待って。どういうこと?)


私がカイゼルの上着の裾をぎゅっと握りしめていることに気づいたらしく、カイゼルはその手を優しく包みながら言った。


「まぁ待て。リリーを今すぐ送り返さなくてもいいよ。さっきもリリーは俺と一緒に魔物退治をしてくれたんだから。魔法がかなり使えるようだ。しかも、レナとはまた違うタイプの魔法だな」


「そうなんですか?……で、でも……」


 アルヴィンが納得できないという顔をしていると、カイゼルはつづけた。


「お前も気づいたと思うが、この森の魔物は剣だけでは倒せないようだ。しかし、俺とお前は剣しか使えない。俺たち三人の中で魔法を使えるのはレナだけだ。もうひとり魔法が使える者がいれば、ペアでの攻撃もできるだろう?」


「それなら、私が二人の支援に入るから問題ないわ」


レナがそう断言する。クールビューティーという言葉はレナのためにある言葉だといっても過言ではないのでは、と思えるほど、その言動がかっこいい。

でも、そんなレナに向かって、鼻で笑いながらカイゼルは言った。


「問題があったから、昨日、俺はお前たちと、はぐれてしまったんだろう?」

「……」

「……」


 カイゼルの言葉に、アルヴィンとレナが黙ってしまったのを見て、ようやく私も聞きたかったことを聞いてみることにする。


「あの……お取込み中失礼しますが、カイって、どういう立場なんですか? 王宮騎士団の副団長よりも立場が上のように聞こえるんですが……」


 私の言葉に、下を向いていたアルヴィンとレナが同時に顔をあげた。カイゼルはなんだか少し笑っているように見える。アルヴィンが、そんなことも知らないのか、という顔で口を開いた。


「カイゼル様は、我がセリウス王国の第二王子だ」

「え?」


 国境沿いのド田舎なこの村に住んでいる私でも、王家のことは一応知っている。

 国王夫妻にはお子様が三人おられて、第一王子がラインハルト様、第二王子がカイゼル様、そしてその妹王女のエレノア様。


 でもでも、まさかのまさか、目の前のカイが、第二王子のカイゼル様だとは、思いもよらなかった。貴族様だというのは自分でもわかったし、家族もそう言ってたからわかっていたんだけど、なんというか、王子様というのは雲の上の、さらにそのまた雲の上の存在すぎて、まったく同一人物だと思わなかった。


 そんな方に向かって、知らなかったとはいえ、『カイ』などと馴れ馴れしく呼んでしまったなんて、さらに『大好き』なんて軽々しく口にしてしまったなんて、後で不敬罪とかで捕まってしまうのだろうか。


「カ、カイゼル様……。も、申し訳ございません。今までの失礼の数々は、どうかお見逃しください……」


 私は思わず、地面に膝をつき、深々とお辞儀した。


「あはは。リリー。俺が隠していたんだから、分かるわけないよね。何も気にしていないから、立ち上がってくれる?」


そう言って、カイゼル様は優しく手を差し出してくださったが、恐れ多くて、もうその手には触れることができない。自力でさっと立ち上がる。


 そして、聞きたいことを聞いてみた。ただ、どうしても、カタコトになってしまう。さっきまでスムーズに会話できたはずなのに、会話の仕方が分からない。


「……でも、どうして、王子様なら、もっとこう、たくさんの方を引き連れて、魔物退治に来るのではないのですか?」

 

「ああ、それは……」


カイゼル様がにこにこしながら答えようとしてくださったのに、アルヴィンが口を挟んできた。


「それについては、あなたがいくらカイゼル様の命の恩人であったとしても、話すことはできない」

「そうですか……」


 すると、そこにまた先ほどと同じ魔物の気配がした。同時に、アルヴィンが叫ぶ。


「シャドウビーストの群れだ! レナ、行くぞ」


 アルヴィンとレナは魔物の気配のする方向へと走っていった。カイゼル様は私に気遣いながら、二人についていく。私も慌てて、その背中を追った。

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