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5.リリアスの家

前回の投稿から、少し間があいてしまいました。

ちょっとずつですが、話を前に進めていきたいです。

 翌朝、朝食をとりながら、昨日は怪我の治療を優先させたのでしっかりときけなかったカイゼルの話を改めて皆で聞いた。


 カイゼルは国王陛下の命により、エルヴェンの森に魔物を退治しにきたこと。

 エルヴェンの森で魔物討伐中に、仲間とはぐれてしまったこと。

 魔物は夕方以降にしか現れないこと。

 昨日、一緒に倒した魔物は、「シャドウビースト」というらしい。赤い目が特徴で、狼のような姿をして、群れで行動する事が多いということだった。

 

 カイゼルの話がひととおり終わった後、私は父と母に向かって言った。

「お父様、お母様。お願いがあります。私も、カイゼルと一緒に森に行こうと思います。魔物を討伐するために」


「ちょっと待て。お前は何を言ってるんだ? 魔物退治なんて危険すぎる!」

兄が私の言葉を焦ったように遮ってきた。


「兄さん、ちょっと、邪魔しないでよ! わかってるわ。危険なことも、みんなが心配する理由も」


そして、私は父、母と兄の視線をまっすぐ受け止めながら、強い意志を込めて言葉をつづけた。


「でも、さっきカイゼルが話したとおり、私も昨日、魔物と戦ったのよ。それに、私はずっと家族やこの村に守られてばかりだった。大好きなエルヴェンの森に魔物が出たんだから、今度は自分の力でこの村やエルヴェンの森を守りたいの」


兄は私の言葉に激しく反論した。


「力だって? お前の魔法の練習だってまだ未熟じゃないか」


「未熟かもしれない。でも、練習だけしていても本当の力は身につかない。ねぇ、お父様もお母様もそう言っていたでしょ。実際に戦わなきゃ、わからないこともあるの」


 母が心配そうに小さな声でつぶやいた


「……リリー。あなたが傷つくのを見るのが、私は怖いのよ」


「お母様。……私、大丈夫だよ。カイゼルも一緒にいてくれて、私が無茶をしないように見てくれる」


 私がそういうと、カイゼルが頷き、口を開いた。


「私もリリアスを危険な目に遭わせるつもりはありません。私がリリアスを守りながら、前に立ち、彼女には後方支援をお願いするつもりです。ただし、家族の皆さんが反対されるのであれば、リリアスはもちろんつれていきません。私ひとりで行きます」


 兄はカイゼルの言葉に便乗した。


「そうだな。もともとお前ひとりだったんだから、リリアスを巻き込むんじゃない。リリアスは王国の兵士でもなんでもないんだから」


 私は兄の言葉に慌てて言った。


「ちょっと、何を言っているのよ! バカ兄! 私がカイに頼んで一緒に行かせてほしい、って言っているのよ!」


「だれが、バカ兄だ! 馬鹿なのは、お前だよ! 魔物退治に行くのは絶対ダメだ! 俺が許さない!」


 私と兄のやりとりをじっと聞いていた父が、ゆっくりと口を開いた。


「リリーは、こちらのカイゼル様のことが好きなのか?」


 私は思わず、父親の顔を見上げた。父の言葉は静かに耳の奥に残響した。


「好きなのか?」その一言が、心の奥底で眠っていた何かをそっと揺り動かしたようだった。


「えっ?」思わず漏れた声はかすかに震えていた。


 父親の目は真剣だったが、どこか優しさも滲んでいる。その視線を受け止めると、胸の奥がじわじわと熱くなっていく。まるで、自分の中に隠していた秘密を見透かされているようだった。


(まだ、出会ったばかりだけど……。私はカイのことが好きなの!?)


 目の前に座る二人を交互に見た。父親の真剣な視線と、隣にいるカイゼルの柔らかな笑みが心に刺さる。何かが胸の奥でざわつき、まるで自分が透明になったように感じた。


「どうなんだ?」父親が問いかけた。その低く穏やかな声には、真意を探ろうとする響きがあった。「リリーが魔物退治に一緒に行きたいと言い出したのは、この人のことが、好きだからなのか?」


 もう一度聞かれた瞬間、全身が固まった。心臓は急に早鐘を打ち始め、まるで隠していた宝物を突然晒されたような気分になった。視線を泳がせるが、ついカイゼルの凛々しい顔に目が止まる。優しく微笑むその表情に、不意に鼓動がさらに早まる。


「えっ、そんな……!」慌てて否定しようとするが、声は上擦り、自分でも説得力がないことが分かった。


 カイゼルは少し驚いた顔をしたものの、すぐに困ったように微笑んでから、父に向って言った。


「私たちは出会ったばかりです。ただ私を助けたいと心から思ってくれただけです」


 その言葉に、どうしていいのか分からず、視線をテーブルに落とす。


(カイ。それは違うわ・・・。私は、父の言う通り、カイのことが好きなんだわ)


「わ、私、カイゼルとまだ出会ったばかりですけど、カイゼルのことが、好きです……」


 やっと絞り出した声は、小さく消え入りそうだった。頬が熱くなる。私の中の、初めての感情が形になろうとしていた。顔を隠すように手を頬に当てた。カイゼルがそっと私のことを見つめる視線を感じながら、胸の奥の温かさが静かに広がっていくのを止められなかった。


 そんな私の様子を見ながら、父はふっと笑みを浮かべ、肩をすくめた。


「そうか……。でも、かわいそうだが、身分違いの叶わない恋だとわかっているのかい? 親しげに話をさせてもらっているが貴族様だ。どんなに好きになったとしても一緒にはなれないんだよ」


 私は父の言葉に大きな声が出た。


「お父様。分かっています。一緒になりたいなどと大それたことは考えていません。ただ、カイゼルがエルヴェンの森にいる間だけでかまわないので、カイゼルの力になりたいのです」


 父は私の頭をやさしく撫でると言った。


「リリーの気持ちはわかったよ。リリーの初恋を応援してあげよう。魔物退治に一緒に行ってもいいよ。でも、危ないと思ったら、すぐに戻ってくるんだよ」


ありがとうございました。

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