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3.リリアスの家

前回までのお話し


 リリアスはエルヴェンの森でカイゼルと遭遇した後、彼の負傷を心配し、自分の家に連れて行くことにした。


 「エルヴェンの森」から少し歩くと、石と木でできた私の家が見えた。

 私の家は村の端にひっそりと立っていて、家の周りには畑や薬草園が広がっている。玄関脇の薬草園では様々な草花が風に揺れている。

 私は扉の前で立ち止まり、少し申し訳なさそうに振り返った。


「うち、そんなに立派じゃないけど……とりあえず休んでいって」


 カイゼルは微笑みを浮かべ、傷ついた肩を軽く抑えながら答えた。


「立派かどうかなんて問題ない。ただ、お前の住んでいる場所には興味があるな」


 扉を開けると、母と兄のルカスが居間にいた。ルカスが真っ先に立ち上がり、険しい顔でリリアスの隣にいるカイゼルを見た。


「リリアス、この男は誰だ?」


 私は慌てて両手を振る。


「あっ、この人は森で助けた人! 傷ついてたから連れてきただけ!」


 母が心配そうにカイゼルを見た。


「まあ、大変だったのね。さあ、早く座って休んでちょうだい」


カイゼルは礼儀正しく頭を下げた。


「ご迷惑をおかけします。ありがとうございます」


 ルカスは未だに警戒を解かず、私のことをじっと見つめる。


「森で助けた? リリアス、お前また変なことに首を突っ込んだんじゃないだろうな」


「変なことじゃないってば!」


むっとして言い返すが、ルカスの視線は鋭いままだ。


カイゼルは苦笑いを浮かべながら、ルカスに向き直る。


「私はあなたの妹さんに命を救われました。感謝してもしきれません」


 ルカスは腕を組んでカイゼルを見上げた。


「……そうか。妹は君の命を助けたのか。ところで、君、名前は?どこの誰だ?」


カイゼルは少し迷った素振りを見せた後に名乗った。


「私はカイゼル。この国の……、王都から来た兵士です」


 ルカスはしばらくカイゼルを睨んでいたが、ひとつ溜息をついた後に言った。


「まあいい。傷を治すまでの間、ここにいればいい。ただし、変な真似をしたらすぐ追い出すからな。まぁ、母さんにかかれば、君の傷なんてあっという間に治ってしまうから、すぐに出ていくことになるが」


カイゼルは柔らかく笑って頷いた。


「もちろん、長居するつもりはありません。今晩は世話になりますが、明日の朝にこちらを出て行きます。傷はほとんど、あなたの妹さんが治してくれましたから、残りはほんのかすり傷です」


 兄とカイゼルが話している間、私と母は夕食の準備をした。今夜のメニューは、兄が仕留めた鹿肉を母が魔法で焼き上げた鹿肉のロースト、根菜とハーブのクリームスープ、季節の野菜を使ったシンプルなサラダ、母が焼いた香ばしい全粒粉のパン、私が昼間に焼いておいたハーブ入りの小さな焼き菓子、家族全員が大好きな、母特製ブレンドの薬草茶だ。


 気づくと、いつの間にか兄とカイゼルが話しているところに、父が合流している。さっきまでの兄の態度が嘘のように、すっかり三人、仲良く打ち解けている。


 夕食の準備が整ったので、三人に声をかけ、皆で食卓についた。

 

 食事を始めてしばらくしてから、母がカイゼルにきいた。


「兵士さん、一体何があったの?」


 カイゼルは森で魔物に襲われたことを説明し、リリアスが自分を助けてくれたことを話す。


「リリアスは、そんな森の奥を一人で歩いてたの?」


「えっと……ちょっと魔法の練習をしてたのよ」


 私は気まずくなって母から視線を逸らした。

 その様子に、ルカスが呆れたように言う。


「また勝手に森に行ったのか。お前、いつも無茶ばかりするんだから。」


「いいでしょ! 私はちゃんと自分のことを考えて行動してるもん」


 カイゼルはそのやりとりをにこにこしながら黙って聞いていた。

 今度は兄が、そんなカイゼルに向かって、からかうように言った。


「王都の兵士というが、つまりは貴族様だろ? こんな立派な貴族様のお口に、うちの夕飯は合わないんじゃないか?」


「いいえ。この食事は、本当に美味しいです。たしかに王都の我が家の食事も美味しいのですが、うまく言えないのですが、全く違う美味しさがあります。この鹿肉のローストなんて、絶品ですね」


 カイゼルの言葉を聞いて、母が感激していた。


「まぁ、うれしいわね。たくさん作ったから、どんどん食べて頂戴ね」


◇◇◇


 賑やかな食事を終えた後、居間に移動し、母はカイゼルの傷を診察した。


「結構深く傷ついていたのね。魔物が咬んだ傷は、リリアスの魔法で傷口が塞がっているんだけれど、皮膚の奥深くの細菌までは死滅できていなくて、汚染されているわ。回復魔法で細菌はすべて死滅できたけれど、皮膚の奥深くの汚染はまだ残っているの。これは魔法がきかないから、お薬で治すしかないのよ。……王都からきた兵士さんということは、野営するつもりだったんでしょ? 完治するまで、しばらくの間、うちにいた方がいいわ」


 母の言葉を聞いて、カイゼルは毅然と言った。


「いえ、そんなに長居するわけにはいきません。ここまでしていただき、感謝しています。あとは自然に治るでしょう。野営は慣れているから大丈夫です。明日の朝には、こちらを出ます」


 でも、結局はカイゼルが母の手腕に屈し、母が完治したと判断するまで、野営はせず、うちで暮らすことになった。


 私もダメ押しで、カイゼルに言った。


「エルヴェンの森に現れる魔物を倒すのがあんたの使命なら、私の家を拠点とするのは効率的だと思うの。だって、ここが一番森に近い家だからね」


「確かにそうだな。しばらく世話になるよ」


 そうして、カイゼルは我が家で暮らすことになった。

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