表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

2.森の中の出会い

 低く唸る音が森の中に響き渡り、茂みの向こうから数体の魔物が姿を現した。狼に似ているが、体は普通の動物よりも大きく、牙が鋭く光っている。目は真っ赤に燃え上がり、その動きには野生の獣以上の邪悪さがあった。


「やっぱり、仲間が来た!」


 カイゼルは剣を構え、前に出る。

 私はすぐに手を掲げ、魔力を集中させ始めた。


「俺が前を引き受ける。お前は後ろから援護しろ。」


「ちょっと、指図しないで!」


 私がそう言ってカイゼルを見ると、カイゼルはとても冷静な目をしていたので、それ以上の反論は止めた。


 一匹の魔物がカイゼルに飛びかかる。彼は素早く横に回り込み、鋭い剣の一撃で魔物を切り裂いた。だが、その後から次々と魔物が現れる。カイゼルは一匹ずつ切り裂いていくが、終わらない数の魔物を前にカイゼルの疲労が見え始める。


「私の力、見ててよ!」


 私は深呼吸し、手のひらに炎の球を作り出した。そして、力強い声で呪文を唱える。


「炎よ、敵を焼き尽くせ――フレイム・バースト!」


 私の魔法が炸裂し、十体ほどの魔物が炎に包まれて倒れる。どうやらこの場にいた魔物はすべて焼き尽くしたようだ。私は満足げに笑みを浮かべたが、魔力の使いすぎで少しふらついてしまった。


「おい、大丈夫か?」


カイゼルが一瞬振り返る。その隙をついて、どこからか焼けずに残っていた一体の魔物がやってきて、彼に襲いかかった。


「危ない!」


 私はとっさにカイゼルの腕を掴み、彼を引き寄せた。二人は地面に転がり、カイゼルの上に私が覆いかぶさる形になる。


「……何をしている?」


カイゼルが困惑した表情で私の顔を見上げてきた。恥ずかしくなって慌てて立ち上がる。顔が熱い。


「助けたんでしょ! 感謝してよ!」


「感謝はしているが……次はもっと冷静に頼む」


 そう話していると、また一体、どこからか魔物が突進してきた。カイゼルは立ち上がると素早く剣を振り、正確な一撃で仕留めた。


 どうやらこれが最後の魔物だったらしい。

 森は再び静けさを取り戻した。

 私は息を切らしながらカイゼルを見た。


「意外とやるじゃない」


「お前もな」


 カイゼルは薄く笑いながら、剣を収めた。


「でも、なんで魔物に襲われてたの?」


 思わず疑問の目を向ける。


 カイゼルは一瞬口を閉ざし、目を伏せたが、やがて言った。


「追われていたんだ。この国の平和を脅かす奴らに……。それ以上は言えない」


 私はその答えが少し不満だったが、とりあえず頷き、それ以上深く聞くのをやめた。そしてふと気づく。


「あなたの名前、まだ聞いてなかったわ。」

「俺はカイゼル。セリウス王国の……ただの兵士だ」


「ただの兵士にしてはずいぶん偉そうね。」


冗談めかして言うと、カイゼルは肩をすくめた。


「じゃあ、お前は?」

「リリアス。ただの村娘よ。」


 そう言って笑った。


(今まで「エルヴェンの森」で魔物に遭遇したことなんてなかったのに……。いったい何が起こっているの?こんなに魔物がいるなんて……。)


「とりあえず、一度私の家にこない? この森から30分ほど歩いたところにあるの。さっき私が治癒した傷もまだ完璧に治っていないうえに、新しい傷もできているみたいだし、まずはしっかり治療したほうがいいわ。私は魔法使いとしては未熟だけど、母は優秀な治療師よ」


 森を抜けるにも、新たな魔物と出会うかもしれないので、慎重に進む。


 静まり返った森に、二人の足音だけが響いていた。

 

 私はとうとう我慢しきれなくて口を開く。


「ねえ、もう少し話してくれない? いきなり現れて、何も説明しないで……それで『ただの兵士』って、どう考えても怪しいでしょ?」


 カイゼルは歩みを止めず、短く答える。


「余計なことを知らない方がお前のためだ。」


 その冷たい返事にムッとしたが、すぐに肩をすくめた。


「じゃあいいわよ。こっちも別に知りたいわけじゃないし。」


 少しの沈黙が続いた後、カイゼルがふと立ち止まり、口を開いた。


「お前の方こそ、一体何者だ? 村娘にしては魔法が扱えすぎる」


 その指摘に鼻を鳴らして笑った。


「ただの村娘よ。でも、魔法の練習は子どもの頃からしてるの。少し特殊かもしれないけど、あんたみたいな怪しい人よりは普通でしょ?」


 カイゼルは私の顔をじっと見つめた後、再び前を向きながらつぶやいた。


「……普通には見えないがな」


 その言葉が本心なのかからかっているのか分からない。

 森を出ると、小さな清流が現れた。カイゼルはそこで立ち止まり、水を手ですくって口に含む。


「少し休むぞ。」


 私もしゃがみこんで、水面を見つめた。自分の顔が揺れて映る。慣れ親しんだ場所ではあるけれど、いつもと違う緊張感が漂っているように感じた。


「ここ、あんたにとっては知らない場所よね?」


そう問いかけると、カイゼルは頷いた。


「初めてだが、悪くない。静かで、空気が澄んでいる。」


 その言葉に、少し驚いた。先ほどまでの冷たい態度とは違い、どこか柔らかさが感じられる声だった。


「ここは私のお気に入りの場所なの。小さい頃から何度も来てる。魔法の練習するにはちょうどいいんだけど……魔物が出るなんて初めてよ」


「それは俺たちのせいかもしれない」


カイゼルが低い声で答えた。


「俺たち?」


意味がわからなくて問い返すと、カイゼルは少し間を置いて答えた。


「俺の追っている魔物が、この辺りに引き寄せられた可能性がある。それに……奴らを操っている者がいる」


「操っている?」


「そうだ。魔物は単なる獣じゃない。明確な指示を受けて動いている。そして、それを指示している奴は……この国に災いをもたらそうとしている」


その言葉に、思わず息を飲んだ。


「そんな危険な相手、あんた一人でどうするつもり?」

「俺には任務がある。それだけだ」


カイゼルの声は冷静だが、どこか孤独を帯びていた。その姿を見て、胸の奥が少しざわつく。


「一人で抱え込むのはやめなさいよ」


そう言いながら立ち上がり、カイゼルを見下ろした。


カイゼルは顔を見上げ、私を見て少し笑った。


「余計なお世話だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ