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25 銀貨って

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 領主はいい男だった。

 ハルトムートを追っ払うと、褒美だと言って、一人ずつに銀貨を配ったんだ。信じられるか、銀貨だぞ。その上、俺には、ハルトムートが迷惑をかけたと言って、もう一枚くれたんだ。合計で六枚だ。もう、みんな、大喜びさ。領主様に最敬礼して送り出した後は、大騒ぎになった。

 とはいえ、みんな、銀貨など見たことはない。銅貨すら見たことがないのだから、当然である。そもそも、硬貨など、使っている者は猫町にはいない。もちろん、価値など分かるはずがない。精々、俺が、前々世で人間が使っているのを見たことがあるくらいだ。

 だから、俺が、この銀貨はいくらぐらいの価値があるんだろうと言ったので、何だ、それはとなったわけだ。多分、みんな、光物を貰って喜んでいただけだったのだ。銀貨ではなく、メダルを貰って喜んでいただけだろう。

 「えっ、銀貨だろ」

 「銀貨って何だ」と、ハンスが言ったのには驚いた。

 このハンスという男は、参謀役で、いつだって適切な対応を指示してくれる。今回だって、こいつの指示がなかったら、もっと苦戦していたはずだ。そのハンスが、銀貨を知らないということは、誰もこいつの本当の意味を知らないということだ。

 「もしかして、お金を知らないのか」

 首を縦に振る奴など一人もいなかった。

 そういえば、猫町で金を使う奴などいない。みんなが採ってきたものを料理して、食べて、寝る。子供や老人で、働いていないから食べるなという奴もいない代わりに、大物を獲ってきたから、俺がたくさん取るという奴もいない。精々、大きな顔をするぐらいである。それに、意外にも、こいつらは酒を飲まない。何でも、匂いがどうしても駄目なのだそうだが、実は、俺もそう思う。

 「鍋とか、包丁とか、着るものとか、どうしているんだ」

 「鍋や包丁は、昔からあるものを使っているし、着るものは干し肉と交換だ」

 つまり、物々交換というわけか。そりゃ、金などいらない。多分、鍋や包丁も、干し肉と交換で修理しているのだろう。

 「そうか、市場に知り合いはいないか」

 「俺はいないが、クリステなら知ってるかも」

 というわけで、クリステに聞いてみたら、ちゃんと知っていた。

 偉いぞ、クリステというわけで銀貨を出したら、「そんな大金を貰ったの」という。それで、こいつの価値を聞いたら、半デナリウス銀貨というのだそうだが、一枚十シリングだそうだ。

 「十シリングで何が買える」

 「牛が買えるわ。それも、かなり立派な」

 一銀貨、十シリング、一牛。なかなかのものだ。

 「豚なら四、五匹、羊ならもう少し」

 六枚だから、六十シリング、六牛。豚や羊なら三十匹ぐらいか。そのうち、銀貨が鳴きだしそうだ

 「じゃ、六十シリングなら」

 「六十シリング!そんなにもらったの」

 「まぁ、みんなでね」

 「そうね、小さな家なら買えるかも」

 「借りるではなく」

 「買えるかも、ただし、土地代は別」

 「借りるのなら」

 「二十シリングあれば立派な家を一年間は借りられると思うけど」

 「けど?」

 「…」

 「どうした」

 「獣人に貸してくれる人などいないわ」

 おお、そう来たか。道理で、ハルトムートの無茶苦茶を、みんな、黙って聞いていたわけだ(シーモンは切れたが)。それで、猫町は城壁の外にあるし、掘っ立て小屋だけで、家もないわけだ。多分、ハルトムートの言動を見るに、獣人が殺されても文句は言えないのだろう。暴動ぐらいは起きるかもしれないが、すぐに鎮圧され、全員、死刑で終わっても、誰も気にしないということか。

 そう考えていくと、領主の行動も納得がいく。

 領主は、俺達が魔猪を誘導してきたのを見て、感心したのだろう。魔猪を倒せるのに、領主の狩場であることを考えて、面前まで持ってきたからだ。その上、俺達はすぐに姿を消したから、止めを刺す役を譲って、領主の面目を優先したというのも分かったはずだ。ただ、相手は猫獣人だから、表立って褒めるわけにはいかない。だから、最小限の供回りだけを連れて降りてきた。

 ところが、褒美を与えようとした直前にハルトムートが現れた。領主は、人間よりも獣人を大切にするんだと喧伝しかねない人物である。だから、あ奴の発言に不快感を持ったが、否定することはしなかった。しかし、話を聞いているうちに、俺達の強さに興味を持った。五人だけで、五十三匹のゴブリンを倒しただとというわけである。しかも、試してみたら、何十匹もの猟犬を相手に、武器もなしに簡単に撃退した。

 こいつらが下の身分の安住するのならいい。しかし、何かあった際、変な行動を取られても、領主としては困るといったところだろう。だから、危険な森の中へ行った。誰もいないからである。つまり、俺達に褒賞を与えるにしろ、叛乱分子として処分するにしろ、誰の目につかないからである。そして、そのようなことができたのは、供回りが信頼できる者ばかりで、しかも、実力者が揃っていたからであろう。


 しかし、ミドルブルク篇と加護篇と同時に書いていると、連載を二つ抱えているような気分になります。


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