21 ヘイルって誰
なぜか、ミドルブルク篇には第20話が二つあって、同じ内容が入っております。多分、操作ミスが原因なのでしょうが、修訂ついでに第21話をアップいたします。
毎日、たくさんの方々にお越しいただいており、感謝以外の何ものもありません。厚く御礼申し上げます。
「ヘイル、どこへ行っていたんだ」と、町の入口で白い猫獣人に声をかけられた。
「ヘイル、心配してたのよ」と、茶白の女が、
「ヘイル、どうしたんだ」と、錆色の取り分け薄汚れたのが、
「大丈夫ですか」と、茶髪の女が声をかける。
「おい、無視かよ」と、肩を掴まれる。
振り返ると、虎毛の奴が怒ったような顔で肩を掴んでいる。
「俺のことか」
「俺のことかって、お前はヘイルじゃないのか」
「ヘイルじゃない。俺は…」と言いかけて、自分の名前が思いだせないことに気づく。
「その灰色の巨体がヘイルでなかったとしたら、誰なんだ」
灰色の巨体だと、俺はそんな色じゃない。そう思って、腕を見る。なるほど、灰色だ。そういえば、視点が随分と高い。
「何だか変だわ」と、さっき心配してくれた茶白の女が言う。
「飲みすぎて、ついにおかしくなったか」と、最初に声をかけてきた白いのが言った。
「頭でも打ったのかな」
今まで黙っていた三毛が言う。
「ファオ、これは無理ね」
「でも、ゼーレは無事だから、こっちに入れちゃお」
急に、西洋人の姉ちゃんの声を思い出した。
「俺はヘイルなのか」
「当たり前でしょ」と、茶白の女が答える。
どうやら、あの姉ちゃんは医者か何かで、俺のゼーレを別の体に…。
「ゼーレって、何だったけ」
「魂がどうしたというんだ」と、三毛が答える。
「おい、ヘイル、今度は宗教に走ったのか」と、虎毛が呆れたというように叫ぶ。
「ヘイルが、ヘイルがおかしくなった」と、錆色が言う。
そうか、魂か。
多分、俺は、もう一度死んだのだと思う。
そういや、日本にいた時、この木は堅いから折れやすいと、誰かが教えてくれたっけ。
柔らかい木は曲がるけど折れないものだと。柿の木なんか、簡単に折れるからな。
きっと、俺がつかんだあの木は、堅くて折れやすい木だったのだなと思う。
そして、落ちたことにも気がつかずに命を失くしたんだろう。
それを、あの姉ちゃんが魂をすくって、ヘイルとかいう人の体に入れてくれた。
そういや、俺は、その前にも白い光を浴びて…。
「何で、俺の魂だけが」
「お前、本当にヘイルか」と、虎毛が聞いた。
「多分、そうだな」
「多分って、どういうことだ」と、虎毛がもう一度聞いた。
「ちょっと、頭がふらつく」
茶白の女が慌てて、「そこの木陰にでも横になったら」と言ってくれたので、ありがたく、そうさせてもらう。
横になって考える。
魂をすくって、別人の体に入れるって、人間には無理だ。ということは、あの姉ちゃんは神か何かだ。問題は、なぜ、俺が選ばれたかだ。
最初に俺が死んだ時、俺の名前はなかった。生まれ変わった時もなかったように思う。だったら、何が、だったら、か知らないが、俺の名前はヘイルにしよう。
問題が一つ片付いた。俺はヘイルだ。
俺は何だ。猫獣人だ。二つ目の問題が片付いた。
住みかは。ここだ。三つ目の問題も片付いた。凄いな。俺は天才か。
問題は、なぜ、俺が選ばれたかだ。
猫獣人なる前、俺は猫だった。それは、はっきりと覚えている。
名前はなかった。白黒のチビ猫だった。
親兄弟はいなかった。多分、産まれてすぐに捨てられたんだろうと思う。それが生き延びられたのは、近所の人間の女の子がミルクをくれたからだ。皿にミルクを入れてもらったが、飲めずにいるのを見て、別の女の子を連れてきた。そして、布切れにミルクをつけて飲ませてくれた。今考えると、人間の使うハンカチというものを使ったのではないかと思う。
そのうちに、うるさい連中がやってきて、そこを追い出され、女の子たちとも別れさせられた。それから、何とか生きてきた。泥棒猫だとか言われながら。
産まれて一年ぐらい経ったころ、俺は恋をした。いや、もう、奮いつきたくなるくらい立派なボディの持ち主で、流し目を俺にくれた途端に腰が抜けた。そのまま、ついていったら、白い光がして…。
そうか、世界が白く輝いたんだ。あれが原因だ。
あの後、俺は母親の胎内にいたと言ったが、その前に、俺は闇の中を漂っていた。一人じゃなかった、何か、いろんな色のボールと一緒だった。ボールは、数えてみると六つあって、うち二つが大きく、白く輝いていた他は、青、赤、緑、金色にほのかに光っていた。
すると、白く輝いていた一つが急に向きを変えた。その先には、綺麗な赤色のもっと大きなボールがあったのだが、そこへ黒いボールが急接近してきた。白いのもスピードを上げて、結局、同じタイミングで二つとも赤いボールに吸い込まれて消えた。しかし、赤いボールに変化はなく、ただ、少しずつ逸れていって、やがて、見えなくなった。
そのうちに、いろいろなボールが見え、青、金色の順番に吸い込まれて行って、コースを変えた。そして、緑のが、黒いボールへ吸い込まれようとして、弾き飛ばされた。白い光が飛んできて邪魔したのだ。何だが、自分が死んだ時の光に似ていた。




