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20 猫町の戦い(ヘイル・サイド)

 犬どもの悲鳴が聞こえた。

 瞬間的に目を覚まし、目を凝らす。

 遠く、闇の中に白いものが見える。

 ハルトムートの悪名高い猟犬どもだ。

 ほとんどが白犬なので、闇の中でも目立つ。

 ゲルハルトとかいう奴が命じたのだろう。

 「敵襲だ!猟犬の群れがやってくる」と叫びながら、迎撃に出る。

 幸い、仲間達の反応はよくて、町との境辺りで五人全員が揃った。

 「おかしい、半分以上、森へ行ったぞ」と、ヘンリックが叫ぶ。

 「運がいいぞ。この数なら何とかなる」と、ヨハンが応じる。

 「じゃ、ここで迎え撃とう」と宣告する。

 「ヘイル、ヘイトを集めてくれ」と、ヨハンが言い、「残りは撃ち漏らすな」と続ける。

 皆が歓声を上げて待っていると、突然、森の中から恐ろしい吠え声と大量の悲鳴が上がった。

 「あれって、化け物熊の吠え声じゃないのか」

 「ヘンリック、あいつら化け物熊の巣穴に突っ込んだのか」と、ヨハンが言う。

 「何も知らん奴ならともかく、わざわざ、あそこに突っ込むやつがいるか」

 「だけど、それしかないぜ」と、ヘンリックが言う。

 「それより、目の前だ」と、ヨハンが注意する。

 猟犬どもも、気になるのか、足を止めて森のほうを見ている。

 「今のうちにやっちまおうぜ」とヨハンが言うので、みんなで突進した。

 何匹か、先頭の俺を襲ってきたが、残念ながら、俺の体は特別製だ。

 猟犬の牙など痛くも痒くもない。

 それを、両脇からみんなが攻撃する。集団戦のいつもの戦い方だ。

 「しまった、抜かれた」と右端にいたシーモンが叫ぶ。

 それに気を取られたのか、その隣にいたヘンリックが体当たりを受けて転倒し、その間をさらに二匹が走っていく。続いて、真っ黒な何かが走り抜けていく。

 「とりあえず、こいつらをやっつけてからだ」と、ヨハンが冷静な指示を出す。

 「あいつら、木の上には登れないから、子供らもしばらくは大丈夫だろう」と、噛みついてきた一匹を押し飛ばしながら答える。

 やがて、猟犬どもも敵わぬと見たのか、徐々に森のほうへ帰っていった。

 後ろを振り向くと、防衛線を突破したはずの三匹が尻尾を巻いて逃げていく。

 おかしいと思って近づくと、真っ黒な猫獣人が立っていた。

 どうやら、撃退してくれたらしい。

 「あれ、この間からうろうろしている黒いのじゃないかな」と、エッボが言う。

 「あの黒いのは、悪魔だというじゃないか」と、ヘンリックが言う。

 口を利けるぐらいだから、転倒しても大したことはなかったらしい。

 「たとえ悪魔でも、子供達を救ってくれたのなら、よい悪魔だ」と、ヨハンが呟く。

 「俺はヘイルだ」と、握手を求める。 

 「ニックだ」と、握手を返してから、「別の世界にいなかったか」と聞いてきた。

 その瞬間、俺は思い出した。あの子はどこへ行ったんだ。


 俺はあの子を追いかけていた。

 あの子も野良だったが、セクシー・ボディのブロンドで、流し目で誘ってくれたんだ。だから、あの家までついていったんだけど、庭が土じゃなくて、コンクリで固まっていたのには驚いた。もっとも、周囲は薮だったし、生垣もあったから問題なく入れたが。

 道のほうで声がして、車が入ってくる音が聞こえた。人間というやつは、どうして、あんなやかましい、へんな臭いをまき散らすものに乗るんだと思う。

 何となく見ていると、若い男が、女の子と話しながら道のほうからやってきた。すると、車の中から、急かすような声がした。

 「若生さん、ここでいいそうです」と、若い男が言った。

 それから、世界が光った。

 気がつくと、俺は母親の胎内にいた。

 もっとも、最初は、随分とやかましい場所だなと思ったぐらいだったが、近くにいる塊に目鼻がついてくると、さすがの俺でも気がつくというものである。俺は生まれ変われるんだと思ったら、嬉しくなった。

 しかも、生まれ変わった先は猫ではなく、人間だった。猫獣人というらしいが、人間のようにしゃべり、二本脚で歩く。もともと、それほど動き回るほうではなかったが、二本脚になって視点が上がると見えるものが異なってくるので、面白くなっていろいろと歩き回ったり、走ったりした。お陰で運動能力は向上したが、ある日、枝から枝へ飛び移って遊んでいたら、いきなり、枝が折れた。


 青く、何かが光った。

 何だか、綺麗な西洋人の姉ちゃんがいた気がする。

 「ファオ、これは無理ね」

 「でも、ゼーレは無事だから、こっちに入れちゃお」

 そんな声がしていたような気がする。


 目が覚めると、そこは茂みだった。

 どこから落ちたのだろうと思って、辺りを見渡す。

 しかし、枝の折れたあとどころか、飛び移れそうな木すらない。

 立ち上がって、辺りを見渡す。

 背の低い木が何本かあるだけで、砂地の中に葦らしい植物が一面に茂っている。

 しかし、足跡がない。臭いもしない。

 砂地だから、足跡が残らないはずはないのだがと思ったが、自分が横たわっていたところの葦が倒れているばかりで、移動の形跡はない。

 不思議がっていても仕方がないので、下流に見える町のほうに歩いていく。


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