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17 ギルドにて

 父上が扉を開ける。足音が木の床に響き、奥のほうにたむろしていた者達が振り返る。カウンターの向こうで、受付が立ち上がる。

 周囲の視線を撥ね退けるようにして、部屋の中を見渡す。奥には、右手に猫獣人が六人、左手には、こちらは人間ばかり五人いる。受付を無視して、獣人のグループのほうにゆっくりと近づく。

 六人が、何かあったのかという表情で、警戒するのが分かる。しかし、その中の黒いの声をかけると、急に表情を崩した。そして、抱きつかんばかりの勢いになったので、この獣人で間違いないだろうと思う。第一、精霊が肩にとまっている。

 そして、その隣の灰色の大きな獣人にも精霊がついていた。最初に反応した獣人が、嬉し気にその獣人に話しかけた。

 「ヘイル、こちらがそうだ」

 「えっ、そうなのか」

 「今から、話しかけてもらうから、驚くぞ」

 「何を驚くって…、えっ、何だこれは」

 それから先は、念話で話していたので、二人の声しか聞こえない。このため、取り残された四人は、何が起きたのか分からず、呆然としている。

 「騎士殿、何か問題でも」という声が後ろから聞こえる。

 振り向くと、受付の顔が見えた。 

 父上がカウンターに近づき、「フォン・ファーレンドルフだ。ギルド長殿に会いに来たが、目的は既に果たせた」と伝える。

 「フォン・ファーレンドルフ殿、紹介状か何かをお持ちですか」

 「ここにあるが」

 「これは領主様の封印」

 「そうだが、もう必要はなさそうだ」

 「そうですか。ただ、領主殿の紹介状を持った人を勝手に帰すわけにもいかないので、しばらくお待ちいただけないでしょうか」

 「分かった」と言って、カウンターの奥にある階段を駆け上がっていく受付を見送る。

 単なる冒険者が、騎士、それも領主の紹介状を持ってくるような騎士に、こちらから声をかけるわけにもいかないので、受付の前に立つ父上に話しかけるものはいない。

 ようやく、受付が戻ってきて、「フォン・ファーレンドルフ殿」と声をかける。

 「マスターが、お会いしたいと申しておりますので、二階へお願いできますか」と、受付がカウンターの一部を跳ね上げた。

 「この者達と一緒でもいいか」と、父上が、自分達のほうを指さす。

 「もちろんでございます」と受付が言うので、二人を連れてカウンターに向かう。一緒にいた四人ですら、何が何だか分からないようなので、左手の五人は、余計に何も分からないだろう。ただ、黙って自分達を見つめているだけである。

 「ニック、ヘイル、お前等、今度は、いったい何をした」と、二人が通る時に、受付が急に図太い声を出す。

 「あら、オットー、知り合いよ、し・り・あ・い」と、ヘイルと呼ばれたほうが言う。

 「怪しいもんだ」と言って、受付は二人を通した。

 部屋の前にマスターが立っていた。

 「騎士殿、当ギルドにようこそ。私、当ギルドのマスターをしておりますライナーです」と言ってから、二人を(いぶか)し気に見た。

 「フォン・ファーレンドルフだ」

 マスターは手を差し出されるのを待ったようだったが、諦めて、「どうぞ、こちらへ」と、応接セットに案内した。握手をするかどうかは、立場が上の者が決めるものだからである。ニックとヘイルは、珍しそうに部屋を見回している。

 父上が、長椅子に座る。座面には余裕があったが、二人は後ろに立って、座ろうとはしなかった。

 「して、御用件は」と、すぐに切り出された。

 どうやら、効率を重視するほうだと判断したのであろう。

 「人探しに来たのだが、もう済んだ」

 「後ろの二人ですか」

 「そうだ」

 「失礼ながら、ファン・ファーレンドルフ殿、騎士殿が自らがお探しになるには、奇妙な人選のように思いますが」

 「いや、この者達で間違いない」

 「と申しますと」

 「詮索好きだな」

 「いえいえ、面倒ごとは避けたいものですから」

 「マスターとしては当然かも知れぬな」

 「御理解いただいたようで何よりですが、無理に聞こうとは思っていません」

 「子爵の紹介状のある者の不興を買いたくないということか」

 「御慧眼で」

 「実は」と言ってから、口が止まる。

 「実は」と、マスターが繰り返す。

 「精霊様に愛された者を探していた」

 「精霊様に愛された者ですか」

 それ以上、何と言ったらいいのか分からなくなったのか、マスターの口が開いたままになる。

 「そうだ」

 「この二人がでしょうか」

 「この二人だ」

 「後学のために、よろしければご教示いただきたいのですが、どうやって見分けられるのでしょうか」

 「精霊様がついている」

 「精霊様が」と言って、二人を見やる。

 「私にはいつも通りの馬鹿面しか見えません」

 「小さいのがおられるだろう」

 マスターがこちらの頭越しに二人を凝視する。

 「分かりません」と、凝視し続けて疲れ果てた様子でマスターが言う。

 父上は、後ろを振り向くと、獣人の左手付近にいたそれを指さして、「こちらだ」と言う。

 「私には単なる羽虫に見えるのですが」と、マスターが気の毒そうに言う。



 ここからは別人の物語になります。

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