16 真実は
「魂ある者達が互いに手を取り合って平和な社会を築けという我が言葉を真摯に受け止め、その実現に向かおうとする、其の思いは我が喜びである」
荘厳な口調で、父親が精霊王の言葉を繰り返す。
「つまり、人間もオルクも手を取り合って平和な社会を築けということだな」
「オルクだけではないかもしれません」と、普段の口調に戻った父上が言う。
「たとえば」
「魔王とか」
「さすがに、それは…、何か、あるのか」
「大精霊様は、魔王陛下と仲がよろしいですね」と、横合いから口を出す。
「それは真か」
「自分は、父上の子であります」
「なるほど、嘘はつかぬか」
「少なくとも、閣下には」
「ただ、魔王のことを言い出すには順番を考えたというわけか」
「さすがでございます」
「試すようなことをいたしまして申し訳ありません」
「そうすると、我々は魔王とも知り合いになる可能性があるのか」
「私は面識はありませんが、レオンハルトの魔法は魔王に教わったそうです」
「料理や酒も、私の知識をもとに陛下が作られたものです」
「赤ん坊の身でどうやって作ったのだろうとは思ったが、そういうことだったのか」
「もっとも、精霊王陛下からも魔力をいただいております」
「大精霊様が、陛下の御心により勇者のもとに遣わされたと仰っているのだから、その点は自明のことと思っている」
「はい、ありがとうございます」
「しかし、レオンハルトは大精霊様のみならず、精霊王陛下や魔王とも知り合いなのか」
「はい、両陛下ともに親しく話をさせていただいておりますが、魔王陛下は、トイフェルシア復興のために不在です」
「トイフェルシア、魔国か。あそこが破壊されたとは知らなかったが」
「ドラゴンにやられたと言っておられました」
「ドラゴン!」
「もっとも、留守中に襲われたようで、陛下御自身は復讐を考えておられるようです」
「魔王とドラゴン、どっちが勝つかというのは難しいな」
「陛下は勝つ自信があるようでしたし、勇者でもありますので、陛下のほうが有利だと思います」
「魔王は勇者でもあるように聞こえたが、儂の耳がおかしくなったのか」
「実は、陛下とともに、自分はこの世に転生しており、勇者の力は等しく持っているはずです」
「おい、ということは、魔王もハイジの胎から産まれたのか」
「もっとも、出産直前にトイフェルシアに行かれたので、そうとも言いかねる部分はあります」
「閣下、その部分は拡げないで下さい」
「魔王案件そのものが極秘だろうから、その心配はいらないだろう」
「ありがとうございます」
「自分も、母上がショックを受けるようなことは申したくありません」
「分かった」
「しかし、魔王とドラゴンの戦いがもうじき始まる可能性があるということだな」
「自分としては、ドラゴンとも仲良くなりたいのですが」
「さすがは精霊王陛下が見込んだだけあるの」
「ドラゴンと友達になりたいなどという者が現れる、それも、我が子に現れるとはな」
「もっとも、魔王と知り合いであるという時点で、今更という気もするのだがな」
「そういう重要人物を表に出してもいいのだろうか」
「はい、ぜひ、存在を隠してほしいです」
「ただ、准男爵第一号だからな、お披露目はいるな」
「面倒ですね」
「赤ん坊の姿でも、勇者だと紹介すれば、誰もが納得するであろう」
「もっとも、将来、我が娘を妻にとか、私のところに殺到しそうですが」
「それはあるだろうな」
「その場合、自分は妻帯者ですと言っても無駄なのでしょうね」
「赤ん坊が妻帯者ですと言っても納得はされないだろうし、この世界では何人も妻をもつ者もいる」
「それは愛人では」
「もちろん、そうだが、貴族間の連携を深めるという意味で、必要悪だと思われている」
「なるほど、貴族も大変なのです」
「それでも、我が准男爵にはなってもらえるのだな」
「はい、そうなっても、貴族となると、多少は無駄な付き合いは避けられるのではという計算があります」
「晩餐会にも呼ばれるぞ」
「グレンツァッハに引き籠ります」
「辺境伯閣下に呼ばれたらそうも行かぬぞ」
「その場合は、立場を使い分けます」
「どういうことだ」
「ある時は零歳児、ある時は三十四歳」
「ファーレンドルフ、ファーレンドルフ、こいつはかなり狡い奴だ」
子爵が笑いながら言った。
「そうでございますか」
「しかし、嫌いではない」
逃避2号




