14 人生を任せられる
「何、それは本当か」
「ただ、争いごとは嫌いです」
「らしいな、勇者なのに」
「はい、自分の国は八十年前に負けて以来、戦争をしていません」
「八十年、そのようなことが、あり得るのか」
「その八十年前の戦争で、祖母は、家を焼かれ、母親を目の前で殺されたそうです」
「兵隊にか」
「空襲でです」
「空襲…、空から攻撃できるのか」
「自分がいた場所では、飛行機という空を飛ぶ機械がありました」
「…、それで海の向こうの大陸へ空を飛んでいったと」
「はい、一度だけですが、参りました。しかし、二度目に乗った際には、その飛行機の事故により、自分の家族のほとんどを失いました」
「そうなのか。辛いことを思い出させてすまなかった」
「いえ、問題ありません。ただ、飛行機のことは、あまり考えたくありません」
「分かった」
「ありがとうございます」
「それで、戦争は嫌だと」
「はい、祖母の伯父も戦地で亡くなっておりますが、どうやら、餓死のようです」
「兵站は重要だが、うまく機能しないことがあるからな」
「はい、祖母からそういう話を聞いて育ったものですから、自分は戦争が嫌いになりました。殺されたくもありませんし、人を殺したくもありません。しかし、戦争へ行かぬ騎士などあり得ないと思うのです」
「確かにそうだが、儂の言うことを聞かぬ騎士も多いぞ」
「その中でも、もっともご命令に従わぬ者になりそうなのですが」
「ならば、准男爵に任じよう」
「はい、今、何と」と、父上が声をあげる。
「レオンハルトを准男爵に任じようと言った」
「その准男爵というのは何でございましょうか」
「以前、辺境伯閣下と話していた際に、騎士と男爵の間にもう一つ欲しいという話になり、創設されることになった爵位だ」
「騎士と男爵の間でございますか」
「海の向こうの王国にはあると漏れ聞いている」
「なるほど」
「ただし、一代限りで、封土もない」
「つまり、名誉だけという理解でよろしいのでしょうか」
「年金がつく」
「おいくらでしょうか」
この辺り、西洋の感覚である。日本人なら、金額を聞きたくても、できない。
「十プフントと聞いている」
「そんなにもいただけるのですか」
「増額もできる」
「そうでありますか」
「儂は百二十プフントを考えている」
「百二十プフント!グレンツァッハどころか、ホイドルフの税収より多いのでは」
「それを受けてしまうと、父上よりも上になってしまうのでは」と、自分も質問する。
「ホイドルフの税収などすぐに上がるし、ファーレンドルフ…、ブルクハルトには男爵を与えるし、これ以上の年金を与える」
父親が固まる。
「義務は何でございましょうか」
「従軍の必要はないが、儂とグステの話し相手になってほしい」
「ミドルブルクに移れということでしょうか」
「その必要はない。どうせ、いつでも来れるのだろう」
「何か考えます」
「ただ、傷ついた将兵を助けてもらえるとありがたい」
「その前に、将兵が傷つかないようになればと思っております」
「それは無理だ。戦わずして、この世界では生きてはいけない」
「戦わずに、子爵家を伯爵家に、可能ならば侯爵家にすればよいのですね」
「そのようなことが…、可能なのか」
「自分の力ならば、可能だと思っております」
「ファーレンドルフ」
「はい」
固まっていた父上が、条件反射的に答える。
「今のを聞いたか」
「しっかりと」
「どう思う」
「レオンハルトは大言壮語は致しません」
「よし、まかせた。儂の人生を、我が准男爵レオンハルト・フォン・ファーレンドルフに任せた」
「その前に」
「何だ、人が科白を決めて酔っている時に」
「すいません」
「まあ、よい」
「ありがとうございます」
「それで、何だ」
「自分は人付き合いが苦手です」
「儂と一緒だな」
「そうで、ありますか」
「信じていないだろう」
「はい」
「上下関係があるのはいいのだ」
「つまり、閣下と自分のような」
「あるいは、儂と辺境伯閣下だ」
「はい」
「そういう関係ならスムーズに話せる」
「はい」
「しかし、同輩同士だと途端に駄目になる」
「立場がなくなるからでしょうか」
「ファーレンドルフ、こいつを儂の子にくれ。相続人に指定するから」
「身に余る光栄ですが、この子の意見も聞いてもらえますか」
「どうだ」
「この世界での父親は、父上のみと定めております」
「いつからだ」
「生まれる前、転生先を聞かされた時からです」
「そうなのか」
「自分が十七歳の時、両親は事故で死んでおります」
「そうであったな」
「はい、ですが、今回、もう一度、父母というものを持てるという幸運に恵まれました。その際に思ったのは、どのような父母であっても孝養を尽くしたいということでした」
「そうか、いい父母であるか」
「もったいないぐらいに」
「ならば、仕方がない」
「ありがとうございます」
「それで、人付き合いの話であったの」
「はい、できれば自分の存在は隠しておきたいのです」
「努力はするが、秘密は漏れるものだぞ」
「勇者を庇護下に置いているとも喧伝できないでしょうし」
「それは痛いな」
「では、勇者が生まれたが、生まれたばかりの赤ん坊で、何もできないと言われたらどうでしょうか」
「それができるのなら、儂の箔も大いに上がるというものだ」
「その際、大精霊様より伝えられたと言えば」
「さすがに嘘は言えぬ」
「大丈夫ですわ」という声とともに、入口のほうが光る。
すいません、今日、明日と日中は忙しいので、次の更新は夜になると思います。
2024年7月27日 筆者謹白




