13 騎士の意義
「十分に礼儀正しいし、頭も回る。素晴らしい息子だな」
「ありがとうございます」
「ときに、ファーレンドルフの息子は何歳だったか」
「嫡男エーベルハルトが十八歳、次男のベルンハルトが十六歳でございます」
「ベルンハルトと申すのか」
「はい、そうです。ベルンが、閣下の家名と重なっておりますが、まずかったでしょうか」
「ベルンなど、そこいら中にいるからな。しかし、今、気づいたのだろう」
「いえ…、そのようなことは」
「そうか、まあいい。で、その二人と、こちらのレオンハルトを騎士に任命しよう」
「何ですと…、いや、これは失礼しました。あまりのことに驚きまして」
「父上、騎士になるって凄いことなのですか」
「閣下、レオンハルトが騎士になるということの意義が分からないようですので、失礼して、説明していてもよろしいでしょうか」
「許す。その間、ブランデーを楽しませてもらうぞ」
「では、こちらを」と、甕に入れたブランデーを出す。
「おお、助かる。勝手にやらせてもらうぞ」
こちらでは、酒は召使が注ぐもので、酌などはしないそうなので、手酌でやってもらうことにする。
「七歳から騎士になる訓練を始め、小姓として領主様の手伝いを行い、十歳から十二歳頃には従騎士となる。そして、十七歳から二十歳頃に騎士に任命される」
「剣の平で、首筋を打つというあれですね」
「何だ、それは。お前の世界の騎士は、そんなことをするのか」
「こちらでは、そのようなことはしないのですか」
おかしい、あれは小説だけのことなのか。
「しないの。こちらでは、武器が与えられる」
「佩剣式でしょうか」
「何だ、知っているではないか」
「細かなことは存じません」
「そうか、領主閣下から剣と盾と鎧を拝領する」
「父上は、こちらの子爵閣下から」
「そうだ、先々代閣下から頂戴した」
「先代閣下ではなく」
「今の子爵閣下の父上は早くに亡くなられた」
「分かりました」
「うむ、もちろん、すべての者が騎士になれるわけではない」
「費用が掛かりますからね」
「武器代、さすがに馬はこちら持ちだが、それに封土がつくからな」
「封土は広いのでしょうか」
「様々だが、それほど広くはないのが普通だ。領主閣下の土地を分け与えられるのだからな」
「大きな名誉なわけですね」
「貴族の一員にもなるからな」
「こちらは、長子相続制ですか」
「百年ほど前までは分子相続制だったと聞いているが、今はそうだ」
すべての子に財産を分けていったら、零細化するので仕方がないだろう。当然、騎士になれなかった騎士の次男以下は何も与えられないし、身分は庶民となるのだろう。
「でしたら、エーベルはともかく、ベルンは貰ったほうがいいですね」
「もちろん、そうだ。それに、十六歳で佩剣式を迎えるというのは、まず、あり得ない名誉だ」
「問題は自分ですね」
「小姓も、従騎士もしていない者が、一足飛びに騎士に任命されるなどというのは、もっとあり得ない」
「しかも、零歳児ですからね」
「皇帝陛下の長男でも例がないと思う」
「そのようなことをしたら、皇帝陛下に睨まれるのでは」
「辺境伯閣下が許可を出されなかったら別だが、睨まれても何の問題はない」
中央集権ではないようだ。この辺りは十世紀である。
「レオンは、閣下の下につくのは嫌か」
「ではなくて、貴族になるのが嫌です」
「名誉は嫌いか」
「あまり、人と付き合うのは得意ではありませんので」
「だから、馬鹿丁寧になっても、他人との距離をとる」
「分かりますか」
「儂がそうだからな」
「そうなのですか」
「今日は随分と無理をしているが、人と話すのは苦手だ」
「そういえば、苦虫を嚙み潰したようなと言われていましたね」
「そういうことだが、お前はどうしたい」
「父上の顔を立てるのなら、受けるべきでしょう」
「立てないのなら」
「…」
「お前はイクノ家の当主だから、好きにすればよい」
「はっきり言って分かりません」
「そうか」と言うと、父上は子爵のほうを向いた。
「閣下、上の二人をお願い致します。レオンハルトにつきましては、もう少し待っていただけますでしょうか」
「やはり、賢いの」
「そうでしょうか」
「たかだか地方の子爵の庇護下で満足できるような器ではないということよ」
「たかだかなどとは思っておりません」
「レオンハルトよ、そう言ってくれるのはありがたいが、じきにそうなる」
「そこまで思い上がっておりませんが」
「思い上がっていなくても、世間が放っておかないだろう」
「そのようなことが」
「あるの。それに、レオンハルトは勇者だろうが」
「そうですが」
「勇者を庇護したというだけでも意味があるし、ま、あのお方はレリヒの騎士から始めたと言わせたかっただけだ」
「本当にそれだけですか」
「いろいろと恩義を与えておけば有利になるという計算はある」
「ならば、受けさせて下さい」




