12 秘密会談
子爵は、自らの手で書斎の鍵を厳重に閉めた。控えの間も施錠していたので、廊下から盗み聞きすることはできない。随分と暗くなってきたので、灯りをともす手間を省いて、ライトの魔法を発動させる。
子爵は、急に明るくなったことに少し驚いたようだが、深々と椅子に腰を沈めると、こちらにも座るように勧めた。
「おい、どれだけ魔力を持っているのだ」
座りきる前に、子爵の疲れた声がした。
「空揚げだったか、それを三十人分に、ビール一樽、それに、作りたての料理三人前に、冷やしたビール、三十年前の酒、…そして、一瞬で、この部屋を明るくした魔術」
「私ではなく、この者の力ですが」
「やはり、その鳥か」
「はい、本人から説明させてよろしいでしょうか」
「口がきけるのか」
「口というより、直接、頭の中に響いて参ります」
「何だと」
「論より証拠で、試してもらってもよろしいでしょうか」
「頼む」
「閣下、初めまして」
「…」
「ブルクハルト・フォン・ファーレンドルフが三男レオンハルトでございます」
「これは、口に出したほうがいいのか、念じたほうがいいのか」
「どちらでも大丈夫でございます」
「そうか、では、口に出すことにしよう」と言うと、ブランデーで軽く喉を潤した。
「レリヒ子爵フランツ・フォン・ベルンシュタインだ。いろいろと貰って感謝している」
「お気に召されたのなら幸甚に存じます。また、父に、多大な領地や爵位を賜り、感謝以外の何物でもありません」
「ファーレンドルフ、随分と丁寧な物言いの者だが、何とかならんのか。辺境伯閣下と話している自分みたいで、肩が凝っていかん」
「はい、レオン、だそうだ」
「分かりました、ただ、こちらに来て数日なので、失礼があるかもしれませんが」
「これだけの魔術師だ、すでに立場は逆転しておるわ」
「いえ、自分は魔術師ではありませんし、魔力もありません」
「…、それでどうやってあのような魔法を使えるのだ」
「はい、精霊王陛下から魔力をいただいております」
「なぜ、貰えた」
「自分が、別の世界からの転生者だということは御存じでしょうか」
「異世界、それも未来の異世界からの転生者であることは、勇者であることも含めて、ファーレンドルフからの手紙で知っている」
「信じてもらえるのでしょうか」
「信じていなかったが、信じざるを得ない」
「では、今から話すことも信じてもらえそうです」
「虚心に聞かせてもらおう」
「そもそも、浮遊していた自分の魂を勇者として選んで下さったのは、大精霊アリエル様でした」
「なぜ、選ばれた」
「白かったからと、大精霊様は仰られましたが、それは死んだことを喜んでいたという意味だそうです」
「死が嬉しかったというのか」
「十年間、人と会わずにいたからです」
「大変な苦労をしたのだな」
「それほどのこともありませんが、大精霊様を通じて、精霊王陛下、王妃陛下にお目にかかる機会を得ました。その際、料理や、酒を献上したところ、親しく話しかけていただくという名誉を得ました」
「料理や酒というのは、俺やグステが食べたあれか」
「そうです。自分の世界のものです」
「やはり、異世界のものか」
「そうです、その御礼だと言われて、魔力や魔法を頂戴しました」
「魔力や魔法の譲渡ができるのか」
「そのようですが、その代わり、いただいている魔力が切れると魔法も使えません」
「あと、どれくらい保つのだ」
「よほど大きな魔法を使わない限り、しばらくは大丈夫だと思います」
「これだけの魔法を使っておいて、大きな魔法を使わないかぎりというのか」
「はい、そういう魔法は使わないほうがいいと思いますが、魔力が切れる前に補給したいと思っています」
「どうやってだ」
「魔素を集めます」
「魔素とは」
「大気中に浮いているものだそうですが、濃いところと薄いところがあります」
「濃いところというと」
「近いところでは、魔の森だそうです」
「あそこか」
「ただ、この体ですもので」
「そういえば、生まれたばかりだったとか」
「前の世界では三十四年生きておりましたが」
「それでも、この中では一番若いの」
「奥様は別としてですが」
「ああ、あれか。この間までは、グステは儂の一つ下だと思っていたのだが」
「失礼ながら、思い違いはどなたにもあると思っております」
「なるほどな」
「女性の言われることに、特に年齢に関することには逆らってはいけないというのは学んできました」
「ということは、結婚しているのか」
「先日、結婚致したましたが、既に十五歳になる娘がおります」
「さっき、ファーレンドルフが言っていた子か、十五歳ということは、先妻との子か」
「いえ、今の妻との子ですが、事情があって一緒におれませんでした」
「そうか、大変だったの」
「御心配、ありがとうございます」




