10 子爵夫妻との会話(その五)
「でないと時流に乗り遅れる」
「ありがとうございます」
「いや、ミドルブルクの発展もかかっている」
「それに、今は数が少ないですが、オルクの数が揃えば」
「そうだな。もし、そうなれば攻め込もうという気を起こすところも減るだろうな」
「こちらから攻め込むのではなく」
「精霊王陛下は、本来、魂を持つ者は等しく我が子である。しかしながら、互いに憎み合い、甚だしきは互いに傷つけ合い、殺し合う者まで出てきたと、仰っている」
「人間同士が争うのもおかしいわけですね」
「それに、勇者は戦を好まぬそうだからな」
父上が頭を下げる。肩の上で、小鳥も頭を下げる。
「そうなると、我等のような騎士は廃業ですな」
「いや、領主は必要だし、四海に囲まれた島国でもない限り、兵力は必要だ」
「それでも、兵隊の数は減るでしょうから、経費は減りますね」
「そうだな」
「あと、第三の理由として、姫君達を保護してくれたことです」
「我等の繁栄のための鍵になる姫君だな」
「オルクが保護してくれたことにより、姫君達の命が助かり、純潔が保証されました」
「命が助かりは分かるが、純潔のほうは」
「実は、その祝宴の際に、私達家族やオルクだけでなく、姫君達にも指輪を下賜されたのです」
「何という大盤振る舞い」
「その際、王妃陛下は自らお二人に指輪を与えながら、こう言われたのです」
子爵がまじめな顔になった。
「可愛らしい乙女達にと」
「つまり、純潔であることは、精霊王妃陛下のお墨付きがあるわけか」
「はい、そうです」
「そのような指輪を賜ったことはあまり喧伝すべきではないが、そのお言葉は広まった方がよいな」
「そのような仕事は、こちらの得意技ですわ」
「奥様、婚約が成立しましたら、是非、お願いします」
「分かりましたわ。それに、この話が広まれば、オルクはあんな見かけだが、意外と紳士的なのだなとなりそうですわ」
「それはありがたい話ですが、オルクも人間と同じでいろんな者がおります」
「そうなのか」
「実際、姫君を襲おうとしたオルクがおります」
「ま、大丈夫だったのですか」と言う、奥様の顔は真っ青である。
「はい、グラウス、前の頭だった者ですが、この者が撃退しました」
「よかった」
「オルクしだいということか」
「しかし、あのような山の中では、姫君達も大変でしょうね」
「ただ、一緒に生活させてもらうと、私達とは全然違う存在だと思います」
「王国の上流階級の生活は典雅だと聞きますわ」
「はい、妻も、娘も大喜びです」
「お主の妻は我が家で行儀見習いをしていたのだったな」
「ヴァルツフート男爵の娘ですわ」
「そういえば、お主の娘と同年配では」
「クロエ姫ともう一人、あれの娘が、皆、十五歳です」
「ということは、アダルベルトの二つ下か」
「あなた、丁度いいかもしれませんね」
「まさか、アダルベルト様のお相手にフレデグントを」
「もちろん、本人の承諾がなければ進めるわけにもいかんが、そうなったとしても反対はしないぞ」
「あの子も特に決まった相手がいるわけでもないようですし、悪くない縁だと思いますわ」
「ありがとうございます」
「突然、春がやってきたような感じですね」
「そのためにも、一度、連れていく必要があるな」
「いや、姫君達に懸想されても困りますので、しばらくは」
「そうか、では頃合いを見計らって」
「そのような機会を与えていただき、篤く感謝します」
「よい、よい」
「無骨な我が家と比較すること自体がおかしいのですが、愛くるしい姫君達のお陰で、花開いたようです」
「そこへ国境を越えてスンドゥガウと繋がったなら、文化の導入もできるわけだな」
「もちろん、交易もですわね」
「グステの欲しがっていた王国の瀟洒な品も手に入るわけだ」
「私だけではありませんわ。帝国中の女性が目の色を変えますわ」
「こちら側は、超えることができない山脈が横たわっているのに、あちらは、平らな地を南に下がるだけで共和国です」
「あの辺りでは、南の海から風が吹くと聞きますわ」
「その先は、アラビアやインドと繋がっています」
「つまり、国境を越えて、世界中の富に手が届くかもしれないわけだ」
「そのような利益が得られるかもしれませんのに、単なる騎士であるファーレンドルフ家がどう噂されようがかまわないと思うわけです」
「しかも、精霊王妃陛下のお墨付きがついている」
「シュヴァーベン公は激怒されるでしょうな」
「そりゃな。横取りされたと陛下に訴えるぐらいはするだろうな」
「もともと、辺境伯家は公爵領の出ですから、余計ですわ」
「魔の森でということは、辺境伯閣下の領内ですし」
「下手人が見つからないと紛糾しそうですね」
「ただ、姫君達はファーレンドルフが保護しており、グレンツァッハに住みたいと言われている」
「ならば、今から輿入れをやり直すのですかということになるわけか」
「それで、何とかなるでしょうか」
「分からんが、今のところ、証言できるものは姫君達だけですからね」




