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9 子爵夫妻との会話(その四)

 「オルク達は、ファーレンドルフ家の盟友だと思っております」

 「盟友…、そこまで言うのか」

 「はい、まず、彼等と知り合えたことにより、我等、ファーレンドルフ家の者達は、精霊王陛下の加護をいただきました」

 「そう言えば、オルクの受洗には、陛下が御臨席になられたとか」

 「オルクが受洗って」

 「はい、奥様、本来は子供達の受洗式を、大精霊様の御主導で行うことになっていました」

 「大精霊様の御主導でというだけでも、あり得ないことだが」

 「はい、そうなのですが、その件は後で」

 「そうだな、それで」

 「陛下が、御臨席になられたのは、オルクが自らの意志で教会に参ろうと言ったからなのです」

 「オルクが、教会へ…自分から行こうと言ったのですか」

 「大精霊アリエル様が、精霊教会の教義は、全ての魂ある者が仲よく暮らすことだと仰られたからです」

 「…ちょっと待って下さい。それでは、オルクが人間と同じように魂を持っているように聞こえますが」

 「その通りだよ、グステ。大精霊様は、オルクは魂を持つ人族の一つであると断言されたのだよ」

 「…」

 「大丈夫か」

 「多分…、大丈夫です」

 「休むか」

 「いえ、大きなショックを受けましたが、大精霊様が仰ることを疑うわけにはいきません」

 「そうすると、オーガにも魂があるとか」

 「それはないようですが、陛下は次のように仰られました」

 「聞こう」と、夫妻は威儀を正した。

 「我が子らよ。今回、人間だけでなく、オルク達に洗礼を与えられたことは我が喜びである。人間以外の者達に我が祝福を与えられることが久しくなかったからである。本来、魂を持つ者は等しく我が子である。しかしながら、互いに憎み合い、甚だしきは互いに傷つけ合い、殺し合う者まで出てきた」

 父上は、頭の中で何度も反芻した言葉を繰り返した。

 「そして、最後に、我が名を呼ばれました」

 夫妻は瞠目した。

 「驚きと喜びで動けずにおりましたところ、大精霊様が面を上げるように命じられました。恐る恐る顔をあげますと、空中に陛下が光り輝く姿で浮かんでおられました。そして、御自ら、私に声をかけて下さったのです」

 父上は、法悦に身を震わせながら、言葉をつないだ。

 「オルクとの共存共栄に舵を取られたことは、我が望みにかなうものである。そこで、汝とその家族、領民、ならびにこの場にいるすべての人とオルクに我が祝福と加護を与える。

 「大精霊様が直答を許されたので、ありがたき幸せと、伝えさせていただきました。そして、次のように締めくくられました

 「魂ある者が互いに手を取り合い、平和な世界が建設されるように、アメン」

 「アメン」と、夫妻が唱和した。

 「ふーむ」と、子爵が長い沈黙を破った。

 「直接、お話をいただいただけでなく、名前を呼ばれ、直答を許されたと」

 「はい」

 「稀有な体験をしたものだのう」

 「しかし、話はそれで終わりませんでした」

 「ほう」

 「家に戻って祝宴を開いていたところ、陛下御夫妻が御来臨されたのです」

 「…」

 「陛下は楽しそうに、私達に声をかけられ、乾杯をされた後に立ち去られたのですが、驚くべきことに」

 「驚くべきことに…」

 「こちらを、私達に下賜されたのです」と言って、指に嵌った指輪を見せた。

 「状態異常を防ぐ指輪だそうです」

 「状態異常?」

 「病気だとか、呪いだとかを防いでくれるそうです」

 「つまり、ファーレンドルフは、陛下の加護と下賜された指輪により、誰にも害されない身となったというのか」

 「不老不死になったわけではないので、老化は防げないそうですが」

 「不老不死になったら神様の領域だから当然だが、とんでもない幸運だの」

 「はい、ただ困ったこともあります」

 「何だ」

 「酒に酔えないのです」

 夫妻は、一瞬、呆然としたが、やがて笑い出した。

 「毒見役もできないわけですね」

 「お主、ファーレンドルフの皮を被った誰かだろう」

 「いえ、まさしくファーレンドルフですので、皮を剥がれるのは遠慮したいです」

 「グステ、あの謹厳実直そのもののファーレンドルフはどこへ行ったと思う」

 「いいじゃないですか、こちらのほうが楽しそうで」

 「それは、そうだな」

 「はい、皮を剥がれなくてよかったのですが」

 「まだ、言っている」

 「はい、すいません」

 「うむ、続けてくれ」

 「はい、オルクを盟友と呼ぶ理由の第二は、我々に多大の利益を与えてくれるからです」

 「街道をグレンツァッハ経由でミドルブルクに繋げるだけでも大きいし、労働力として期待できるからな」

 「もちろん、代価は必要だと思うのですが、彼等は何も欲しがらないのです」

 「それは何かを探すしかないだろうな」

 「では、ミドルブルクにお連れしましょうか」

 「いや、商人を派遣しよう」

 「ただ、いつまでも領都に行かせないわけにも」

 「その間に、辺境伯閣下と相談して、この一帯だけでもオルクを民として受け入れられるようにする」

 「そこまでしていただけるのですか」


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