7 子爵夫妻との会話(その二)
「ファーレンドルフ、儂から話そう」
「閣下、ありがとうございます」
「グステ、内緒だが、実はこの二人はオルクなのだ」
「今、何と仰いました」
「オルクだと」
「そんな馬鹿なことが」
「そうだ、そんな馬鹿なことが起きているのだ」
「人間とオルクは敵同士で、分かりあえるわけがありません」
「誰が決めた」
「誰が決めたって、あなた、当たり前のことですわ」
「しかし、大精霊様は違うと言われたそうだ」
「…大精霊様って」と、奥方は胸の上で手で信仰の二字を切りながら呟くように言われた。
「アリエル様だ」
「アリエル様…」
「何でも、その者たちは、アリエル様の主導で受洗したそうだ」
「大精霊様の主導で…」
「おい、大丈夫か」
「よろしければ、こちらで直しますが」
「頼む」
「あら、私、どうしていたのでしょうか」
「気絶していた」
「それは、失礼しました」
「ファーレンドルフが直した」
「あら、お手数をおかけしましたですが、どこで、そんな力を手に入れたの」
「加護をいただいたそうだ」
「どなたのでしょうか」
「精霊王陛下のだそうだ」
「まぁ」と、奥様が口を押える。
「話を続けてもらってもいいか」
「あなたは、よく、そんな平常心で聞かれますね」
「さっきまで、話を聞きながら絶叫し続けていた」
「そうだったのね」
「では、続けてくれ」
「その前にこちらを」
「あら、これは何ですの」
「ビールでございます」
「冷たいわ」
「そのほうがおいしいそうだ」
「それにしても、綺麗なビールね」
「儂にもくれ」
「どうぞ」
「ファーレンドルフに」
「子爵御夫妻に」
「乾杯」
「…」
「どうだ」
「これがビールだとしたら、今までのは泥水ですわ」
「大麦とホップと水だけで作っています」
「ホップって、何ですか」
「奥様、薬草でございます」
「しかし、グルート*の中にそんなのがありましたか」
「ありません」
「ということは、こいつを混ぜることを知っているのは」
「閣下夫妻と私達だけです」
「どこに生えている」
「種がございます」
「栽培方法は」
「調べてあります」
「調べただと」
「第三の案件です」
「なるほど。で、この辺りでも栽培できるのか」
「おそらく」
「おそらくか」
「栽培できなくても、魔法で増やします」
「そんな魔法があるのか」
「常人には無理ですが」
「第三か」
「そうです」
「それなら仕方がない」と言いながら、妻のほうを見る。
「私だって、口にしたらいけないことぐらい分かりますわ」
「グステ、ありがとう」
奥様は微笑んで、「席を外したほうがいいのなら」と言った。
「いや、君が秘密を守るのは知っている」
「分かったわ」
「それで、いくらだ」
「他ならぬ子爵様から何かを貰おうなどとは思っておりません」
「見返りは何だ」
「流通が円滑になることを祈っております」
「道の整備だな」
「ねぇ、あなた」
「グステ、何だい」
「道の整備は最優先でお願い」
「そのビールに魅せられたのだろう」
「はい、恥ずかしながら」
「天上のネクタルもかくやと思うほどだからな」
「お褒めに預かり恐縮ですが、こちらもどうぞ」
「あら、何ですの」
「ハンブルク風ステーキだそうです」
「ハンブルクって、あの北のほうにある」
「そうでございますが、先に断っておきたいことがございます」
「何でしょうか」
「実は、こちらの肉は、本来なら奥様が食べられるような部位の肉ではございません」
「そのようなものを食わす気か」
「閣下、失礼の段は深くお詫び申し上げますが、とりあえず食していただけませんか」
「ファーレンドルフがそこまで言うのなら、仕方がないの」
「ありがとうございます」
「では、貰おうか」
「何ですか、この柔らかさは」
「しかも、肉汁がこんなにも」
「喜んでいただいて幸いでありますが、もっと恐ろしいものを用意してあります」
「許す」
「生姜とニンニクを使っておりますが」
「おいしいのだろう」
「美味でございます」
「では、出せ」
「分かりました」
「凄い匂いだの」
「やめられますか」
「そんなわけはないだろう」
「では、どうぞ」
「私もいただいてよろしいのでしょうか」
「もちろんでございます」
「うん、うまい」
「おいしいですわね」
「何という料理か」
「そのままでございます。猪肉の生姜とニンニク炒めだそうです」
「もう、ないのか」
「次の料理がございます」
「何だ、この色は」
「黄色いのがいいのだそうです」
「何という料理だ」
「豚カツという料理です」
「豚か」
「猪肉で代用しております」
「そうか、試してみよう」
「ぜひ」
「他のもおいしいが、これはいいの」
「私もいただいきますわ」
「ぜひとも」
「ありがとうございます」
「どうでしょうか」
「素晴らしいですわ」
「ありがとうございます」
「ねぇ、あなた」
「街道の建設なら急がせる」
「いっそ、移住しませんか」
*グルートGrutは味付け、香り付けや、腐敗防止の目的でビールに入れる香料のこと。




