5 グレンツァッハのビールは世界一
「では、二番目に参りますか」
「いや、その前に、食事をしよう」
「御相伴にあずかれるので」
「とはいえ、大したものもでないがな」
「それならば、珍しい食べ物を持ってきました」
「魔の森の魔物の肉か」
「オーガの肉ならそこにありますが、凍っております」
「では、何だ」
「レオン、頼む」と言うと、空中に浮かんだ牛の角の杯を、子爵のほうに差し出した。
「とりあえず一杯」
「どこから取り出した」
「魔法でございます」
「ファーレンドルフにそのような才があったとは知らなかったな」
「私も知りませんでした」
「ないのに使えるのか」
「それも三番目に申します」
「何だか、その三番目を聞きたいのか、どうかが分からなくなってきたぞ」
「どうしてございますか」
「それを聞いてしまうと、もう引き返せないことが起きるような気がするのだ」
「さすがでございます」
「本当にか」
「はい、今までやってきたことは何だったのだと思うようになります」
「そうか、では、遠慮なくもらおうか」
「ぜひ、お楽しみ下さい」
「おい、なぜ、杯が冷たいのだ」
「冷やしてありますので」
「魔法でか」
「はい」
「何のために」
「そちらのほうがおいしいのです」
「そうか、では、三番目に乾杯」
「乾杯」
「これは何だ」
「ビールです」
「どこの世界にこんなビールがあるか」
「あちらの世界ですが、おいしくないですか」
「うますぎる。こんなものを飲んだら、我が家のビールなど出せんわ」
「それはよかったです」
「いや、よくない。これから、他のビールが飲めなくなる」
「定期的に送りますが」
「そうか、それはありがたい」
「ただ、そうなると、道が…」
「分かった、分かった。しかし、本当にファーレンドルフか」
「そうでございます」
「儂には、どこかの商人がファーレンドルフの皮を被っているように思えてきたぞ」
「そういえば、出入りの商人を紹介してもらえないでしょうか」
「ファーレンドルフと呼び捨てに出来るのも、今のうちだけかも知れぬの」
「どうしてでしょうか」
「儂の金を使って街道を整備させ、商人を呼び寄せたいのだろう」
「可能であれば」
「そして、このビールや、魔物の魔石や肉や毛皮を扱わせようというわけだな」
「他にも売り物を考えております」
「しかも、森を突き抜けている街道をグレンツァッハに繋げて近道をさせようというわけだ」
「この町の南門が正門になるように努力します」
「誰だ、こんな知恵をファーレンドルフにつけたのは」
「私だって、少しぐらい考えます」
「エーゴン」
「はい」
「今日は、ファーレンドルフが持ってきた料理を食べる」
「そうしますと、今日の料理は」
「皆に下げ渡す」
「ありがとうございます」
「エーゴン」
「ファーレンドルフ様、何か」
「食前酒はいらぬが、前菜は残しておいてくれ」
「分かりました」
「うちは野菜が取れないからな」
「なるほど」
「代わりに、これをやる」
「ありがとうございます。失礼ながら、これは何という料理でございますか」
「空揚げという当地の料理だ。三十人前ある」
「深く感謝申し上げます」
「ビールもやろう」
「おい、さっきのビールか」
「そうでございます」
「こいつらにはもったいないだろう」
「閣下には、もっとおいしい酒を飲んでもらいます」
「エーゴン」
「はい」
「よかったの」
「ありがとうございます」
「うちのマティアスにもやってくれ」
「分かりました」
「あと、頼みがある」
「何でもお申し出下さい」
「うちのビールはおいしいと宣伝しておいてくれ」
「全員に、責任をもって宣伝をするように申しておきます」
「宣伝料は払う」
「誠心誠意、やらせてもらいます」
「あんなにやっていいのか」
「先行投資ですので」
「ファーレンドルフ閣下と儂が呼ばざるをえなくなるまで、それほど時間はないな」
「そのようなことは」
「ある」と、子爵は言い切った。




