4 子爵との会話(その二)
「しかし、獣が受洗してどうするのだろう」
「大精霊様の仰るには、オルクは魂を持つ人族であり、オーガは単なる魔物だそうです」
「そうなのか」
「大精霊様のお言葉を疑われますか」
「いや、そんなわけはないが」
「実は、私も驚きました」
「そうか、ファーレンドルフもか」
「はい」
「そりゃ、そうだ、犬や猫に魂があるわけないように、オルクにあるわけがないと思うからの」
「そうでもないようです」
「何、犬や猫にも魂があるというのか」
「その点については三番目のところで申します」
「うーむ、早くその三番目を聞きたくなったぞ。一番目は以上か」
「実は、まだ続きがあります」
「何だ」
「この二人のオルクは親子ですが、人語を解します」
「そんな馬鹿な」
「ファーレンドルフは嘘をつかないのでは」
「お主は、本当にファーレンドルフか」
「本当にファーレンドルフです」
「ファーレンドルフがそんな当意即妙の返答をするか」
「するのです。最近、生活が変わりましたから」
「ファーレンドルフがそうなるとは、いかなる生活だ」
「楽しいです。毎日、驚いてばかりですが」
「ふむ、そういえば、以前は苦虫を噛み潰したような顔だったのが、随分と雰囲気が変わったな」
「閣下が失礼な奴と思われなければよろしいのですが」
「メッツナーやシュトラウスを配下に従えているのだ。多少のことは目をつぶらざるを得ないが、ファーレンドルフがどれだけ羽目を外そうとも、あの二人にはなれまい」
「いや、分かりませんよ」
「恐ろしいことを言うようになったの」
「それはともかくとして、グラウスと保護している王国の姫君の侍女との間の子がフェルナンです」
「犯されたというわけか」
「はい、そうですが、二人の姫君は純潔のままです」
「さすがにそれはないだろう」
「そのあり得ないことがオルクの世界で起きたのですが、それは二番目のほうの話です」
「分かった」
「そして、このオーガを倒したのはフェルナンです」
「そうか、見事な腕前だな。あれだけ綺麗なオーガの死体を見たのは初めてだ。猪の牙で刺したと言っていたが、一撃で倒したのか」
「それどころか、ほとんど一人で五頭を倒しました」
「さすがに、それは無理だろう」
「普通のオルクならそうでしょう」
「それほどまでに特別なのか」
「その者からこれを貰いました」
「何だこれは」
「オーガの魔石です」
「魔石」
「魔物の心臓の代わりに入っている石です」
「それぐらいは知っているが、普通は親指ほどではないか」
「はい」
「しかし、これは赤ん坊の頭ぐらいあるぞ」
「これが五つあります」
「五つ、一つでもひと財産だと思うが」
「倒すついでに、取り出していったそうです」
「オーガなど片手間で倒せるというわけか」
「しかも、百を数える間もないぐらいでした」
「…とんでもない勇の者だの」
「その上、生まれてまだ半年ほどだそうです」
「オルクの成長は早いのか」
「かなり早いようですが、それでも私の胸位の身長しかありません」
「末恐ろしいな」
「敵に回したらとんでもありませんが、味方にすれば、これほど心強いことはないと思います」
「なるほど、一考の価値はあるか」
「その上」
「まだ、あるのか」
「これで一番目は最後にします」
「では言え」
「この者の知識は私等より高いです」
「オルクがか」
「そうです」
「何故」
「その点については三番目の件で申しますが、きちんと交渉ができたのはそのせいです」
「そうか、一番目についてはこれで終わりか」
「はい」
そこへ、「お館様」と、エーゴンが顔を出した。
「試合はどうなった」
「試合になりませんでした」
「そうか、どちらが勝った」
「ですから、試合になりません」
「どういうことだ」
「はい、隊長が打ち込む棒が一つも当たりません」
「かわすのか」
「いや、当たらないのです」
「かわしもしないのなら、当たるだろうが」
「はい、当たるはずが、勝手に逸れたり、跳ね返ったりするのです」
「ファーレンドルフ」
「はい」
「悪いが、殴らせてくれ」
「御意」
直後に打ち出された子爵の拳は、何かの壁にでもあたったかのように跳ね返された。
「これは何だ」と、拳を抑えながら子爵が叫ぶように言った。
エーゴンが、薬を取りに行こうとする。
しかし、その前に青い光がして、「何だ、痛みが引いたぞ」と、子爵が叫ぶ。
「何だ、何だと言われても、こんな力があるとは、私も存じませんでした」
「精霊王陛下の御加護か」
「多分そうですが、閣下の拳を直したのは別の力です」
「ふむ、第三のあれか」
「はい、そうです」
「骨折したかもしれない拳を一瞬で治すのか」
「そのようですね」
「つまり、戦い方が一変する」
「それは、どうでしょう」
「どうしてだ」
「この者が戦を好まぬからです」
子爵は沈黙した。




