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3 子爵との会話(その一)

 待つこともなく、レリヒ子爵が入ってきたので、父上が立ち上がる。子爵は、小柄な、赤っぽい髪の、目つきの鋭い男である。年の頃は、父上より少し若いぐらいか。

 いきなり、「ファーレンドルフ、あれは(まこと)か」と、挨拶もなしに子爵が言いながら席についた。

 「私が嘘を書くとでも」

 「謹厳実直の塊にして、ヴェストマルク辺境伯領の範となる騎士ブルクハルト・フォン・ファーレンドルフが、冗談を書いてきたと言うのなら、それはそれで珍重すべきことだが、本当に真なのだな」

 「私の言葉を信用できないのでしたら」

 「まあ、待て。お主が冗談を言える性格でないというのは分かっている。だからこそ、確認をしたのだ。これが、メッツナーやシュトラウスの言うことなら一顧だにしないし、笑って手紙を破り捨てて、領地を取り上げる」

 「で、確認の結果は」

 「まだ確認中だが、その前に座るがよい」

 「ありがとうございます、遠慮なく座らせていただきます」

 「それで、言っておきたいことはあるか」

 「三つございます」

 「随分とあるな。まあよい、聞いてやるから言ってみるがよい」

 「ありがたき幸せ」

 「そこで、きちんと礼を述べるところが本物のファーレンドルフだな」

 「本物も偽物もございません。ブルクハルト・フォン・ファーレンドルフはただ一人です」

 「ますますもって本物だな。肩に鳥を、それは剥製か、そのようなものを載せてくるから、つい疑ってしまったが」

 「その件については、三番目に申したいと思っております」

 「おい、待て。その鳥は本物か。今、首が動いたぞ」

 「その件については、三番目に申します」

 「うむ、分かった。もう口出しはせぬから、座れ」

 「ありがとうございます」

 「…」

 「まず、牽いてきた荷車にオーガの死体が置いてあります」

 「オーガだと」

 「オーガでございます」

 「あのオーガか」

 「あのオーガです」

 「あの騎士十人が取り囲んでようやく倒せるというオーガか」

 「そのオーガです」

 「エーゴン、ファーレンドルフの荷車からオーガの死体を持ってこい」

 「大きいし、重たいですし、凍っていますので、こちらに持ってくるのは無理だと思いますが」

 「何、そうか。エーゴン、持ってこなくてもよい。儂がそちらに行く」

 「分かりました」と、庭のほうで家宰(エーゴン)が返事をする。

 連れだって、庭に行き、荷車を覗き込むなり、子爵は「何だこれは」と声を上げた。

 「オーガでございます。凍っておりますが」

 「それは分かる。しかし、これは大きすぎる。この爪だけでも、儂の手ほどもあるではないか」

 「魔の森では、普通より少し大きい程度です」

 「そうか、それにしてもどこに傷があるのだ。どうやって倒したのだ」

 「こちらです」

 「うん、この胸の傷か。これしか見当たらないようだが、他はどこにある」

 「ありません」

 「一撃か…。物凄い腕前だな」

 「はい」

 「しかし、これは剣でも槍の痕でもないな」

 「牙です」

 「牙、人間ではないのか」

 「オルクですが、猪の牙を短剣のように使っていました」

 「そうか、帰順したという」

 「帰順したのではなく、友好関係にあります。オルク達と私達には上下関係はありません」

 「しかし、魔の森の通行権と道路の建設権を得、わずかな毛皮だけでオルクが狩った獣を手に入れられるというのは、圧倒的にこちらに有利ではないか」

 「それは、現時点で、オルク側に欲しいものがなかっただけで、立場は対等です」

 「では、こちら側に有利なままであるようにしろ」

 「それはどうなるかは分かりません」

 「強力とはいえ、オルクではないか。いかようにも言いくるめられるだろうが」

 「閣下、衷心から申し上げますが、その考えはお捨てになられたほうがよろしいかと思います」

 「なぜだ」

 「年長のほうが前の頭でグラウス、若いほうが今の頭でフェルナンと申しますが」

 「ちょっと待て、オルクに人間と同じ名前があるのか」

 「あります。しかも、彼等は洗礼を受けています」

 「受洗したというのか」

 「はい、昨日、グレンツァッハの教会で行いました」

 「村の神父が行ったのか」と、レリヒ子爵が嘲るような笑い声を立てる。

 「いえ、精霊王夫妻の臨席下に大精霊アリエル様の執行により、我が子等とともに」

 「…」

 「なお、その際、参列者全員が精霊王陛下のお言葉を賜り、さらには祝福と加護を頂戴しました」

 「祝福と加護だと」

 「はい」

 「精霊王陛下の」

 「はい」

 「オルクもか」

 「ならびにこの場にいるすべての人とオルクにと仰られましたので、受洗しなかったオルクもいただいたのでは」

 「今日、お前が連れてきた男もか」

 「マティアスなら、その場におりました」

 「その者の腕前は」

 「単なる村人ですが、兵士として動員できるように、棒術の訓練ぐらいは受けたはずです」

 「強いのか」

 「そのような報告は受けておりません」

 「エーゴン」

 「はい」

 「ファーレンドルフと一緒にきた男の棒術の能力を調べてこい」

 「誰かと戦わせますか」

 「カルステンとやらせろ」

 「隊長とですか」

 「そうだ」

 「分かりました。すぐに探します」

 「俺は部屋に戻る」と言い放つと、(きびす)を返した。


このレリヒ子爵と父上の会話が好きです。

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