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2 ミドルブルク

 ミドルブルクの南門は、小さく、みすぼらしかった。この門は、ホイドルフを別とすると、グレンツァッハにしか通じていないから当然である。ホイドルフは寒村だし、グレンツァッハはさらに小さい。その上、そこから先は行き止まりである。したがって、門があるのが不思議なぐらいである。当然、そこにある家も、粗末なものである。

 マティアスが到着を知らせるために屋敷に走っていったので、驢馬の意識を乗っ取って荷車を引く。街道の周りの家が徐々に大きく、立派になっていく。もっとも、領都といっても、ミドルブルクはそれほど大きな街ではないそうだ。

 ただ、東西方向をつなぐ街道が市中を貫通しており、その周辺だけは宿屋や飯屋が何軒か立ち並んでいる。夕刻の近づく中、宿や食事を求める人々がいて、賑やかである。

 しかし、中世ヨーロッパ初期の状況としては、これは、あり得ない景色である。というのは、巡礼が流行し、十字軍が登場するまで、街道などというものは、古代ローマが建設したままの姿で放置されていたからである。そして、それらの事象が生じたのは十二、三世紀なのである。

 しかも、キリスト教の要素を省いた中世ヨーロッパ初期の世界であるのなら、巡礼はともかくとして、十字軍はあり得ない。アリエルの説明によると、この世界には精霊教会しかなく、宗教戦争が起こる要素がないからである。

 したがって、これらの人々が何を目的にして移動しているのかというのは、よく分からない。というのは、当時のヨーロッパは森に覆われており、その中に町や都市が点在していたからである。そして、相互の交流はほとんどなかったからである。

 このため、経済は自給自足が基本であり、危険を冒して旅していたのは、一部のギルド、たとえば、フリー・メーソンで有名な石工職人のギルドの構成員ぐらいだったが、それとて十四世紀である。当然、この時代には、宿屋も飯屋も存在しない。その代わり、たまに一夜の宿を求める人がいると、珍しい話が聞けるというので大いに歓待されたようであるが、これは日本も同様である。

 したがって、中世ヨーロッパ、それも初期のほうの、今のドイツなどという地域は、ほとんど記録が残っていない。まして、キリスト教の要素のない世界など、想像のしようもない。したがって、リアリティーなど、筆者に求められても困るわけである。

 そういう中、子爵の屋敷は、城壁の北側の高台に接していて、ミドルブルクの街を見下ろしていた。そして、驚くべきことに、屋敷は城郭であった。家のネットで調べたところ、この町に城はあったが、十一世紀の築城である。したがって、自分の時代認識が間違っているのかとも思ったが、着ている服は中世初期である。

 城は少し赤みのある白っぽい石で造られており、折から、少し傾いてきた太陽に照らされていた。要塞と言ってもよいかもしれないぐらい、頑丈そうな建物だった。

 街道は近くを通っており、そこから城に続く道が伸びている。一朝有事の際には、城の周囲に巡らされた石塀の門を閉ざすのだろうが、そう思って見ると、あちこちに防御施設らしいものが見える。

 時折、すれ違う馬車から驚きの声が挙がる。荷台のオーガを見たのだろう。そして、馬上で槍を持つ父上の騎士らしい風采を見て、凄いなという顔になる。

 後ろのほうで、「あの騎士はどなただ」という声がする。

 馬の耳に念仏とかいうが、この動物の耳は十個の筋肉により自由に動き、人間より低い音は聞きにくいが、四キロ・メートル先の音を聞き分けられるという、高い性能を持つ。驢馬も、それに準ずる。したがって、この程度の距離なら、自在に聞き取れるのである。

 「V字に城壁かな」と、父上の背中に縫い付けられた紋章を見ながらだと思うが、誰かが言っている。

 「だったら、ファーレンドルフ家かな」

 「ファーレンドルフって」

 「ほら、ホイドルフの向こうの」

 「ああ、あの山の中の何たらという村の」

 グレンツァッハです。

 「よく、そんな所の紋章など覚えていたな」

 「いやな、王国の言葉でvaleeっていうのが谷を意味するらしくって、Vallenって、そこから来ているらしいが、Vは谷を意味するらしい。それにdorf(村)だろ」

 えっ、うち、谷村さんなの。しかも、フランス系らしい。

 「そんな村に城壁などないだろう」

 「何でも当主がブルクハルトというらしく、burg(城)をつけたらしい」

 「そうなんだ、よく知っているな」

 「商売やっていると、いろんなことを知っていないといけないからな」

 そんな情報まで仕入れるって、どんな商売だろう。

 「しかし、あれ、オーガだろ、俺、初めて見たよ」

 「魔の森のそばだからな、あんな恐ろしいものがいるのだろう」

 「しかし、あんな山の中、ほとんど住んでいる人がいないだろう。兵隊なんてほとんどいないと思うが」

 「しかも、傷などほとんどなかったぞ」

 「どうやって、倒したんだ」

 そんな話を聞きながら、街道を外れて城へ続く道に入る。直前とはいえ、前触れが来ていたので、城門はすぐに開いた。前庭に荷車を駐めると、簡素な応接室に通される。


現時点で427pv。21日の297pvが最高記録でしたので、軽く更新しています。

御高覧いただき、感謝申し上げます。

                2024年7月25日 21時5分 筆者謹白

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