37 洗礼式
これで誕生篇は終了です。
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当初はコンピューターで見られている方が多かったのですが、今日は半数近くがスマートフォンでした。
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「ディアマイヤー神父、身を起こしてください」と、父上が話しかける。
「いや、大精霊様がお越しになるというのに、立ったままお迎えすることもできません」
「そうですか、ありがとう。しかし、その必要はないので立ち上がってください」
その男は、アリエルの声のするほうに顔を向けると、喜悦の表情で立ち上がり、頭を下げて、我々を迎え入れた。
中は、小さな教室ほどの礼拝場で十体ほどの神像が飾ってある。アリエルは、その前まで進むと、こちらを向き、木製のベンチに座るようにと言った。そして、ディアマイヤーさんを呼び寄せると、短く祈りを捧げた。次の瞬間、礼拝場に光があふれ、精霊王夫妻が入ってくるのが見えた。
「ただいまより、洗礼式を行います」とアリエルが宣言する。
そして、ディアマイヤーさんが洗礼簿を開くのを確かめてから、「名前を呼ばれた者から、前に」と言った。
神父が、「ヨアヒム並びにオベロン王陛下の加護を受けたるレオンハルト」と言ってから、急に言いよどむ。
「読めません」と、アリエルの質問にディアマイヤーさんが答える。
そして、洗礼簿を見たアリエルは、「レオン、こちらに来てください」と言った。
アグネスさんが、自分を抱いたまま前に出る。
洗礼簿を見ると、Leonhard 重行 生野 von Vallendorfと、漢字混じりで書かれてあった。ラテン文字の部分が流麗な筆記体で書かれている中、楷書で、しかも、なぜか明朝体で書かれている自分の名前には、違和感しか感じない。
「これは自分の世界の文字ですね」
「ということは、ヒルデもか」
そう言われて、下を見るとヨアヒム並びにオベロン王陛下の加護を受けたるBrünhilde 天音 生野 von Vallendorfとある。小井ではないということは、生まれてから訂正されたのだろう。
「はい、そうですね」
「神父に読み方を伝えてください」と言われたので、その通りにした後、アリエルに、誰が書いたのかと聞いてみる。
「我等、精霊の力だ」
「読めない文字でも書けるのですか」
「そうです」
「ヨアヒム並びにオベロン王陛下の加護を受けたるレオンハルト・重行・生野・フォン・ファーレンドルフ」と、ディアマイヤー神父が自分の名を読み上げる。
アグネスが、自分を大精霊の前に連れて行き、神父が石造りの素朴な洗礼盤の水を容器で掬って額にかける。数滴かと思っていたら、洗顔かと思うぐらいかけられた。
その後、ラウラさんに抱かれた天音さん、そして、グラウス、フェルナンが続く。もちろん、その二人にはヨアヒム並びにオベロン王陛下の加護を受けたるという言葉はなく、名前だけだったが、フェルナンの順番で前に呼ばれた。そして、フェルナン・独歩・水島と無事に読まれたのである。
「では、精霊王陛下より祝福を頂戴します」と、アリエルが言う。
オベロンが、頷き、その小さな体を空中に浮かべる。そして、手を振ると光があふれ、皆の者を包んでいく。
「我が子らよ。今回、人間だけでなく、オルク達に洗礼を与えられたことは我が喜びである。人間以外の者達に我が祝福を与えられることが久しくなかったからである。しかるに、今回、グラウス、フェルナン・独歩・水島の二名に与えることができた」
皆、俯いて聞き入っているが、天音さんは寝入っているように思う。
「本来、魂を持つ者は等しく我が子である。しかしながら、互いに憎み合い、甚だしきは互いに傷つけ合い、殺し合う者まで出てきた」
そのようになったのは誰のせいなのかと思う。祝福を与えることが久しくなかったということは、以前は、人間以外の者も教会に来ていたのかなと思う。
「ブルクハルト・フォン・ファーレンドルフ」
精霊王が父上の名を呼ぶ。しかし、父上は身じろぎもしない。
「面を上げてください」と、アリエルが言って、ようやく父上が顔を上げた。
「オルクとの共存共栄に舵を取られたことは、我が望みにかなうものである。そこで、汝とその家族、領民、ならびにこの場にいるすべての人とオルクに我が祝福と加護を与える」
「直答を許します」と、アリエルが言ったので、父上は「ありがたき幸せ」と、震える声で答えた。
もう一度、青い光が覆った。見上げると、教会までが立派になったように思う。実際、素通しだった窓には、素朴ながらガラスが嵌まっているよ。また、いろいろな物が新しくなり、彫刻などがより繊細に、立派になっている。
「魂ある者が互いに手を取り合い、平和な世界が建設されるように、アメン」
一呼吸置いて、聴衆が「アメン」と唱和し、二度、胸の前で平行に手を動かす。
自分と神の子の勝負に乗り気だったのは誰だと思いながらも、動かない赤ん坊の手を、心の中で自分も動かす。何となく、信者になったような気がする。
そして、アリエルが「以上で、洗礼式を終了します」と宣告した。
教会を出ると、どこまでも青空が広がっていた。
次回、ミドルブルク篇の投稿は21時頃を考えております。




