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36 信仰心

 家に戻って、朋香さんに「信じている宗教ってありますか」と聞くと、目を丸くされた。

 「ありませんわ、どうしてですの」

 「二人を教会に連れて行くと、向こうの父上が言われたのです」

 「なぜですか」

 「洗礼だそうです。生まれたら、すぐにでも教会で受けるのが普通だそうです」

 「受けないとまずいのでしょうね」

 「受洗が当たり前の世界ですから、領主の子供が受けないというのは考えられないようです」

 「それは、そうかもしれませんね」

 「しかも、うちは大精霊アリエルがいますからね」

 「精霊信仰なのですか」

 「精霊教会というぐらいですから」

 「アリエルさんを敬えと言われても友達みたいに付き合っているし、オベロンさんも近所のおじさんって感じですからね」と天音さんも、どうしようかという感じである。

 「ただ、精霊は媒介で、実際にはいろいろな神と人間を結ぶものだそうです」

 「ということは、多神教ですか」

 「多神教です。それも、ギリシャ神話とゲルマン神話に精霊信仰が混じったような多神教です」

 「では、日本の神を信仰していますと言っても通るの」

 「阿弥陀様を信仰していますと言っても、大丈夫だと思います」

 「じゃ、問題ないのじゃない」

 「天音が問題ないと言うのなら、私も文句はありませんわ」

 「何となく、教会って憧れるしね」

 というわけで、盛装の家族とともに教会にやってきた。といっても、小さな集落なので、言うほどの距離はない。小さな尖塔が申し訳程度についているだけの簡素な建物である。多分、あの尖塔に時刻を報せる鐘が入っているのだろう。グレンツァッハのような寒村には似つかわしいサイズの教会である。

 姫君達も教会に行くのならというわけで、同行しており、母上と姉君とともに、男どもの後について歩いている。コンスタンスさんや、アグネスさん、ラウラさんがそれに従っており、自分と天音さんは抱かれている関係で、その中である。そういう中で、天音さんは楽しそうに話している。チュニックだとか、ブリオーだといった言葉が聞こえてくるので、衣装のことでも話しているのだろうが、こちらにはよく分からない。

 服装ねと思って見ると、クロエ姫は青を、コリーナ姫はピンクを基調にしたロング・ドレスの上に白い外套を着ている。さすがに子爵の娘だけのことはあり、輿入れの衣装だったということもあって、立派なものである。多分、絹製である。これに対して、母上と姉君は、緑と青の簡素なロング・ドレスだが、かなり見劣りする。毛織物に、麻か何かだろう。

 アヘン戦争の前のイギリスの三角貿易で、インドから入ってくるまで、木綿はヨーロッパではあまり知られていなかった。したがって、この時代の人々が着ていたのはウールか、リネン、それに毛皮であり、絹を着られるのは上流階級のごく一部だけである。

 もっとも、三着持っていたら衣装持ちと言われた時代なので、精一杯着飾った結果であろう。しかし、外に出なかった自分にとって、服飾は関心の外であるし、十代の娘さん達のガールズ・トークにおっさんが参加しても迷惑だろう。

 というわけで辺りを見回したら、斜め前にフェルナンの頭があった。立派な体躯なのだが、身長が低いので、アグネスに抱かれた自分から見ると、丁度いい位置に来るのだ。

 「水島さんも、結局、洗礼を受けるんですね」と話しかけると、アグネスの横に並んでくれた。

 「いや、今更、教会と言われてもね。仕方なく来てしまったというのが正直なところだ」

 「それは、自分も同じですね。家には仏壇もあるし」

 「うちはないけど、何だか、違う気がして」

 「ま、日本人の場合、一つの宗教に決めたくないというのはありますね」

 「うん、というと」

 「結婚式は神道かキリスト教で、お葬式は仏教というような」

 「あっ、それか。正月は初詣で、お盆を迎えて、十二月はクリスマス祝ってみたいなのに慣れすぎてしまっているから」

 「アジアはだいたいそうですね」

 「そうなんですか」

 「中国でも、インドでも多神教で、神様がたくさんいますから、増えても問題がないんですが、日本ほど無茶苦茶な国は珍しいようです」

 「そうすると、一人や二人増えてもいいわけですか」

 「ところが、キリスト教でも、イスラム教でも、ユダヤ教でもそうですが、神は一柱しかいない」

 「増えたらあかんわけですね」

 「なのに、ここで入信すると、こちらの神を信じるということになってしまうからね」

 「そうかといって、今から、俺、やめますというわけにもいかないしね」

 「もっとも、あなたは精霊を信じますかと言われたら、目の前にいますからね」

 「そっか、目の前にいますね」と、前のほうを見る。

 そこには、列を先導する大精霊アリエルが、空中に浮かんでいるのが見える。

 「神を信じてもいないのに教会へ行ってもいいのか、まして、洗礼など受けていいのかとなると悩みますが、そこにいるわけですからね」

 「なら、自分が洗礼を受けてもいいんですね」

 「そういうことですね」

 「いや、生野さんのお陰で吹っ切れました」

 「いや、いや、こちらも考えをまとめることができました」といっている間に、教会に着いたようで、先頭がざわついている。

 前へ行くと、黒服の男性が平伏していた。


 午前中だけで200pvを超えました。初投稿から10日間でここまで来たことに感謝申し上げます。

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