6 初めての魔法
剣と魔法の国に転生するというのに、魔法を使えないなんて!
アリエルが本当に話すんだと言わんばかりに覗き込む。
「お前は、魔力もないし、魔法の知識もない」と、王が冷たく宣告する。
「そんな」
「たとえ、魔法を覚えられても、魔力がないから、威力は限定的だの」
「つまり、使えることは使える」と、声を絞り出す。
「頑張れば、コップ一杯程度の水なら出せるか」
しょぼい。
「ホントだ、魔力がない」と、信じられないという顔でアリエルが呟く。
魔力って、そんな簡単に他人に分かってしまうものなのか。アリエルが大精霊だからか。もし、一般人にも簡単に分かるようだったら、魔力ゼロ、ゴミかとか言われる未来しか想像できない。
「生活魔法すら使えないじゃない。どうやって、生きていくのかしら」
魔法が使えないって、そういうレヴェルの問題なのか。
「しかし、もし、こいつが魔法のないところから来たのだとしたら、説明はつくわけだ」
「つまり、私達と違う世界」ちょっと考えてから、アリエルが答える。
「そうだ」
「そりゃ、魔法のない世界から来たら、珍しくて嬉しくなるかもね」
自分は、お上りさんかと思うが、嬉しくなるってどういうことだ。
「絶対に、使えないのでしょうか」と、気を取り直して聞いてみる。
「外部の魔素を取り入れたら使えるかもしれないがな」
魔素だと!
「その魔素というものがあれば何とかなるのでしょうか」と、気を取り直して重大発言の真偽を聞いてみる。
「ただ、かの地は魔素が薄い」
「かの地って、転生先のことでしょうか!」
勇者になると聞いて、驚きのあまりに忘れかけていたが、転生先が決まっているのだった。さらなる重要情報に思わず声が大きくなる。二回目である。
「そうだ」
「もう、決まっているのですか」
「ヴェストマルク辺境伯領ファーレンドルフ家の三男だ」
ドイツっぽい名前だ。どんなところなのだろうかと思うが、それよりもっと聞きたいことがある。
「ありがとうございます。ところで、さっきの質問ですが、魔素があれば、魔法を使えるのでしょうか」
聞きながら、心拍数が上がる。ここで、魔法が使えるかどうかは人生の一大事である。
「多分な。余は魔力を持っているが、お前は持っていないからな」
「ということは、魔素の供給を受けられればよいのですね」と、さらに食い下がる。
「例がないので分からんが、多分、大丈夫だろう」
多分という言葉に、一抹の不安を感じる。
「それほど心配なら、ここでやってみるがよい」と王が言った途端に、何かが体の中に流れ込んでくる。
「これは?」
「水の魔法だ。水を出すぐらいの生活魔法なら、ここでも問題はないであろう」
「ウォーター」
誰もいない方向を向き、それを発動してみる。
少量の水が出て、床を濡らす。
「ここなら魔素が多いから、できるようだな」と、王が感想を述べる。
アリエルは、ああ、床を濡らしてというような顔である。
こちらは、魔法が発動できたということに感動して、何も話せない。
やばい、泣きそうだ。